原発再稼働に対するアレルギー、再生可能エネルギーへの期待と相反する多くの問題点……。経済と環境に大きな損失を与えながらも国民に誤解され続けている日本のエネルギー問題の解決策とは何か。今号は有識者に話を伺いながら、こうした点について考える。
[対談]必要なエネルギーを確保するために今すべきこと
竹内 純子×堀 義人
2011年3月11日の福島原子力発電所事故以降、全国の原子力発電所が次々に停止。電力料金が大幅に値上がりし、企業は悲鳴を上げている。そこでグロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人さんと国際経済研究所理事・主席研究員の竹内純子さんに、3.11以降、何が起こっているのか、地球環境に対する最大のリスクは何なのか、原発が失われたことで経済にどのような影響を与えているのか、私たちは今、何をすべきなのかなどをテーマに議論してもらった。
再稼働の遅れは経済的な損失を膨らませる
――福島原発事故直後に堀さんはソフトバンクの孫正義さんと3時間を超える公開議論を行いました。それ以降、何か変化は感じていますか。
堀 福島原発事故以降、原子力発電の必要性を正しく理解している政治家、財界人、電力関係者が自由に声を上げることができなくなりました。再稼働を支持すれば「炎上」するからです。そんなとき、ツイッターを通じて反原発の立場だった孫さんと電力安定供給論者の僕がやりとりをして、それが「トコトン議論」(2011年8月5日に行われた3時間25分に及ぶ1対1の議論)に発展した。エネルギーを安全保障、経済、環境への影響、安定性、危険性などの側面で捉えて徹底的に議論しました。そのとき、僕が主張した再稼働の必要性は今でも正しいと思っているし、世の中も反対派が容認派に、容認派が賛成派に、というように、少しずつ変わってきたと感じています。しかし、その変化のスピードは遅く、再稼働に向けた政治的な動きも国民には見えにくい。まだ批判を恐れているからです。でも、その間に年間4兆円近い国富が海外に流出するとともに、電気料金の値上げに伴う経済的損失が生じ、国内投資が抑制されてしまった。このことはアベノミクスによって生まれた経済的効果のかなりの部分を打ち消しています。
竹内 原発事故後、再生可能エネルギーを推進する機運が高まりました。しかし、再エネは白、原発は黒というように色分けされてしまい、議論ではなく感情論になってしまいました。どちらもエネルギーをつくる手段でしかないことが理解されていませんでした。色分けをしたことで議論が停滞してしまったと思っています。そんな白か黒かの状況の中で、堀さんが声を上げてくださったことは心強かった。再稼働が遅れている原因は世論が本当に求めているからなのか、政治家や電力事業に携わっている人が過度にものを言わなくなったからなのか。私はその両方だと考えています。
堀 安倍政権の中枢にいる人はほぼ全員が原発の必要性を認識し、早期再稼働を目指していると思いますが、原子力規制委員会に働きかけることによる世論へのインパクトを読み切れず、ただ見守っている状態。その消極的な姿勢は日本にとって経済をはじめ、多くの面でマイナスとなっています。
竹内 付け加えれば地球温暖化の抑止にとってもマイナスです。
堀 そこでしっかりと議論して、再稼働に向けて世論を喚起する必要がある。「トコトン議論」によって分かったことは世論は変えられるということです。世論が変われば政治が動きやすくなります。
地球温暖化の進行こそ人類の最大のリスク
――しかし人々の「原発は怖い」という意識を変えるのは容易ではありません。
竹内 日本人は原発事故による〝認知バイアス〟に陥っているのかもしれません。以前は地球温暖化が最大のリスクとして認識されていましたが、放射能が最大のリスクに変わってしまった。地球温暖化防止を叫んでいた人が、今は反原発を叫び、火力発電頼みの現状を容認しています。福島の事故はあまりに衝撃的でしたので考えが変わるのは当然ですが、エネルギー政策は30年、40年先を見越して決めるべきであることが忘れられています。
