事例4 プロデューサーの手腕発揮 欧州への輸出にも挑戦
エミリア・ロマーニャ・ラボラトリー(島根県大田市)
江戸時代前期までは日本最大の銀山として発展し、今ではその遺跡と文化的景観が世界遺産として登録されている石見(いわみ)銀山の集落に、ヨーロッパの食材の輸入・販売などを行っているエミリア・ロマーニャ・ラボラトリーはある。東京出身の大野雅之さんが、山間にあるこの地に来てビジネスを始めたのは平成22年、最初は古民家を使った小さなカフェだった。
24歳で本場イタリアのコーヒー販売権を取得
大野さんのカフェで取り扱っているコーヒーは、イタリア北部のモデナに本拠を置くコーヒーブランド「カフェ・カリアーリ」のもの。日本ではあまり知られていないが、100年以上の歴史を持ち、エスプレッソの本場イタリアでは、魅惑的な味わいでその名を知られた老舗である。頑(かたく)なに伝統的な製法にこだわり、大量生産しなかったため、イタリア国外に製品が出ることはほとんどなかったという。そのコーヒーの日本への輸入販売権を大野さんが取得したのが平成22年、24歳のときだった。
「大学を卒業したら海外と関わりを持つ会社を起こしたいという気持ちをずっと持っていました。商社に勤めていた父の仕事の関係で1歳から7歳までアメリカに住んでいて、小さいころから海外やビジネスを身近に感じていたということもあります。そして中学生のときに父と一緒にイタリアのモデナに行き、父の取引先だったカリアーリ家を初めて訪ねました。それからは自分一人でも行くようになり、カリアーリ家の方々にかわいがっていただいていたんです」
それ以来、大野さんはカフェ・カリアーリのコーヒーの味と伝統に魅了され、日本では販売されていなかったコーヒーを個人で輸入して家で飲んでいたという。
「起業を考えたとき、自分が好きなこのコーヒーを日本で売れたらと思い、私からカリアーリ家に提案して、日本での総代理店の権利をいただくことができました」
ここから、大野さんのビジネスが始まっていくことになる。
イタリアメーカーが認めた石見銀山の魅力
総代理店として会社を設立するにあたり、カリアーリ家には候補地をいくつか提案した。そこには、東京や京都、福岡といった大都市のほかに、大野さんの祖母の故郷で、幼いころからときどき来ていた石見銀山も入れていた。すると先方が選んだのは、意外にも石見銀山だった。
「都会よりも緑豊かなここが気に入ったようです。私の方は驚くとともに、怖さとワクワク感がありました。来たことはあっても、自分がここに住むというイメージが湧かなかったんです。でも、ここでビジネスを始めるのも面白いかなと思うようになりました。まだ若かったので、あまり深く考えていなかったんですね」
ちょうどそのころ石見銀山が世界遺産に登録されたばかりだった。この件は場所選定のうえで関係はなかったというが、訪れる観光客が増えており、追い風になった。祖母がかつて暮らしていた古民家を改装し、事務所兼カフェを開いた。コーヒーマシン1台とコーヒー豆を置いて、あとはテーブルとイスを並べただけのシンプルな店だったが、地元の人や観光客が立ち寄るようになっていった。
「特に近所の方々にはよくしていただきました。店に来ていただくだけでなく、夕飯をごちそうになったり、お酒をおごってもらったり、家に遊びに行ったり。その楽しさが大きかったです。もし東京で開業していたら、家賃も高いですし、おそらく1カ月でつぶれていたと思います。石見銀山だったからこそ、いろいろな方々に助けていただいて、やっていくことができたと思っています」
コーヒーの販売からFC事業 欧州食材の輸入へと拡大
カフェ経営とともに、大野さんは出身地である東京に出張して営業に回り、カフェやレストラン、ホテルなどコーヒー豆の卸先を増やしていった。「商品がいいので、売り込みにそれほど苦労はありませんでした。知り合いのお店やこだわりのあるお店では、割とすんなりと使っていただけるようになったり。ただ、欧州のものを輸入しているので物流コストがかかり、少量の商いでは利益が出ない。事業を大きくしていかないと難しいことも感じていました」
そこで昨年12月にはカフェ・カリアーリのFC店として福岡市にカーサ・デル・カフェ・カリアーリをオープン。イヴォ・コルシーニというチョコレートブランドの直営店も同じく福岡市で経営するようになり、FC事業への足掛かりもできてきた。またコーヒーの営業をしていくなかで、多くのレストランが他店との差別化を図るために、特徴のある商品を必要としていることを知った。そのため、欧州でさまざまなブランドから約20種類の食材を見つけ、その供給もこれから行っていくという。
「このような卸の拡大とFC事業以外に、今後は日本から欧州への輸出を手掛けていきます。欧州との輸出入のルートをつくるには労力が必要ですが、一度つくってしまえばいろいろな商材をさばけるようになる。今の時代、フットワークが軽ければ、本社が都会か田舎かはあまり重要ではないですね。コーヒーから始まった会社ですが、10年後には欧州との輸出入で外交官的な会社になりたいと思っています」
かつて石見銀山で採れた銀は、ポルトガルやオランダとの交易でも使われたという。その同じ場所で、欧州と日本の輸出入の橋渡しをしていく。地方からの新たな事業の発展に期待したい。
会社データ
社名:エミリア・ロマーニャ・ラボラトリー株式会社
所在地:島根県大田市大森町ハ46
電話:0854-89-0879
HP:http://caffecagliari.sakura.ne.jp/index.html
代表者:大野雅之 代表取締役
従業員:5人
※月刊石垣2016年11月号に掲載された記事です。
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