今号は、経営の経験がないOLが地元商店街で小売店を立ち上げ、試行錯誤しながら奮闘している事例をご紹介します。
マーケティング不足から創業早々に苦戦
山形県酒田市に「千尋草」という和雑貨の店があります。店主の梅津志保さんは市内で働いていましたが、一念発起し創業を目指しました。商材として選んだのは「着物」。きもの学院の勤務経験もあり、比較的なじみのある商品だったからです。手入れに不安を持つ初心者にも配慮し、「洗える着物」を中心とした品揃えにしました。
近年は郊外化が進む同地では、市が空洞化防止策として開業者への家賃の一部補助を導入。梅津さんはこの制度を利用して平成23年12月に開業します。しかし、立地は市内でも有数の繁華街だったものの、平日の日中は人通りも少なく、予想売上を下回る日々が続きました。また、車社会のため「着物で外出する機会がない」という女性たちの本音も聞こえてきました。
当初の見込み違いから苦戦を強いられた梅津さんでしたが、その後、二つの転機が訪れました。一つは、偶然仕入れた〝猫の雑貨〟が売れたこと。自身が4匹も飼うほどの大の猫好きで、気に入った猫雑貨をたまたま仕入れただけだったのですが、これが猫好きの客の心の琴線に触れたのです。梅津さんの〝目利き〟による猫雑貨は、次第にお店の目玉商品となっていきました。現在は着物ではなく、「猫好きを幸せにする店」という新しいストアコンセプトで愛好家たちを引き付けています。
偶然訪れた転機が店を輝かせるヒントに
もう一つの転機は、店内を利用した三味線教室でした。津軽三味線の師範免状を持つ梅津さんは店内の小上がりを利用し、完全個人指導の稽古を始めたのです。あるとき、常連客から「稽古の間は店のドアを開放してみたら」との提案がありました。昔のようなにぎわいが見られなくなった商店街で、店から漏れ聞こえる三味線の音色は新鮮な響きとなり、つられて来店する客も増えていったのです。
創業当初は、取り立てて強みや特徴のなかった同店ですが、日々の試行錯誤を通して、セールスポイントが明確化されていきました。経営の知識不足を痛感した梅津さんは現在、商店街の前向きな店主たちと自主的な経営勉強会を開催、互いの店の魅力度アップに努めています。創業率の低迷や地元商店街の衰退が地域経済の大きな課題となる中で、梅津さんの取り組みは微細なものかもしれません。しかし、こうした小さな取り組みの蓄積や波及が、地域経済のカンフル剤となっていくはずです。
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