堀 アル・ゴア元副大統領(地球温暖化防止に関する啓蒙活動が認められIPCCと共同でノーベル平和賞を受賞)と話して知ったことは、海面温度の上昇、ゲリラ豪雨、スーパー台風の発生といった温暖化の悪影響は僕の予想を超えた速度で進行していることでした。CO2の発生を少なくするためには火力発電の割合を抑える必要がある、という認識までは一致していたのですが、ゴアさんは太陽光が解決策になると言う。とたんに話に現実性が無くなってしまった。原発を廃止してしまってCO2を減らすことができるのか、科学的見地、経済的見地、現実性を見据えてしっかりと議論をする必要があると思います。IPCC(国際的な専門家で構成する気候変動に関する政府間パネル)で原発比率を上げるというような現実的な解決策を示さないと、地球温暖化問題は解決には向かわないでしょう。
竹内 IPCCの第5次評価報告書が公表されました。一部の報道機関は報告書を丁寧に読まずに都合の良いところだけを切り出して、原発を廃止しても再エネだけでやっていけると伝えました。しかし、それは数多くあるシナリオの一つにすぎません。基本的には原子力と再エネとCCS(カーボンキャプチャーストレージ=排ガスから大気中に放出されるCO2を回収、貯蔵する)という新しいテクノロジーなど、取り得る手段を全て使わなければならないと読まなくてはなりません。
堀 僕は「100の行動」(日本が進むべきビジョンを『100の行動計画』という具体的な形として描き出すプロジェクト)で国連の分担金をCO2の排出量で決めればよいのではないかと提言しました。排出量の多い国は分担金も増えるという考え方は、納得性が高いのではないでしょうか。
竹内 そこは意見が異なるところです。現状の国連はいわば〝町内会組織〟で、プライオリティが高いアジェンダは貧困撲滅や経済発展です。経済発展によってGDPが伸びればCO2排出量は増えてしまう。交渉参加国は基本的に、CO2削減の努力は他国にやらせて、自分は成長を取りたいわけですから、過度な期待はできないと思います。
堀 大胆で分かりやすい方法を打ち出したほうが、がらっと価値観が変わって、CO2をたくさん排出する発電を止める方向へ舵を切れるのではないでしょうか。
竹内 それはそうですね。CO2削減はビジネスベースで進めていくことが現実的なのだと思います。その最初の動き出しの部分を、国連なり政府が引っ張る。ただ、こうしたプロセスも必要ですが、産官学が思い切った発想をして動き出すことが必要です。その意味では堀さんのような大胆な考えが求められています。
早い段階での固定価格制度見直しは良い決断
――最近の動きで評価できる点はありますか。
堀 経済産業省が再エネの全量固定価格買い取り制度の抜本見直しに着手しました。これはよい動きと評価しています。現実的な議論によって適正な形に見直されることを望みます。
竹内 全量固定価格買取制度は消費者負担をコントロールできません。その上、日本は再エネ事業者に対してあまりに過保護な制度にしてしまいました。その歪みは一刻も早く是正すべきです。ドイツは2000年に同じ制度を導入し、再エネの導入量は飛躍的に拡大しましたが、電気料金の上昇に苦しんでいます。そして実は、CO2は削減できていません。再エネの不安定性を調整する火力発電の市場は自由化されているので、価格競争力のある石炭、中でも褐炭という品質の悪い石炭を使う発電所の稼働が増加し、CO2排出量は増加してしまっています。再エネの活用には送電線の整備が必要ですが、反対運動が多く必要とされる送電線の2割程度しかできていません。実は風力発電に対しても多くの反対があります。ドイツ国民は脱原発、脱火力、再エネを増やす「エネルギー転換政策」のコンセプトには賛成していますが、各論では反発もあるのです。日本では原発の停止による燃料費の増加に、再エネの賦課金も加わり、特に中小企業にとって負担が大きすぎます。再エネ導入策も、競争原理が働く仕組みとすべきです。
