大東亜窯業
岐阜県土岐市
生産現場のIT化により多品種小量という市場ニーズに対応
岐阜県土岐市の大東亜窯業は、家庭用・厨房用の高級陶磁器を一貫体制で製造している。しかし、消費者の生活スタイルの変化やアジア諸国からの安価な製品の輸入増加で業績が落ち込み、2007年の売上高はピーク時の3分の1まで縮小した。起死回生策として社内のIT化を推進、生産体制を大量生産から多品種少量生産に切り替え、V字回復を果たす。
アジア諸国からの安価な食器の流入と、市場ニーズの変化により、26億~27億円あった売り上げが9億9000万円まで減少するという危機に直面した大東亜窯業。社長の楓陽光さんは、大量在庫を抱えた生産現場を改善するため、複数のコンサルタントの指導を受けて、必要なものを必要な時に必要なだけつくるトヨタのかんばん方式(※)を導入した。 「在庫の削減とリードタイム(受注から納品までにかかる時間)の短縮効果を期待」(楓さん)して導入したのだが、「かんばん方式を完全に理解できていなかったこともあり、従業員に在庫管理の意識を持たせるという意味合いの方が強かった」と常務の小貝馨さんは当時を振り返る。
ITコーディネータと出会い経営課題が明確に
その小貝さんが、ITコーディネータの水口和美さんと出会ったのは社内改革のさなかの2007年、経済産業省が中小企業の戦略的情報化を促進することを目的として実施した「IT応援隊」の経営者研修に参加したのがきっかけだった。その後の研修には社長・副社長にも参加してもらい、経営戦略、IT戦略の立案を学んでもらったが、水口さんによると「研修の真の目的は、社長の思いを社内にどう浸透させるかを考えることにあった」という。
「ITコーディネータの役割は、社長には頭の中にある経営課題を認識してもらい、その課題を現場の人へ伝え、継続して実行できる環境を作り、結果をレビューすることの支援です」
課題を現場へ伝えるために、「職長さんを集めた会議の場で何度も話をしました。IT導入を決定事項とはせず、職長さん自身が課題解決のためにITが必要とするなら導入する、不要なら導入しなくてもいいという姿勢で臨みました」(水口さん)。 会議を重ねるうちに、課題を解決しない限り会社がなくなるという危機感を、共有することができた。並行して取引先に対してアンケートを行ったところ「当社に対し『ロットがまとまらないと生産しない』『多品種少量の時代に少品種多量の発想から抜け出ていない』という厳しい指摘がありました」(楓さん)。
そこで水口さんの指導を受けながら、3段階に分けたITの活用が始まった(左図)。
・第1段階=販売・仕入管理システムの構築
・第2段階=かんばん生産管理システムの構築
・第3段階=顧客情報・販売情報の収集・分析・共有システムの構築
そして、①受注当日に正確な納期回答を出す、②工程内在庫を10分の1に削減する、③ITをフル活用したかんばん方式を動かし生産ロットを2000個単位から200個単位に引き下げる、という目標を設定した。現場を動かすために「特命プロジェクトを10ほどつくり、一つひとつ実現していきました」(水口さん)。
定量的・定性的の両面で大きな成果を得た
その結果、定量的効果としては、納期回答はほぼ100%できる体制が構築され、顧客からの信頼が格段に高まった。工程内仕掛在庫が約20分の1に削減され、製品在庫も10分の1に削減。1ロット平均200個の少量生産が実現した。15年の売り上げは10年比で1・3倍に増え、経常利益もV字回復した。定性的効果としては、経営目標と各部門の目標が明確化され、社員のやる気、やりがいアップにもつながった。毎月の全体会議で各部門の職長が改善効果を発表することが習慣化され、次世代職長教育にも役立てることができた。
同社はIT化に成功して復活したが、IT化が終わったわけではない。楓さんをはじめとする経営幹部は、問屋経由からネット販売へ変わりつつある商流の変化など、新しい時代に対応したIT化を見据えて動き始めている。
会社データ
社名:大東亜窯業株式会社
所在地:岐阜県土岐市肥田町肥田2886-3
電話:0572-55-3111
HP:http://www.daitoua.co.jp/index.html
代表者:楓 陽光 代表取締役
従業員:180人(パート含む)
ITコーディネーターとは
ITコーディネータとは、真に経営に役立つIT利活用に向け、経営者の立場に立った助言・支援を行い、IT経営を実現する人材です。現在、経済産業省の推進資格として、約6300人の資格保有者が全国各地で活動しています。
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