事例2 「ふくしまで笑おう」をビジョンに楽しく人材の育成を進める
アポロガス(福島県福島市)
ガスや電気などのエネルギー関連事業を手掛けるアポログループは、「ふくしまで笑おう」を創立100周年まで共有するビジョンに掲げている。暮らしのインフラを供給するだけではなく、そこで暮らす人たちが明るく元気に過ごせるようにしたい。そんな〝元気エネルギー供給企業〟として社内外にユニークな輪を広げている。
「三ツ星駅前食堂」のような存在を目指す
アポロガスが展開する事業は多彩だ。社名にあるガスを筆頭に、電気や水道などのライフラインの供給のほか、太陽光発電システムや水素ステーション、新電力など再生エネルギーにも力を入れている。さらに光通信、新築やリフォームまで手掛けるなど、暮らし全体をサポートできるのが、他社にない強みだ。
「ガス、電気、リフォーム……、どの事業も競合他社がいますし、東日本大震災のあった福島は、人口減少が急速に進んでいます。新規顧客の獲得ではなく、出会えたお客さまをいかに大切にしていくかが課題です。プロパンガスの供給をきっかけに、リフォームの相談を受けたり、太陽光発電を設置したりするなど、多角的にサポートしていくことに注力しています」
そう語るのは今年5月20日に代表取締役に就任した相良元章さんだ。暮らしのインフラにおいて「アポロに電話すれば大丈夫」という発想を地元に定着させたい。そのためには、社員に会社の進む道を分かりやく伝え、共有する必要があると、こう言い換えた。
「三ツ星駅前食堂」。和洋中とメニューが豊富で、ボリューム満点、おなかが空いたら気軽に立ち寄れる敷居の低さ、それでいて〝三ツ星〟を冠する質の高さを誇る。そんな食堂のようなスタンスを確立したいというのだ。
「一流シェフが腕を振るい、接客サービスも素晴らしい。そんな食堂のスタッフは、なんでもこなせる高いスキルが必要です。そのためには人材育成が肝であり、その足掛かりにつくったのがこれです」 そう言って、見せてくれたのが社員手帳だ。手帳後半の経営理念をまとめたページは文字だらけではなく、ポップなイラストが大きく、文字は必要最小限というカジュアルなデザインで、ウイットに富んでいる。
「2015年にデザインを一新してから、愛用する社員が急増しました」とほほ笑む。
新入社員は一人残らずラジオ局のDJになる
人材育成を進めるにあたり、経営理念も一新した。福島の明るい未来を目指し、地域に貢献できる社員を育成するため、「ふくしまで笑おう」を掲げた。仕事の現場でも判断に迷った時の指針として「それって笑える? それって楽しい?」「それって夢ある? 夢与えられる?」など六つの「アポロジャッジ」を定めた。
「笑いの戦略」「笑いのコミットメント」など、ビジネスモデルを平易な言葉で、図解して楽しく伝える。ビジョンという名の会社の夢を社員が共有するのに、手帳は最適なツールというわけだ。
そして社員研修も実にユニークだ。「当初は社員がドン引きしました」と苦笑するのが、新入社員研修の一環として地元のFMラジオのDJを務めるというもの。週1回10分枠の番組を1年間担当する。
「人と話すのが苦手な社員ほど、苦痛以外の何ものでもありません。でも、成長が著しいのもそういう社員です。ラジオ局の方も熱心で、社会人としてのマナーを教えてくれたり、社員の相談相手になってくれたり。ラジオ局からオファーがあってから10年、社員が1年で大きく成長する姿を目の当たりにしてきました」
新入社員だけではなく、全社員を対象にした「アポロ大学」という名の研修もある。これも堅苦しい講座ではなく、立ち居振る舞いやコミュニケーション術、地元の蔵元を招いての日本酒講座など、楽しく学べるカリキュラムが並ぶ。
国内外の企業を〝勝手に〟表彰しよう
このアポロ大学から派生して、4年前から社員がざわついた取り組みが始まった。「アポロアワード」だ。これは国内外のユニークな取り組みをしている企業を〝勝手に〟選んで、〝勝手に〟表彰するというもの。ユニークなユニホーム、CM、社内ルール、社員研修の4部門があり、社員はチーム単位で部門に合致する企業を調べ、社内でプレゼンにかけ、各部門でグランプリに輝いた企業に、トロフィーを携えて訪問する。
「連絡を受けた企業からしたら、怪しい以外の何ものでもありません。取引があるわけでもない企業から、エントリーもしていないのに受賞したと言われるわけですから」と笑う相良さん。だが、このアワードで得た知識や経験を社内にフィードバックすることが真の狙いだ。異業種の企業を知ることで視野が広がり、プレゼン力、アポイント力、自主性が鍛えられる。チーム単位で取り組むため、自ずとチームワークやコミュニケーション力も高まるなど、社員一人一人の経験値は格段に上がる。
また、社内でも社員らが「ありがとう」と伝えたい社員に投票し、表彰する評価制度など、数値化されにくい社員の心掛けにも光を当てる。
「こうした取り組みが、業績の数値にはまだ反映されていませんが、社内間の交流は密になりました。人事制度も、給与やボーナス、退職金の見直しを始めたところです」と相良さん。
ガスや電気などのエネルギーは、他社と「質」そのものに差異がなく、価格競争は熾烈だ。だが、同社は人と人との〝縁〟に力点を置き、お客さまの立場になって提案できる人材が育っている。同社のファンを増やすブランド戦略や社会貢献など、地元が明るくなる話題を振りまき続ける。
会社データ
社名:株式会社アポロガス
所在地:福島県福島市飯坂町字八景6-17
電話:024-542-1122
代表者:相良元章 代表取締役 CEO
従業員:約80人(グループ全体)
HP:http://www.apollogas.co.jp/
※月刊石垣2019年7月号に掲載された記事です。
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