痛みを感じている産業界に声を上げてほしい
――今後のエネルギー政策はどう変わっていくのでしょう。
堀 原発事故で人々は恐怖を味わった。それを変えるためには「納得性」が必要です。再エネには買い取り価格が「高すぎる」という納得性があったから変えることができる。原発再稼働の納得性はCO2なのでしょうね。地球環境に対して最も怖いのは何かという議論を真剣にすべきです。これは世界規模で議論しなければ動かない。COP(気候変動枠組条約締約国会議)などで原発の必要性が冷静に議論されることを望みます。
竹内 3・11以前の電力のエネルギー比率は原子力25〜30%、LNG25%、石炭25%程度で、残りを石油と、水力を含めた再エネが賄っていました。オイルショックを経験して、電源の多様化を進めてきた成果です。安定供給・安全保障(Energy Security)、経済性(Economy)、環境性(Environment)。エネルギー政策が混乱している今だからこそ、3Eのバランスが必要だという基本を思い起こす必要があるでしょう。
堀 エネルギーに対する総合的な判断も必要ですね。原子力規制委員会という名の原子力規制庁だけではなく「エネルギー規制庁」を創設して地球環境全般を視野に入れて総合的に判断し規制すべきでしょう。放射線の影響は見えるけれど、経済に与えている影響は見えにくい。そこで産業界から声が上がることを期待しています。
竹内 原発が停止しても電気は供給されているではないかと言う人もいます。それは「茹でガエル」のように、自分の身の回りにあるリスクに気が付いていないだけなのです。電気料金上昇の痛みを最も強く感じているのが産業界の方々だと思うので、ぜひ一人ひとりが声を上げていただきたいと思います。
このままではビジネスの継続が危うくなる
清水印刷紙工株式会社 代表取締役社長 清水宏和
ここにきて、政府の「再生エネルギー固定価格買取制度(FIT)」の問題点が浮き彫りになっている。申請に当たっての認定の甘さ、電力会社の買取拒否などだ。現在のエネルギー政策は、中小企業にどんな影響を与えるのか。政府の電力需給検証小委員会の委員でもある清水印刷紙工の清水宏和社長に、中小企業の立場から問題点と展望を語ってもらった。
タダでできる節電には限界がある
東日本大震災以後の原子力発電所停止、それに伴う再生可能エネルギー推進のための賦課金、さらには円安による燃料費の高騰。これらは、私たちのような中小企業を「電気代高騰」という形で苦しめています。私の会社はUV印刷(紫外線硬化型インキによる印刷)という特殊印刷を扱っています。これは通常の印刷機に比べ2倍以上の電気代がかかります。燃料調整費も含めてですが、電気代は東日本大震災以降、大体3割は上がっています。
では、値上げを節電で乗り越えようとした場合、どんな方法があるのか? 方法は大きく分けて2つあるのではないかと思います。一つめは無償でできるもの。これは、こまめに電源をオフにするとか、コンプレッサーの圧を下げるとか、運用上の工夫でできるものです。もう一つは設備投資を伴うものです。例えば照明を全てLEDに換えることなどですね。ただ、電気代上昇分の2〜3割の節電をしようとすると、運用上の工夫ではとても追いつきません。つまり、節電はタダではできないということなのです。
電気代が上がる中、中小企業の製造現場はものすごいプレッシャーをかけられています。しかも、大企業と違って、円安のメリットを享受できないところがほとんどです。さらには、大企業からは毎年のように値下げの要求がくる。非常に厳しい状況です。
今、再エネ導入を急ぐ必要があるか?
