事例1 シニア専用ジムで介護する側の健康寿命を延ばす
エムダブルエス日高(群馬県高崎市)
会員の年齢を55歳以上としたシニア限定のスポーツジムが人気を集めている。群馬県高崎市で在宅介護支援事業や医療支援事業を行うエムダブルエス日高が運営する「シニアトレーニングジム」は、月会費は年金収入でも無理なく負担できる5000円(一般的なトレーニングジムの半額以下)に設定した。しかし、なぜシニア限定なのか。その理由は、ジムが「地域福祉交流センター 日高デイトレセンター」(通所介護施設)内に置かれていることにある。
自主性を引き出し自立支援につなげる
「次世代型デイサービス」を掲げる日高デイトレセンターは「旧態依然とした業態にイノベーションを起こす」ことを目指し、平成25年1月に開所した。社会経験が豊富な団塊の世代を意識してパソコン、書道、シミュレーションゴルフなど利用者の個性や趣味に対応できる多彩なレクリエーションを用意し、自主性を引き出し自立支援につなげる仕掛けを施した。また、手足の不自由な人の買い物とリハビリ支援のために地元スーパーとコラボした移動販売車を走らせ、タクシーの送迎により利用者満足度を向上させた。こうした取り組みの結果、社長の北嶋史誉さんは「群馬イノベーションアワード2013」大賞を受賞している。
利用者の満足度の高さは業績にも表れている。開所月の売上は1600万円。しかし、その半年後には2400万〜2500万円に増えて損益分岐点を超えた。現在は単月で3800万円程度を売り上げ、利益率も5〜7%を確保している。
「日高デイトレセンターのターゲットはデイサービスに通い続けたくない人です」と所長の栗原浩彰さんは意外なことを言う。「レスパイト(高齢者を在宅ケアしている家族を癒やす家族支援サービス)のために預けられるのではなく、元気を取り戻すために自分の意志でデイサービスに通う。リハビリに励み、最終的にはトレーニングジムに移ることを目指すというコンセプトでつくりました」。
もちろんジムの利用者のほとんどはデイサービスの利用経験の無い人たちだ。しかし健康には大いに関心を持っている。「デイサービスを利用している人の家族でつくる家族会の会合で、介護を担っている自分の体力が衰えたらどうなるのか、不安だという声を聞きました。高齢者を持つ家族の健康寿命を延ばすために何かできないかと考えた答えがシニアトレーニングジムでした」(栗原さん)。
会員の目的は体力維持
シニア会員は約230人、20歳以上が利用できるナイト会員(月会費3000円)は160人いる。シニアの利用は昼間が多いため、会社員の利用が見込める17時30分以降の時間帯でナイト会員を募り、若い層にも開放して稼働率を上げる工夫をしている。その結果、1日の利用者は100人程度と高い稼働率を誇る。シニア会員の男女比率は4対6だ。
「近隣の皆さんの利用が中心で、毎日通う方も多いですよ。入会資格は55歳以上ですが、昼間は時間が自由に使える60代、70代がほとんどです。ハードな運動をするというよりは、日常生活に支障が出ないように体力を維持しておきたい、将来デイサービスに行かなくて済むような体づくりをしたいという目的です。いくつかのコミュニティーもできており、ジム友達に会うことが目的という方もいますよ」とスポーツトレーナーの勝山裕希さんは話す。
日高デイトレセンターの2階にあるジムの延べ床面積は225㎡(ロッカーを含む)。小ぶりな分、トレーナーの目が届きやすく安全に配慮でき、トレーナーと利用者、あるいは利用者同士のコミュニケーションが取りやすい。
マシンは一般のジムで使用しているものと同じでランニングマシン4台、走行面に傾斜がつけられるウオーキングマシン3台、エアロバイク2台、リカンベントタイプと呼ばれる背もたれがあるエアロバイク2台、全身運動ができるクロストレーナー1台、筋力トレーニング用マシン7台(9種目)、他にストレッチエリアやダンベルエリアなどがある。
コミュニティーができると新入会員が疎外されたり、コミュニティー同士でいさかいが起こるのではないかという心配があるが「一般のジムで起こりがちなトラブルは、この2年間ありません」(勝山さん)。会員の意識の高さもあるのだろうが、トレーナーがきめ細かく目を配っていることも大きな要因だろう。しかし、そこに満足せず常に改善を考えている。
「数多くあるスポーツジムの中で、当所を選んでいただくために、ICT(情報通信技術)などを使ってジムの価値を分かりやすく伝える方法を常に考えています。例えば今日のトレーニング成果、1週間、1カ月通った結果を数値化して実感していただくというようなことです」(勝山さん)
集客のツールと位置付ける
日高デイトレセンター全体の課題としては、今年4月に迫る介護保険制度改正による売上の減少がある。要支援1、2の人を対象とした通所介護や訪問介護が介護保険の適用外となるためだ。
「対策として第2号被保険者(40〜64歳の特定疾病にかかっている人)や65〜70歳の従来型のデイサービスには行きたくないという利用者の獲得に努めたい。また資産を多重運用して固定費を案分するという目的で休館日(日曜)や早朝の時間帯を利用して収益を上げたいと思っています」(栗原さん)
系列の太田市にある太田デイトレセンターが中心となって導入する歩行支援機器アクシブ(名古屋工業大学と今仙技術研究所が共同開発)を使用したリハビリツアーのような新発想の企画も実現しそうだ。
「会社の理念は要介護の人は要支援を目指す、要支援の人は自立を目指す、自立した人はより健康にというもの。それを実行すると一人当たりから得る収入は減るのですが、それ以上にお客さまの数が増えればいい。ジムも単体で採算を取ることは難しいのですが、全体の枠組みの中で捉えれば必要な施設です」(栗原さん)
厚生労働省が推進する「健康日本21」の実現のためにも、シニアトレーニングジムの役割はこれからますます重要になる。
会社データ
社 名:株式会社エムダブルエス日高
住 所:群馬県高崎市日高町349(本社所在地)
電 話:027-362-0691
代表者:北嶋 史誉 代表取締役社長
従業員:800人
※月刊石垣2015年4月号に掲載された記事です。
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