魅力アップへ周辺地域と連携
筑後平野の中央に位置する筑後市は、温暖な気候と恵まれた水を利用し、古くから農業が盛んな田園都市だ。
「福岡県は福岡・北九州・筑豊・筑後の4地区で形成されていますが、約100万の人口規模を誇る筑後地区の中心にあるのが筑後市です。江戸時代には薩摩街道の羽犬塚宿として栄え、また、戦前から農業とともに工業が栄えてきました」と語るのは、筑後商工会議所の玉木康裕会頭。博多駅から電車で約45分、九州新幹線を利用すれば筑後船小屋駅まで24分と、アクセスの良さも魅力だ。近隣都市の人口が減少する中、筑後市は右肩上がりだという。「豊かな自然など、筑後市ならではの魅力を強みに発信力を高めていきたいと思っています」。
九州新幹線の開通を機に、観光面の強化も図っている。平成23年には筑後市と近隣の八女市・大川市・柳川市・みやま市・大木町・広川町が「筑後七国商工連合会」を結成。「茶のくに・八女」「匠のくに・大川」「水のくに・柳川」「幸のくに・みやま」「穀のくに・大木」「果のくに・広川」、そして「恋のくに・筑後」とそれぞれの特徴を漢字一文字で表し、一体となって地域の活性化を目指している。
「恋の神様」効果で来街者が急増
「恋のくに・筑後」を象徴する場所は、「恋木神社」だ。菅原道真公を祭神とした県の重要文化財「水田天満宮」の末社として、建立当初から境内に鎮座している。参道は「恋参道」と呼ばれ、ハート型の猪目の文様が施されている。恋木神社はもともと小さな祠だったが、数年前に宮司が恋に着目してホームページでPRしたところ注目されるようになったという。御祭神に「恋命」をまつっているのは全国でも恋木神社だけといわれ、道真が都に残してきた天皇や妻子を思ってまつったと伝えられている。現在は「良縁成就の神様」「幸福の神様」として親しまれ、恋に効くパワースポットに恋愛成就を願う若い女性が多く訪れている。
また、市内にある「六所宮十日恵比寿神社」には夫婦円満を祈願に来る人も多い。4つの恵比寿像の一つ、夫婦恵比寿像は、男女の姿が彫られたものとしては日本で最も古いものとされている。
「恋」に着目した筑後商工会議所は、平成24年度に市などと「ちくご♡恋グルPASS実行委員会」を結成。集客の目玉にしようと、市内の飲食店などに呼び掛けて恋メニューを開発した。幸せを願って筑後を訪れる人たちのために、昨年1月、恋メニューを掲載した冊子『恋グルPASS』を発行。大きな反響を呼び、同年12月には第2版を発行した。
「ハートをモチーフにしたスイーツなど、40の飲食店からさまざまなメニューが揃いました。私のおすすめは料亭『こがね荘』さんの『船小屋牛トマトしゃぶ鍋』です」と同所経営支援課課長の國武進一郎さん。「今後も『恋グルPASS』を地域の活性化につなげていきたいですね」と意気込んでいる。
愛され続ける伝統工芸に新たなファンも
農業が盛んな筑後は、ブドウやナシ、イチゴなどの果物のほか、八女茶も生産され、市内を巡れば美しい茶畑を目にすることができる。そんな筑後で農家の副業として始まったのが、日本三大絣の一つとされる「久留米絣」だ。久留米絣は国の重要無形文化財に指定され、人間国宝がつくる高級品もある。
「もともとは、もんぺづくりから始まったんですよ」と話すのは、昭和24年創業の織元「ギャラリーむつこ」の久保睦子さんだ。「1つの作品をつくるのに30工程を要します」。洋服なども手掛ける久保さんは、最近はストールが人気だという。「夏場のクーラーが効いて肌寒いときなんかにいいですよ。冬も首に巻くと暖かいです。色落ちしたり縮んだりしたりしないように編んでいるので、洗濯機で洗うこともできます」。
十数年前に比べて周りのにぎわいはなくなってしまったと話す久保さん。「ここ西牟田地区は、以前は道を歩けばどこからか機織りの音がする場所だったんですが、今では静かになってしまいました」。
そんな中、伝統の魅力を多くの人に伝えるため納屋をギャラリーに改装し、パッチワーク教室を開いたり生徒の作品を展示したりしている。4月と9月の「絣まつり」には市内外から多くのファンが訪れ、久保さんには多くのお礼の手紙や作品が届くそうだ。
久留米絣のほかに筑後を代表する伝統工芸が「赤坂人形」。有馬藩の御用窯である赤坂焼きがこの地で栄えたことが始まりで、恵比寿や招き猫の縁起物のほか、ハトやフクロウなどの形をした人形が昔から愛されている。
明治15年創業の「赤坂飴本舗」を営む野口紘一さんは、本業の傍ら、先々代から続く赤坂人形の制作を受け継いでいる。
「甘いものは夏場は売れないので、空いた時間に焼き物を始めたんですね。以前は私たちのほかにも周りに6軒ほど窯元がありましたが、今はうちだけになってしまいました」
そんな中、最近は若い人に注目されているという。「興味を持った東京の学生さんが訪ねてくれました」と野口さん。赤坂人形が醸し出す素朴なかわいさが若者を魅了するのは、もともと子どものおもちゃだからかもしれない。「『ててっぽっぽ』と言って、笛を吹いて遊ぶおもちゃとして親しまれていたんですよ。音の調整が難しくて、ちゃんと鳴るようにつくれるようになれば一人前です」と野口さんは言う。