こうした電気料金の負担増という視点から、現在のエネルギー政策の問題点を捉えていくと、とんでもない数字が出てきます。
ご存知のように、電気料金には再生可能エネルギーの普及を促すための賦課金が上乗せされています。FITでは、買取価格が高く、設置が容易な太陽光を中心に導入の拡大が進んでいます。既に政府による2030年の導入見通しの94%を達成している状況です。一方で、地熱などのより安価で安定的な電源の導入は伸び悩んでいます。ですから、現在0・75円/kW時の賦課金単価が急激に上がる可能性があるわけです。この9月に経産省が試算したものによると、現在、設備認定を受けている設備がすべて運転を開始した場合、賦課金の額が単年度で2兆7018億円(現在は6500億円)、1kW時の単価は3・12円にまでなるというものでした。
当然、認定の取り消しや事業断念などで、すべての設備が運転開始にまではいたらないとしても、エネルギー基本計画で再エネの比率21%を目指すということなら、将来、このくらいの負担は覚悟しなくてはなりません。皆さんの事業所の電力使用量に、毎時3・12円という額が上乗せされたらどうなるか。驚くべき金額が出てくると思います。
例えば、わが社では、年間に128万kWの電力を消費し、約3000万円の電気代を払っていますが、右の賦課金が現実のものとなると、年間に約400万円の負担増となってしまうのです。そこまでの負担を強いられながら、今、急いで無計画な再エネ導入の道へ進む意味がどこにあるのか、はっきりいって理解できません。
先に、「無計画な導入」と述べましたが、最大の問題点は「買取価格は決めているが、導入量の上限が決められていない」というところだと思います。しかも、太陽光の買取価格は1kW時で32円、風力のそれが22円となっています。発電コストが10円前後の火力や原子力より優遇されているのです。さらに、20年にわたってこの価格が保証されています。
また、認定基準のいい加減さも問題です。当初は、書類さえ揃っていれば認定が出されていたのです。初期投資を差し引いても、巨額の利益が得られる、そんなうまい話に乗り、たくさんのいわゆる〝素人〟が参入しました。ここに来て「買取拒否」や「認定取消」などが話題になっていますが、それもこれも政府の計画が甘かったためです。早急な制度の見直しが必要だと思います。
もう一度冷静に議論すべき
この夏、資源エネルギー庁の新エネルギー小委員会の視察でスペインとドイツを回ってきました。両国は、再エネ比率こそ引き上げることに成功していますが、多大な国民負担が発生しており決して成功しているとは思えません。しかも、欧州は日本と違い、電力の国際連携網が整備されています。ドイツで電気が足りなくなったら、フランスから原発の電気を買ってくればいいし、風力発電の電力が余ればポーランドに売ることもできるわけで、前提が違います。
スペインの電力会社は、全てが再エネ導入によるものというわけではないですが、この10年間で、約3兆6000億円の負債を抱えてしまいました。1kW時に換算すると、約12・46円の負債になります。しかも、固定価格買取制度を遡及してほごにしていて、多くの訴訟が起きている状況です。
ドイツにしても、昨年の再エネ比率は25%を達成しています。ドイツ人の「原発ゼロ」への覚悟は揺るぎがないので、再エネへの道を進んでいますが、賦課金は、1kW時で8・7円を国民が負担しています。ただ、調整用電力として火力に頼っているので、CO2排出量は逆に増えてきています。いずれにしても、両国とも多大な国民負担の上に再エネ化が進められているのです。
もともと、再エネの問題は、地球温暖化と相まって、環境問題から始まったことです。ところが、福島の原発事故があり、いつの間にか当初の目的が忘れられてしまいました。私はもう一度、冷静に日本のエネルギー問題を考えるべきだと思います。今年の5月、私は、宮城県・女川の原子力発電所を訪れ、安全対策の説明を受けました。あれだけ震源に近いにも関わらず、震災の翌日には、発電所機能の安全停止を実現。国際原子力機関(IAEA)からも注目されました。現在も、防潮堤のかさ上げ工事など、彼らは必死に安全性の向上に取り組んでいます。
私は、安全性が確認された原発はできるだけ早く再稼働させ、その上で、再生可能エネルギーへの道を探っていくべきだと思っています。今のままでは、中小企業の負担が過剰になることは目に見えています。固定価格買取から固定量買取への転換、再エネのバランス、系統接続や蓄電池設置費用の精査と開示など政府がやるべきことは山積しているのではないでしょうか。
