英では4種類の中心市街地を想定
広域的な都市計画および市町村マスタープランの元で多極的なコンパクトシティを形成してきた、イギリスの事例を参考にわが国の課題解決の方向を考えてみよう。
イギリスの都市計画では中心市街地活性化が重要な政策として位置付けられ、中心市街地活性化のために、大型店の出店は既存の中心市街地に限定することが決められている。しかし、そこで想定している中心市街地とは市町村にたった一つではなく、階層性を持ったいくつかの中心市街地を前提としている。イギリスは大型店を含む大規模集客施設の郊外出店を厳しく規制し、これを複数の中心市街地に誘導する車の両輪政策によってコンパクトシティ政策を推進しているのである。ここで注意すべきは、この政策は大型店規制といった商業規制ではなく、大型店を含む大規模集客施設の郊外立地規制である。したがって、この政策では中心市街地への大型店出店は最優先事項と位置付けられている。
イギリスでは4種類の中心市街地が想定され、集積度や規模に応じて以下の順番で階層性が付けられている。
●大規模中心市街地(シティセンター)=都市計画で最上位の中心市街地で、広域圏(リージョン)といった広域的階層では広域中心地(リージョナルセンター)と呼ばれる。大規模集積で、広い商圏を持つ。
●中心市街地(タウンセンター)=大規模中心市街地の次に位置付けられる中心市街地で、広域圏内にある通常規模の地方自治体の中心地がこれに当たる。買回品と専門品を販売する200店以上の商業集積である。
●地域中心地(ディストリクト・センター)=最低一つの大型スーパーおよび100店以上の最寄品と買回品を販売する商業集積である。また、金融機関やレストラン、図書館などの公共施設がある。商圏人口は2~5万人である。
●近隣中心地(ローカルセンター)=周辺地域住民の需要に応える小型スーパー、薬局、コンビニなどを含む20~40店の商業集積があり、簡易郵便局がある。商圏人口は約1万人である。
タウンセンター・ファーストを継承
郊外立地規制と中心市街地活性化を結び付けるのがシーケンシャル・アプローチである。これは、出店用地を選定するデベロッパーおよび地方自治体の両者に求められるもので、大規模集客施設の開発を中心市街地以外の場所で検討する場合には、その前に、あらゆる中心市街地のオプションを徹底的に評価しなければならない。
この基準によれば、出店の第一優先順位は適地および転用可能な建物がある中心市街地内であるべきだということである。これに次ぐのが中心市街地の周辺地で、その次が地域中心地および近隣中心地である。ようやく最後が中心市街地の外側だが、そこは公共交通を含む多様な交通手段によってアクセスできる場所でなければならないという厳しい条件が付けられている。
これは分かりやすく、「タウンセンター・ファースト」政策と呼ばれることが多いが、中心市街地出店を最優先とするこの政策は、イギリスの二大政党である保守党および労働党が共通に掲げており、国民のコンセンサスを得ている政策理念である。その起源は、規制緩和を推進したサーチャー政権以後の1990年代の保守党であるが、労働党に政権が移行した97年以降はより強化されている。2010年に保守党と自由民主党の連立政権が樹立されたが、同政権の都市計画でもこの政策は重要政策に位置付けられている。
イギリスで政権交代を経てもなお、長期にわたってこの政策が維持されているのは、タウンセンター・ファースト政策によって複数の中心市街地が活性化し、その結果としてコンパクトシティが実現すると多くのイギリス国民が確信しているからである。
横森豊雄・関東学院大学教授
最新号を紙面で読める!