今号は、事業承継を機に、経営体制の刷新と新素材加工への挑戦で事業を発展させた事例をご紹介します。
ワンマン経営から脱却し体制を根本から見直す
埼玉県熊谷市に「伊東製作所」という金属加工会社があります。汎用エンジン部品の多面加工や偏芯加工など難易度の高い技術を得意としています。かつては主要取引先が自動車メーカーなど2社のみで、業績は安定していても特定企業への依存度の高さが懸念材料でした。社長の伊東孝浩さんは経営者の父から事業承継を打診され、4年前に取締役に就任。単に継ぐだけでは意味がないと考え、直ちに抜本的なテコ入れを図りました。
最初に着手したのは、先代のワンマン的な体制から「衆知を集める」経営へのシフトです。「皆の知恵を結集して会社のかじ取りをしたい」との思いからでした。その一環として、社外取締役(専務)に堀安吉城さんを迎え入れました。堀安さんは川崎市(神奈川県)の「きらり」という企業で中小製造業の人材育成・派遣業を営む現役の経営者。第三者の視点で自社の経営に諌言してほしいと考えたのです。さらに社内の各部門からリーダーを選出し、部門横断制の会議によって重要案件を議論する体制に切り替えていきます。
また、〝2年後の仕事〟を取ることを目標にしました。取引先は大手ながら、そこへの依存度が高い現状では、先方が海外移転すれば売上は激減します。自社が海外に追随しなくても存在価値を高められる方策を探りました。
自社の強みを生かしながら新たな分野を開拓
着目したのは新しい素材、マグネシウム加工への挑戦でした。自動車は燃費向上や環境対策から軽量化が図られており、素材の一部としてマグネシウムの採用が進み始めていたからです。
従来、同社が手掛けてきたのはアルミや鉄の加工が中心。地元でもマグネシウムを取り扱う企業はなく、「将来への新たな布石に」との狙いでした。
ただし、マグネシウムは可燃性が高く、火災の恐れがあるため、慎重な取り扱いが必要です。この点は自動車メーカーとの長年の取引で鍛えられた品質管理力や現場の3S(整理・整頓・清掃)などの強さが生かされ、厳重な取り扱いが実現されています。これらが奏功し、他業種からの取引打診や素材の検査依頼が増え始めているといいます。
事業承継は、従来の社内のしがらみから脱却し、社内体制の刷新や新たな事業分野への絶好の機会となります。そうした可能性を感じ取れる事例です。
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