原子力発電所の〝正常化〟へ向けたエネルギー生産地としての自負と新たな展望
柏崎商工会議所 会頭 西川正男
新潟県柏崎市と刈羽村にまたがって立地する東京電力柏崎刈羽原子力発電所には7基の原子炉(合計出力821万2000kW)が設置され、発電された電気はほぼ全量が首都圏に送電されていた。つまり最大の電気消費地である首都圏のための発電施設なのである。現在は福島第一原発事故を受けて定期検査および新規制基準適合性審査中のため全基が停止しており、再稼働のめどはたっていない。原発関連業務を請け負ってきた柏崎市の企業にとっては死活問題である。しかし、それは首都圏の企業にも、電気料金の値上がり、不安定な電力供給リスクという形で負の影響を与えている。
ロードマップを示してほしい
現在の柏崎市の企業は、どのような状況に置かれているのだろう。柏崎商工会議所の西川正男会頭は、「柏崎商工会議所は昭和44年に原発誘致決議をして以来、国のエネルギー政策に貢献し、原発の建設を地域開発と両立させようと、さまざまな問題を抱えながらも足並みを揃えて前進してきました。そうしたいきさつから、現在は原発に依存している企業が多く、原発が停止している現状は厳しいとしか言いようがないです」と窮状を説明する。同所が平成25年に行った原発関連の会員企業287社を対象にした調査では、およそ7割が「取引が減少した」と回答した。会員企業にとって残された時間はあまりない。
「東京電力も最大限の対策を講じていると理解しています。しかし、やはり事故の当事者でもあることから、私どもは東電に対しても安全関連の抜本的な改革を強く求めています。一方で柏崎刈羽原発の見学に来られた方は『ここまでの安全対策を講じているのか』という率直な感想を持たれるようです。原子力規制委員会の安全審査が済み、国の承諾が得られたら、すばやく正常化に向けて動いていただきたい」と、西川会頭は強く願う。
一方で国に対しては「正常化へ向けたロードマップを示してほしい」と要望する。先々の状況を見通すことができれば、経営者は、それに向けた手が打てるからだ。
「私たちは国のエネルギー政策に歩調を合わせて前進してきました。それが突然、停止を命じられた。安全性の確認のためなので停止に異議はありませんが、その後の方向が示されないために右を向く人、左を向く人、回れ右をする人というようにばらばらになってしまった。その隊列を立て直すのは商工会議所の仕事とはいえ、国が方向を示してくれなければ号令のかけようがありません」
商工会議所としては正常化を願い、時として原発に関する政策の方向が異なる国と市、村の間に入り、接着剤としての役割も果たしている。しかし、仮に正常化がかなわなくても、原発が存在することに変わりはない。また、正常化しても、いずれは原子炉が寿命を迎え、廃炉へ向けた取り組みを行わなければならない。どのプロセスを経るにせよ、地元の合意と協力、それを取りまとめる商工会議所の力が不可欠なのである。
地道な努力が実を結ぶ
商工会議所は業績悪化に苦しむ会員企業に対して最大限の支援を実施している。
「会員の最大の要望は『仕事が欲しい』ということですが、商工会議所が仕事を斡旋することはできません。そこで販路拡大の支援を続けており、今年は『第52回機械工業見本市金沢』や『諏訪圏工業メッセ2014』などに参加しました。また国や自治体の金融支援策を周知徹底したり、経営相談もしています」
また自治体などと協力して県外企業の誘致にも力を入れている。その一例を挙げよう。
新潟県は20年度末に経済産業省の「EV・PHVタウン」に選定された。これは電気自動車(EV)や電気とガソリンで走るPHV(プラグインハイブリッド)を早期普及・拡大させるための関連施策を集中的に実施するモデル地域のことである。新潟県が推した柏崎市(と刈羽村)は古くからエネルギー生産地域として発展していること、自動車部品メーカーやその下請け企業が多く普及の土壌が整っていることなどから、積極的に取り組み、「EVに関する勉強会も継続して行ってきた」という。こうした努力が東芝の新しいリチウムイオン電池工場の誘致という形で実を結んだのである。
生産地と消費地の相互理解が必要
西川会頭は折に触れ、エネルギー生産地と消費地が機能を補完しながら関係を深めていくことの必要性を訴えている。
「そう遠くない将来、大規模な災害が起こると予想されています。万が一、首都圏が被災したときでも、私たちは首都圏に電気を供給し続けるという強い思いを持ち続けています。その思いを消費地である首都圏の皆さんにも理解していただくことで、新たな関係が築けるのではないでしょうか」