名店のおいしいまかない飯が新しい観光資源に
多くの人に愛され続ける伝統工芸が地域に根差す一方、新しい取り組みも活発だ。筑後商工会議所が食にスポットを当て23年にスタートしたのが「まかない飯グランプリ」。市内飲食店のまかない飯に光を当てることで、筑後の隠れたおいしい食を発掘し、名店を新たな観光資源にしようとする試みだ。昨年10月の第3回まかない飯グランプリには約4万人が来場。人気イベントとして定着している。
「フェイスブックやツイッターを駆使して広報活動をし、1回目は16店が集まりました。エントリー店を増やすのはなかなか難しかったですが、2回目、3回目と毎年出てくれる店もあり、参加店数は24店、27店と順調に増えています。パンフレットも内容が充実して好評なんですよ」と同所の國武さん。制作は市内のデザイン会社・パスコデザインを経営する井上和宏さんが、取材から執筆、デザインまで全て一人で手掛けているという。
「観光に食は重要です。まかない飯グランプリは、筑後を『週末に行ってみよう!』と思ってもらえるようなお出かけスポットにしたいと始めたイベントです。店主もお客さんも喜ぶものになると思いました」と振り返る井上さんは、パンフレットに掲載されている全参加店に足を運び、話を聞き、実際に食べて記事を書いている。1店当たり3~4回訪れ、多いときには一日に8食も食べたことがあったという。
「おいしいから入っちゃうんですよね(笑)」と井上さん。「どうやってできたのか。どんな素材が使われているのか。パンフレットを手にした人が必要とする情報を得るためには、店主との密な関係づくりが必要です」。硬くなって使えなくなったご飯を揚げておにぎりにしたり、うなぎの頭と尾を使用したりと、いろいろな料理法があるのも楽しめるポイントだ。
井上さんは、店主たちが意欲的になっているのを実感しているという。「新商品を考えるきっかけになったという声をよく聞きます。イベントの目的は各店に通ってもらうことなので、その動きを活発化させていきたいですね。今年は食べ過ぎないように体に気を付けます(笑)」。
同所青年部は、20年にも地元の食を生かした「フライングドッグ」を開発。ネーミングは、地名「羽犬塚」の羽=フライと、犬=ドッグにちなんだものだ。
「佐世保バーガーがはやるようになって、筑後でも何かできないかなぁと思っていました。そこで『羽犬塚』に着目したんです。パンを、犬が好きな骨の形にして、各店が地元の食材を使用した具をはさみ込んでいます。市内の3店で食べることができますよ」と話すこがね荘の田中洋さんは、地元の食材を生かした商品で筑後の名を全国に発信しようと力を注いでいる。
「筑後七国で連携して知恵を絞っていきたいですね。お互いの強みを生かさないともったいないですから」と田中さん。筑後には地元のために力を尽くす人がたくさんいる。
150万人の集客を目指して魅力を発信
昨年12月には、福岡ソフトバンクホークスのファーム(2・3軍)の本拠地誘致が決定。玉木会頭は、「筑後船小屋駅を活用して、近隣の佐賀県や熊本県からも多くの人を呼び込みたいですね」と期待を寄せている。「ホークスのファームの試合や練習には、年間50万人ものファンが訪れると聞きます。私たち商工会議所はそれにとどまることなく、100万人、150万人と呼び込んでいきたいですね」。
ホークスのファームの拠点となる再来シーズンに合わせて筑後船小屋駅周辺の整備が進展。九州有数の広さを持つ県営筑後広域公園や、昨年オープンした九州芸文館など、新たなスポットが続々誕生している。
「いつも外から来た人に『何もないね~!』と言われていて、これからどうなっちゃうんだろうという思いがありましたが、芸術と文化に触れることができる場として、新しいスポットを盛り上げていきたいです」と話すのは、九州芸文館交流事業担当の安西司さん。すでに来館者数は目標を上回る10万人を超えたという。「建物には八女の杉を使用し、カフェでは筑後七国のいろいろな食材を生かした料理を提供しています。訪れた人たちに筑後七国の魅力を堪能していただきたいですね」。
一方、筑後商工会議所はJR九州と連携し、年2回ウオーキングイベントを開催。歩きながら筑後の魅力を感じてもらおうと10年前から実施しており、県内外から多くの人が訪れ、中には毎年参加する人もいるという。昨年の秋には1200人もの人が参加した。
「緑が広がる大自然を大切にしながら、商工業の発展に力を入れ、多くの人にまちの魅力を知ってもらえるよう発信していかなければいけません」と目標を語る玉木会頭。九州が誇る観光地を目指し、筑後を中心に七国の連携を強めていく。
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