〝新春"企画第1弾として、中小企業が抱えるさまざまな問題を各社の状況に合わせ知恵を絞った「社内改革」によって解決し、業績を上げている企業の実例を紹介する。「働き方」「人材確保」「コスト削減」……といったどこの会社でも直面している問題を解決していった「社内改革」は、あなたの会社でも必ずできる!
事例1 機械化と人的技術の向上を図り電気量削減で生産性を高める
岩手モリヤ(岩手県久慈市)
海外生産が増えるアパレル業界の中で、岩手モリヤは社内一貫体制で高付加価値のある高級婦人服をつくり続けている。機械化と人的技術の向上を同時並行で進め、震災を機に大幅な光熱費削減にも成功した。〝アパレルの聖地〟と称される北岩手から、国内繊維業の未来を見据えたメード・イン・ジャパンの改革を進行中だ。
働きやすい環境の下スキルアップを後押し
高級婦人用のジャケットやスーツ、コートの縫製加工を手掛ける岩手モリヤは、東京で創業した「モリヤ洋裁」の久慈工場として1974年に誕生した。東京時代から縫製技術の優れた女性従業員に久慈市出身者が多く、結婚や出産を機に郷里に戻る傾向がある中、久慈市から企業誘致の話が舞い込み、迷うことなく工場進出に踏み切ったという。
「縫製業は労働集約型産業です。技術のある人、特に女性に長く働いてもらうための工夫は必須です」と88年の現地法人化を機に、代表取締役社長に就任した森奥信孝さんは説く。特に96年に新築移転した現工場になってから、その傾向に拍車をかけた。まずはより働きやすい職場づくりを考え、冬の雪道でも車通勤がスムーズにできる平地を選び、駐車場もゆったりと確保した。工場内は足への負担を軽減するためコンクリートの床上に厚さ約1㎝の無垢(むく)材を貼り、社員食堂もあえて人目を気にせずくつろげるコーナーを設けるなど、働く人目線の設計を随所に取り入れた。
また、技術向上は人材育成にありと、岩手県認定の夜間学校、モリヤ久慈洋裁高等職業訓練校を敷地内に開校したり、海外研修生・実習生を受け入れたりと、前向きに取り組んできた。
「中卒ではなく高卒の新卒者が増えてきて、訓練校は現地法人化した年に閉校し、外国からの受け入れも2005年に打ち切りました。技術を習得しても地元に残らず国に帰ってしまいますし、縫製技術は短期間で身に付くものではないと実感したからです」と森奥さん。
現在は、国家資格である婦人子供服製造技能士の習得を後押しし、業務中のOJTや受験勉強を支援。有資格者には月々3000円の資格手当の支給を実施している。その結果、全従業員の3分の1は有資格者で、メーカーからのニーズ以上の結果を出す〝モリヤ・クオリティー〟の推進力になっている。
人の経験やテクニック勘には頼らない
だが、優れた縫製技術は〝人〟だけの力ではない。岩手モリヤでは最新鋭の設備投資も積極的に行っている。
「現地法人化する前から新工場建設を想定し、繊維業の先進国であるイタリアに何度も視察に行きました。日本とは業界の仕組みが違うことを踏まえつつ、最新設備の必要性を学び、国内生産、それも完全内製化の工場づくりを目指しました」と力説する。
そして、国内はおろかイタリアでも目にすることがほとんどない生地の収縮率を調べるための生地試験室や、生地をリラックスさせるためのスポンジングマシンなどの導入を決めた。
「原反はカンカンに巻き取られた状態で工場に届きます。同じ素材でも色が違うと収縮率も違うのです。イタリアでは緩く原反が巻かれているのでスポンジングマシンがない工場ばかりでしたが、日本だからこそ必要だと感じました」
さらにイタリアの工場で目にしたハンガーシステムも導入した。これは縫製ライン上の製品移動を全てハンガーにかけて行うもので、シワをつくらず高品質な製品づくりに大きく貢献している。
こうした思い切った設備投資と卓越した職人技との相乗効果で、原反の入荷から裁断、縫製、製品の出荷までを最短3日で行い、縫い上がりからなら2時間以内という短サイクルを可能にした。
「短サイクルはおまけでついてきた利点で、狙いはシワをつくらない縫製工程の構築です。人の経験、勘、テクニックに頼らない高品質の安定供給を実現しました。これならベテランがいない日、退職後も仕上がりのムラができず、社内にもノウハウが蓄積されます」と森奥さん。こうした企業努力が信頼につながり、手掛ける高級婦人服の中には有名海外ブランドも名を連ね、国内外で高い評価を得るまでに至っている。
電気使用量を半分カット、IT、IoTも果敢に導入