消費地の人々は忘れがちだが、首都圏から遠く離れた場所に位置する柏崎刈羽原発の正常化によって利益を得るのは、地元柏崎だけではない。消費地も災害時の停電リスクを軽減できるという大きな利益を手にするのである。
「ただ、危惧もあります。私たちの先輩はエネルギー政策に貢献するという高い意識を持って原発を推進してきました。その意識が若い人の間で希薄になっていることが気掛かりです」
そうした風潮の中で、新しい柏崎をどうデザインしていくのか。商工会議所の中期ビジョンでは「次世代を担うリーダー層の育成」を掲げている。昨年7月に「柏崎リーダー塾」を開講、今月、20人の第一期生を送り出す。
「この中から次世代の柏崎市長、会頭が出て、新しい柏崎市をつくってくれると信じています」
彼らにもエネルギーの生産地としての自負、消費地に対する思いがあるだろう。エネルギー政策は生産地と消費地の相互理解がなければ成り立たない。柏崎刈羽原発の正常化問題は、柏崎だけの問題ではなく首都圏の問題でもあるのだ。
柏崎刈羽原子力発電所 現地リポート
新基準による幾重もの安全対策で強化
東京商工会議所資源・エネルギー部会が主催する「柏崎刈羽原子力発電所視察&柏崎商工会議所会員大会」が11月10日、新潟県柏崎市で行われた。24人の参加者は柏崎市と刈羽村にまたがって立地する東京電力柏崎刈羽原子力発電所(敷地面積約420万㎡、原子炉7基)を訪れた。
柏崎刈羽原発は平成19年7月の新潟県中越沖地震を踏まえ、その1・5倍の地震動に耐え得る耐震強化工事を終えている。さらに福島の原発事故から得た教訓を生かし、新たな基準に対応する、①津波対策、②電源復旧と原子炉などへの注水・冷却手段、③原子炉が損傷した場合の水素や放射性物質の放出を減らす手段を幾重にも施し、強化した。例えば柏崎刈羽原発は日本海側に立地するため、東日本大震災のような15mの大津波が発生する可能性は低い。しかし、万が一に備えて海抜15mの防潮堤を設置、原子炉建屋には防潮壁や水密扉などで幾重もの安全対策を施した。プラント本来の非常用電源が使えない場合でも、空冷式ガスタービン発電機車、そのバックアップとなる電源車などを配備。原子炉と使用済み燃料プールへの注水手段として既設のポンプによる注水の他に、消防車による注水の準備も整えている。これらの安全対策は地震に限らず、航空機墜落などさまざまなアクシデントにも対応したものだという。
今回の視察では敷地内をバスで移動しながら安全対策を確認。さらに厳重に警備された6号機(ABWR型の最新鋭原子炉)建屋内に入り、中央制御室や原子炉建屋オペレーションフロア、タービン建屋オペレーションフロアなども見学した。職員が緊張感を持って業務や訓練に取り組む姿を目の当たりにした。
なお、同発電所の見学会は随時受け付けており、土日・祝日は「発電所構内ガイドツアー」も開催されている。
エネルギー問題への正しい理解を
続いて開催された「柏崎商工会議所第4回会員大会」では、柏崎商工会議所会頭の西川正男さんが「エネルギー問題に対する正しい理解を深めるための場としたい」とあいさつ、電力の最大消費地である東京都副知事の前田信弘さんが柏崎市や刈羽村関係者に感謝の言葉を述べた上で、エネルギーに対する東京都の取り組みを説明した。
基調講演では「誤解だらけの日本のエネルギー・電力問題」をテーマに国際環境経済研究所の竹内純子さんが地球温暖化問題や電力料金引き下げにも原発が有効な発電の手段であることなどを解説した。
対談では「原子力発電所の諸課題に正面から向き合う」というテーマで21世紀政策研究所研究主幹の澤昭裕さんが、東京電力取締役常務執行役原子力・立地本部長の姉川尚史さんから東京電力の取り組みを聞いた。姉川さんは「われわれは最も安全な事業者であると過信していた」と述べるとともに、日々進歩する安全対策を迅速に取り入れ、本部と現場の意思の疎通を図り、責任は経営が取る姿勢を明確にしたと答えた。
パネルディスカッションではパネリストとして柏崎商工会議所副会頭の吉田直一郎さん、日本商工会議所中小企業政策専門委員の清水宏和さん、仙台経済同友会幹事の横山英子さん、刈羽村村長の品田宏夫さんが登壇。澤さんの司会で「日本のエネルギー問題〜電源立地点の地域振興〜」について意見を交わした。
最後に柏崎商工会議所副会頭の関矢浩章さんが大会アピールとして①東日本大震災被災地の早期復興、②柏崎刈羽原子力発電所の早期正常化、③中期ビジョンの実現の3点を掲げ、採択。参加者約1000人の拍手をもって閉会した。
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