最近、わが国の隣人である中国が一段と難しい国になりつつある。中国は、わが国やベトナム、フィリピンなどと領有権紛争の火種を抱えている。今のところ同国の対外姿勢は驚くほど強硬で、他国との交渉余地や協調の気配は全く見られない。5月下旬には、自衛隊機と中国空軍の戦闘機が異常接近する事態も発生。13億人の国民を抱える同国の経済発展が、そうした強硬スタンスを下支えする要因になっているのだろう。
一方、同国には複雑な国内事情があることも無視できない。気が遠くなるような広大な国土の中に、約9割の人口を占める漢族のほか、ウイグル族やモンゴル族、チベット族など、政府が認定しているだけで55の少数民族を抱える。地方によっては言語はもちろん、人々の生活習慣や宗教なども異なっている。国民の経済状況も、われわれには想像が難しいほどの格差が存在するようだ。中国人の友人によると、「上海や北京などの大都市部と地方の農村部では、同じ国とは思えない光景が広がっている」という。
今までそうした複雑な事情が顕在化しなかった背景には、鄧小平時代の改革開放政策以降、高い経済成長を達成してきたことがあると見られる。改革開放政策とは、市場経済の仕組みを取り入れて経済の効率を高めると同時に、海外資本の導入などを通し、経済を外に向かって開放することだ。90年代に入って一時、社会主義的な経済体制に回帰する局面はあったものの、基本的に経済発展のプロセスが進展した。特に2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博もあって、中国経済は高い成長率を維持。これが人々の心理を豊かにし、不満の蓄積を防ぐ役目を果たしてきた。
ただ、高い成長率を謳歌してきた中国経済には見逃せない特徴があった。それは、成長のエンジン役が輸出と投資であることだ。安価な労働力を使って製品をつくり、それを欧米諸国に輸出して収益を上げるのが基本構造であり、そうした経済活動を支えていたのが多額の設備投資だった。そのメカニズムが機能しなくなった契機は、08年のリーマンショックだ。これによって輸出が大きく落ち込んだ。当時の政権は、4兆元(約65兆円)に上る景気対策を打って経済を下支えし、中国経済の一層の減速を回避した。
しかし、景気対策で経済を押し上げられるのはせいぜい3年だ。足元の中国経済の減速は明らかで、現在の習近平政権は、自らが抱える問題点を解消することを優先し、景気の減速を容認する姿勢を取り始めている。経済成長が減速すると、人々が享受できる富が減って不満が蓄積しやすくなり、その不満の矛先が共産党政権に向かうことが考えられる。
今後、中国経済が直面する最大の問題の一つは人口構成の歪みだ。70年代、中国政府は一人っ子政策を打ち出し、人為的に少子高齢化社会をつくり出してきた。これによって、「働き手=生産年齢人口」の割合はこれから低下する。そうなると賃金水準は上昇して、安価な労働力という優位性は消える。恐らく、2020年代の前半以降、その傾向は一段と顕著になるだろう。これから中国が技術力を鍛え、付加価値の高い分野で優位性を発揮しない限り、中国経済はジリ貧状況になることは避けられない。
中国経済に関して一つ確かなのは、今後、成長率が低下することだ。個人消費中心の経済構造への転換に加えて、「人口要因=生産年齢人口の低下」、さらには中国が抱える不動産バブルやシャドーバンキングなどの問題を考えると、中国経済はすでに高成長の段階を過ぎている。
注目すべきは、問題が顕在化するスピードとタイミングだ。これらが時間をかけて表面に出てくるのであれば、中国政府も対応が可能だろう。しかし、不動産バブルやシャドーバンキングなどを通じ過剰債務の問題が急速に悪化すると、悲観論者が指摘する〝チャイナリスク〟が現実のものになり、世界経済に大きな打撃を与えることになる。一方、中国政府が上手く政策対応できれば、中国発の世界経済の大混乱の懸念はそれほど大きくないだろう。
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