アクティブシニアとは全国で約700万人いる団塊の世代を中心に、自分なりの価値観を持ち、年齢に関係なく仕事や趣味に非常に意欲的で、社会に対してもアクティブに行動するシニアのこと。彼らは、これまでの高齢者よりも活動的なため、消費傾向にも大きな変化が見られるという。今号は、アクティブシニアのニーズに対応すべく、いち早く動き出した企業の動きをレポートする。
総論 多様化するシニアの価値観をつかむことが「売れる」カギ
村田 裕之(むらた・ひろゆき)/村田アソシエイツ代表取締役
シニア市場が拡大を続けることは間違いなさそうだ。「平成26年版高齢社会白書」(内閣府)によると、わが国の総人口は平成25年10月1日現在、1億2730万人。これは、人口カーブのほぼ頂点に当たる。65歳以上の高齢者人口は過去最高の3190万人で、総人口に占める65歳以上人口の割合である高齢化率も過去最高の25・1%に達している。今後、総人口が減少していく中で高齢化率はさらに上昇。高齢者人口は「団塊の世代」(昭和22〜24年に生まれた人)が65歳以上となる今年は3395万人となり、その後も増加していくと見込まれている。これに伴いシニア市場もより一層大きくなり、当然のことながらこの市場でのビジネスチャンスも増えてくる。今回は、シニア市場に造詣が深い村田アソシエイツ代表取締役の村田裕之さんから話を聞いた。
消費行動を読み解け
拡大を続けるシニア市場だが、「シニア市場を一つのマス市場と見なすと判断を誤る」と、村田さんは指摘する。
「人は年齢を重ねるにつれてニーズが多様化するのです。団塊の世代の多くは高度成長期には同じような収入を得て同じような生活スタイルを送ってきた。だから大量生産・大量流通・大量販売が成立しましたが退職年齢になって、大きな塊がばらけてきたのです」
60歳で退職した人もいれば、62、63歳まで働いた人、いまだ現役の人など、その境遇はさまざまだ。そのため現在の収入には大きな違いがある。さらに個々の身の上に生じる「消費行動に大きな影響を及ぼす五つの変化」もばらばらである。五つの変化とは、「加齢による肉体の変化」「本人のライフステージの変化」「家族のライフステージの変化」「世代特有の嗜好性とその変化」「時代性の変化(流行・生活環境)」のこと。村田さんは高齢者への仲間入りを迎えた団塊の世代を、「団壊」の世代と呼んでいる。
「彼らは多様な小グループに再編されつつあります。シニアマーケットを『多様な顧客価値でくくられるミクロ市場の集合体』と解釈し、その価値が何なのかを見つけ出すことが成功の鍵となります」
シニアにとって消費の優先順位の高いものは、一般には不安、不満、不便の「不」の解消のための消費だという。その中でも「不安」に対する関心が高く、健康、経済、孤独の「3K」不安が代表的だ。「不」が生じる原因は需要側であるシニアと、供給側の企業の双方にある。シニア側の原因は先の「五つの変化」であり、企業側の原因は、シニアの変化に対応できていないためにある。
「対応できない企業は高度成長期に成功体験を持つ伝統的な企業に多く見られる」と村田さんは言う。特に経営トップが成功体験にとらわれていると変化を見逃し柔軟な対応ができなくなる。
飽和市場周辺が狙い目
では、具体的に、どのように「不」を見つけ出し、ビジネスに結び付ければいいのだろうか。村田さんはまず「飽和市場の周辺を見直す」ことを提案する。市場が飽和する原因の一つは、顧客が既存の商品やサービスに不満を持ち、リピーターが増えないため。その例として村田さんは女性を対象としたフィットネスクラブ市場の飽和状態に着目。平成15年、アメリカ生まれの女性専用フィットネスクラブ「カーブス」を日本に紹介した。
カーブススタッフは、中高年女性の不満に徹底的に耳を傾けた。寄せられた声は、「男性と一緒に運動することに抵抗がある」「男性に運動する姿を見られたくない」「男性が使った器具に汗が付いているのが嫌」「月額1万円の利用料金が高い」「自分が運動する姿を鏡で見たくない」「重りで負荷をかけるマシンは身体を痛める」といった内容だった。
これらの不満を徹底的につぶし、カーブスはスタッフを含めて全員女性、全てのプログラムが30分で終了、プール・シャワー・温浴設備を無くし、月額利用料金は5900円程度、運動する場所には鏡を設置しなかった。さらに女性でも無理なくトレーニングできるように、重りタイプよりも負荷が適度な油圧マシンを導入した。
こうした施策で中高年女性の不満を解消した結果、中高年女性を中心に会員を獲得し、店舗数は全国に1534店舗まで増加。会員は約67万人(27年2月時点)に達している。
提携戦略で「強み」を生かす
「不」の解消の他にも、切り口はあると、村田さんはアドバイスする。例えば、子どもや若者向けの商品がシニアに売れないかを考える。典型例がおむつ市場で、国内市場規模は24年に子ども用1390億円に対し、大人用1590億円と逆転した(ユニ・チャーム調べ)。おむつは乳幼児向け商品という発想にとらわれていると、ビジネスチャンスを失う。
シニアが子ども時代に親しんだモノのリバイバルも面白いという。タカラトミーでは、着せ替え人形の「リカちゃん」シリーズに、母方の祖母として花屋&カフェを経営する香山洋子を加えた。リカちゃんが昭和42年に誕生してから45年後というタイミングを選んだのは、リカちゃんで遊んだ女の子が祖母の世代になったからだという。
このようにシニア市場を攻略する方法はいろいろ考えられるが、中小企業が参入する場合、課題も多い。それは「よい企画が出てこない」「自社の商品・サービスでは差別化ができない」「既存のチャンネルではターゲット顧客にリーチできない」「ターゲット顧客に対する知名度が低い」といったことである。
そこで、村田さんは自社の弱点を補う「異業種企業との提携戦略」を提案する。
「自社の製品やサービスには自信があるものの、これまで個人顧客相手に直接ビジネスをしたことのない企業であれば、すでに多くの年配客を抱えている会員制組織などを提携相手に選ぶのです。そうすることでシニア市場参入の障壁が取り除かれ、自社の土俵の上で優位にライバル企業と戦うことができます」
人生経験が豊富で、目の肥えた、財布のひもが固いシニアたち。簡単に攻略できる相手ではないが、大きな可能性を秘めているのは間違いないだろう。
最新号を紙面で読める!