2018年初頭の世界経済を見回すと、主要な先進国も新興国もいずれも堅調な展開が続いている。特に、09年の半ばから上昇傾向が続いている米国経済は、依然として堅調な推移を示しており、世界経済を強力に支えている。米国では失業率の低下で個人消費がしっかりしていることに加えて、企業の設備投資意欲も盛り上がりを見せている。さらに、トランプ大統領の減税策の実施により、成長率が押し上げられることが予想される。当面、米国経済はしっかりした足取りをたどるだろう。また、世界第2位の経済規模を誇る中国経済も、今のところ底堅い展開を見せている。それに呼応して、欧州諸国、アジアなどの新興国の経済も明確に上昇基調をたどっている。
そうした好調な世界経済に牽引(けんいん)される格好で、わが国経済も好調な状況が続いている。国内の人手不足に対応した省力化投資の盛り上がりや海外の設備投資の拡大によって、半導体の製造装置など産業機械メーカーの受注は大きく伸びている。一部には、必要な部品の迅速な入手が難しい分野も出ているようだ。産業用機械の中にはわが国企業が優位性を持つ分野も多く、足元の好調さは当分続くと見られる。また、海外からの来訪客数も順調に伸びており、インバウンド消費も相応の上昇トレンドを見せている。堅調な実体経済を反映して、株価も相応のしっかりした足取りをたどっている。株価の上昇は“資産効果”を通して消費を刺激する可能性があり、人々の心理に無視できないプラスの効果が働くことが考えられる。
一方、わが国経済のリスク要因を考えると、最初に思い付くのは北朝鮮のミサイル発射などの地政学的リスクだ。北朝鮮の行動は読みにくく、実際に何が起きるか分からない。わが国は地理的に北朝鮮に近いこともあり、その影響は無視できない。北朝鮮の行動が予想外の展開を示す場合には、わが国や世界経済の足を引っ張ることも考えられる。もう一つ重要なリスクは、米国の景気減速の可能性だ。米国経済は09年の半ばから成長を続けており、既にその期間は8年を超えている。特に、周期の短い在庫調整のサイクルは、今年後半から19年にかけてやってくることも想定される。そのサイクルが米国の金融政策変更の時期に重なるようだと、米国経済の成長率が鈍化することも考えられる。また、足元で堅調な中国経済も、国内の不動産バブルの発生などを考えると、今後、どこかで減速する可能性が高まるだろう。そうしたリスク要因が現実味を帯びてくると、世界経済の成長率が低下することは避けられない。わが国経済も、やや調整局面を迎えることになるだろう。
わが国の景気の先行きに関しては、企業の給与引き上げの動きが一つの鍵を握るだろう。現在、わが国では、輸出を行う大手企業を中心に業績は好調だ。さらに、企業セクター全体でみると多額の内部留保資金を抱えていることもあり、政府は今年、3%の賃上げを目指している。今年の春闘でのしっかりした賃上げが実現し、それに刺激されて消費が伸びると、国内の要因による景気の好循環が実現する可能性もある。そうなると、景気回復のメリットが、大手輸出業などから広い範囲に波及することになる。それが、わが国経済にとって最も好ましいシナリオの一つだ。
そうしたシナリオの実現に、もう一つ必要な要素がある。それは、わが国経済の基礎的な実力を高めることだ。経済の実力を高めるためには、わが国の企業が、他国の企業ができないような新技術や新製品を開発すること、いわゆるイノベーションが大切だ。政府は、企業がイノベーションを実現しやすい環境を整えることに注力すべきだ。規制の緩和や制度改革などを通して、企業がイノベーションを実現するために背中を押すことが求められる。それができないと、長い目で見たわが国経済の実力が向上する見込みはない。どうしても海外経済に頼る景気回復しか望めなくなってしまうからだ。そのため、景気の良いときこそ痛みを伴う改革を実行してほしいものだ。
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