Q 当社は接客業のため従業員がウイルス感染するリスクが高く、今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても感染防止対応に苦慮しました。今後も万一に備え、労災保険との関係および従業員の健康管理面で、会社として押さえておくべきポイントを教えてください。
A 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防法」という)では、就業制限や就業禁止の対象は新型インフルエンザやO-157などであり、季節性のインフルエンザやノロウイルスは五類感染症に分類され、原則、感染しても就業制限はありません。そのため、まずは対象となる感染症について正しく理解する必要があります。その上で、労災との関係性を中心に整理していきます。
感染症の定義と分類
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、「感染症」を次のように定義しています。「感染症とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症および新感染症をいう」。
この定義により、例えば、インフルエンザやノロウイルスは、「五類感染症」に分類され、O-157(腸管出血性大腸菌感染症)は「三類感染症」に分類されます。同分類において、原則、ノロウイルスなどの五類感染症は感染しても就業制限はなく、一類感染症、二類感染症、三類感染症または新型インフルエンザおよび「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」は、就業制限に該当します。従って従業員が感染症に罹患した場合は、同分類を基に、まずは就業制限の対象か否かを確認することが重要です。
今回、新型コロナウイルス感染症は、指定感染症として定めるなどの政令(令和2年政令第11号)で、「指定感染症」に指定されました。
通常、従業員の罹患(りかん)した感染症次第では、事業者は関係法令(労働安全衛生法第68条、労働安全衛生規則第61条)の定めにより、当該従業員の就業を禁止しなければなりません。実際に、就業制限を行う場合は、都道府県知事名で患者(無症状病原体保有者含む)またはその保護者宛てに書面で通知されることになっており、その通知に従い就業制限することになります。
新型コロナウイルス感染症の場合は、指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、「感染症法」に基づき、都道府県知事が該当する労働者に対して就業制限や入院の勧告などを行えることとなります。そのため、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはなりません。
労災保険との関係性
労災認定の基本的な考え方および判断基準として、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象となります。例えば、感染経路が判明し感染が業務によるものである場合については、労災保険給付の対象となります。
一方、感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断することとなります。複数の感染者が確認された労働環境下での業務や、顧客などとの近接や接触の機会が多い労働環境下での業務のような、感染リスクが高いと考えられる業務に従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性を判断する必要があります。なお、こうした事例以外の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性を判断します。
なお、同一事業場内で複数の労働者の感染があったとしても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらないと考えられます。
(社会保険労務士・田代 英治)
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