大幅なコストカットも業績好調の一端を担う。それは2011年の東日本大震災を機に始まった。工場も従業員も無事だったが、ライフラインが止まり、1週間操業できず、震災後も高級品の買い控えなどの影響で約1カ月半分の仕事が滞ってしまう。その間、雇用調整助成金制度を活用したが、売り上げはみるみる下がり、約2年間赤字が続いた。それでも足りなくなると自身の生命保険の解約返戻金を従業員の給与に充てた。だが、震災前から激しくなりつつあった価格競争が追い打ちをかけるように加速し、人材育成、設備投資に次ぐ新たな社内改革を迫られた。
そこで、森奥さんが着目したのが使用電力だ。冬場の暖房効率を上げるために、窓を二重サッシにし、輻射(ふくしゃ)熱によって体の芯から温まるパネルヒーターを導入する。工場内の照明を全てLEDに切り替え、消費電力のかさむ大型設備も、より省エネ効果の高い最新機器へと更新した。二つあった縫製棟を1棟に集約し、残った1棟を機械置き場にするなど徹底した消費電力の削減を図った。震災前の10年と17年を比べると、電気使用量は約52%になった。電気料金にすると、基本料金の値上げなどがあったものの、約1500万円分の削減に成功。使用電力の削減分は従業員の賞与として還元してモチベーションアップにつなげた。まだまだ削減の余地はあると、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の改善にも取り組んで、省エネと生産効率の高い工場へとスリムアップした。
そして経営が安定すると、再び〝攻め〟の改革を進めた。IT技術も業界の中でいち早く導入し、17年には約6000万円をかけて生産設備のIoT(モノのインターネット)化を図った。
「資金調達はものづくり補助金を活用しました。IoT化により、3次元ソフトに原反の伸縮率を入力し型紙データを作成、そのデータを機械が自動的に読み取って生地をリラックスさせ、裁断します。これで作業時間と人員を約25%削減でき、削減した人員を縫製工程に増員することで生産効率が上がりました」
その縫製工程でも、膨大にあった紙の仕様書をタブレット端末に切り替え、仕様書を探したり整理する手間を減らしている。従業員の個々の縫製時間を計測するなど、技術力とともに生産性向上にも日々磨きをかけている。
従業員の9割が女性育児と仕事の両立を図る
社内改革は一度やったら終わりではなく、日々気付いた点を改め、必要とあれば思い切った設備投資もする。高品質、生産性、少量多品種の対応など求められる多角的なニーズに、誠実かつ柔軟に応える体制を整え、同社の強みとしていった。
そしてその中核となる女性従業員たちの働きやすさへの配慮にも余念がない。従業員の9割が地元の女性で、育児休業制度や子育て支援制度に加え、18年には小学校3年生までの子どもがいる従業員は終業時間から20分以内に退社するという残業免除を義務化した。
「女性が一番喜ぶと思い、トイレも温水洗浄便座にしました」と笑顔で語る森奥さん。離職率も低く18年からは70歳まで雇用期間を延長し、経験を積んだ優れた人材が長く働ける職場づくりの改革にも、手を緩めることはない。
「縫製業は久慈市をはじめとした北岩手の基幹産業です。しかし、震災前から若手人材が県外に流出していて、震災後も歯止めはかかっていません。地元学卒者を積極的に採用していますが、縫製のまちとしての認知度は若い世代ほど低いのが現状です」
こうした状況を改善するべく、県からの後押しもあって一般社団法人北いわてアパレル産業振興会を設立して代表理事も務めるなど〝社外〟の取り組みも活発だ。「北いわて学生デザインファッションショー」の開催や、地元縫製会社に勤務する女性従業員による「北いわて仕立て屋女子会」で企業の枠を超えたスキルアップ、企業間の連携強化も図るなど、地場産業のブランド化、地域雇用増加を狙う。こうした活動が社内改革とリンクし、相乗効果を上げているようだ。
会社データ
社名:岩手モリヤ株式会社
所在地:岩手県久慈市夏井町大崎13-3-3
電話:0194-53-5327
HP:https://www.ginga.or.jp/iwatemoriya/
代表者:森奥信孝 代表取締役社長
従業員:87人
※月刊石垣2019年1月号に掲載された記事です。
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