段ボールケースの製造から始まり1964年に設立した森紙器は、販促用POP、遊具や家具など、オリジナル紙製品の開発にも力を入れ、着実に事業を拡大してきた。その中でも異例のヒット商品が、「AED(自動体外式除細動器)収納ボックス」だ。軽い、持ち運びやすい、頑丈といった特徴が注目され、手堅い売れ行きが続いている。
自社で使うつもりで開発した商品がヒットへ
「AED(自動体外式除細動器)」とは、心臓発作などを起こして血液を全身に送り出す機能が失われた際、心臓に電気ショックを与えて機能を取り戻すための医療器具である。一般人でも使用できるので、駅や空港、企業や学校、公共施設やショッピングモールなど、主に人が集まる場所に設置されている。その専用ラックには、壁掛けタイプ、スタンドタイプなどさまざまな種類があるが、他の既存品と一線を画しているのが森紙器の開発した「AED収納ボックス」だ。
「まあ、スチール製が一般的ですから、そのつもりで持ち上げるとやけに軽いし、扉を開けると継ぎ目に段ボールの断面がむき出しになっているので、驚く人が多いですね」と同社社長の森勇一さんは茶目っ気たっぷりに説明する。つまり、段ボール製なのだ。
同商品を発案したのは、2016年4月。同社の従業員が就業中に心臓発作を起こしたことをきっかけにAEDを導入し、その後、専用ラックも購入しようとした。
「置き場所の都合でスタンドタイプを探したところ、どれも目が飛び出るほど高価で手が出ませんでした。こんなことならわが社でつくってしまおうと思ったんです」
最初は自社用に開発したものの、軽い、持ち運びやすい、頑丈という特性に「売ってほしい」という要望が相次ぎ、商品化するや「予想もしなかった」(森さん)ヒット商品となっている。
誰も持っていない印刷機を使ってオンリーワンを目指す
同社は1964年の設立後、段ボールケースの製造をメインに手掛けてきた。扱う商品の幅を広げ始めたのは99年、森さんが二代目社長に就任してからだ。特に販促用POPに着目し、自社で商品企画から製造までできる体制を整えようと、設計やデザインを担当する社員を雇った。
「当時は、うちのような段ボールメーカーはもとより、印刷、プラスチック加工、アクリル什器(じゅうき)製造など、いろいろな業種の会社がPOPに参入し、競合他社がひしめいている状態でした。その中で仕事を取るために、無茶な依頼でも『分かりました。何とかします』と引き受け、そこからどうつくるかを考えていましたね」
そんな営業が続く中、次第に「自社にしかできない強みを持たなければ、やがて淘汰される」という危機感を抱くようになる。そうして行き着いたのが、日本でまだ誰も使っていない機械でオリジナル製品をつくり、オンリーワンを目指すことだった。そこで森さんは2色印刷が一般的だった段ボール業界の先駆けとして、高精細6色印刷機を導入した。
「同業者からは『そんな高価な機械を入れてどうするんだ?』と冷ややかな目で見られました。でも、ニーズがなければつくってやろうというのが私の考え方です。そこで大手の印刷会社を回り、ニーズの掘り起こしをしました」
通常、段ボールでPOPを製作する場合、紙に印刷した後で段ボールに張り付ける(合紙)方法がとられる。しかし、6色印刷機は段ボールに直接印刷ができるため、合紙する手間が省け、コストを25~35%も削減できる。4色のカラー印刷より色が鮮やかで、しかも安くできるとあって、大手電機メーカー各社から商品パッケージ製作を受注できるようになった。
次に同社が着目したのが、スウェーデンで誕生した「Re︲board(リボード)」だ。段ボールを何重にも重ねて圧縮し、それを縦に裁断した高密度の段ボール板で、頑丈さに加え耐久性や耐湿性に優れている。これを活用してPOPのほか、迷路や滑り台といった子ども用遊具、家具などを次々と開発し、販路を広げていった。
商工会議所の情報発信力にうれしい大誤算
「AED収納ボックス」も、6色印刷機とリボードを活用して生まれた商品だ。一見しただけでは、段ボールでできているとは思えない仕上がりである。
「当社の出入り口に設置していたAED収納ボックスを、来社した草加商工会議所の職員が気付いて、『商工会議所で売りたい』とフェイスブックで紹介してくれたんですよ。『こんなもの売れないでしょ』と笑いながらOKしたのですが、それが多くの人の目に留まったようで、問い合わせが来るようになりました。最も驚いたのは、AEDを製造販売する日本光電工業さんから連絡をもらったことです。使い勝手の良さを評価してくれて、『AEDを買ったら、もれなくAED収納ボックスが付いてくる』というキャンペーンを張ってくれました」
スチール製商品の約10分の1という低価格に加え、形やサイズが自由にカスタマイズでき、オリジナルプリントもできるところが受け、大手企業から個人まで幅広く注文が舞い込むようになる。2017年には「草加モノづくりブランド認定製品」にも選ばれ、現在までの累計販売数が1万5000個に迫るヒット商品となった。
創業以来、「“Why not? Nothing is impossible”打つ手は無限の精神でお客さまのお役に立つこと」を企業理念に掲げてものづくりを実践してきた。そんな同社は、次にどのような展望を描いているのか。
「今後も新しい分野に切り込んでいこうと考えています。例えば、段ボールで真っ白な馬車をつくり、ブライダル業界に提案するとか。軽くて安いだけでなく環境にも優しいので、段ボールと親和性の低かった分野にも積極的にアピールしていきたい。もちろん、草加商工会議所にも販路開拓を手伝ってもらいます」と笑顔で語った。
会社データ
社名:森紙器株式会社
所在地:埼玉県草加市青柳2-11-43
電話:048-936-9321
代表者:森勇一 代表取締役社長
設立:1964年
従業員:118人(グループ会社含む)
※月刊石垣2019年4月号に掲載された記事です。
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