日本商工会議所では東日本大震災後、津波などで甚大な被害のあった岩手県、宮城県、福島県の沿岸部商工会議所を中心に役職員が訪問し、正副会頭などから復興に向けた意見・要望の聞き取りを実施している。その内容は要望書(こちらを参照)に反映し、先般、政府など関係機関に広く要望した。特集では、2020年11~12月の訪問の概要を紹介する。
いわき商工会議所(福島県)
日商の久貝卓常務理事らは11月25日、福島県いわき市を訪問視察し、いわき商工会議所の小野栄重会頭らと懇談した。
小野会頭は「当所は震災からの復旧復興において大きな役割を果たしてきたと自負している。仙台商工会議所および日本商工会議所の助力を得て、事業者対象の補助事業の申請支援や展示会商談会の開催も成果が上がり、「いわき市は復興してきた」と発信していた。しかし、2019年台風19号による洪水被害や新型コロナウイルスが続き、地域経済は厳しい状況にある。この窮状を訴えるべく、地域事業復興に向けた要望書を策定した。内容は、経済活動の優先、助成金の継続、福島イノベーション・コースト構想など地方創生の措置についてなど。最低賃金に関しては、地域の身の丈に合った設定をするべきで、人件費の高騰により倒産しては雇用もなくなると考える。また、水素発電の活用に関して、家庭での普及を最終目標として進めていきたい」と話した。
これを受けて久貝常務理事は「小野会頭のご発言ご要望内容は三村会頭の意見と一致している。最低賃金の引き上げについても、政府の未来投資会議で三村会頭が幾度となく反論しているが、日商だけでは難しく地域からも声を上げてもらいたい。水素活用に関しては、他国でも急速に実用化が進められており、日本としても国内産業として育成し国際競争に挑むべきと考える」と話した。
塩釜商工会議所(宮城県)
日商の石田徹専務理事は12月9日、塩釜商工会議所の桑原茂会頭らからオンラインで話を聞いた。
桑原会頭は「原発事故に伴う風評被害が残っており、商店には顧客が戻っていない。また、処理水についての安全性の情報が一般消費者に伝わっていない。放射線検査機器を設置するなど安全・安心の証明、発信をしてもらいたい」と話した。
続いて菅原周二副会頭から「コロナ禍で観光客が大幅に減少している現状において、塩釜独自のPRが必要である。塩竈の「竈」の字が昨今人気の「鬼滅の刃」で使われている。また、第二期地方創生に向けて、地方創生交付金なども利用しながら法蓮寺勝画楼などの観光資源を積極的に活用していきたい。塩竈のイメージを盛り立てるために県内外からの誘客の環境づくりを実施していきたい」と話があった。
これを受けて石田専務理事は「検査機器については、自治体が購入・運用すべきだと思う。塩竈市や県に説明した上で、政府に要望して予算を手当てする必要がある。処理水問題は、日商も政府からヒアリングを受けており、万一風評が発生するのであれば、補償するという前提に基づき国が責任を持って判断してもらいたいと意見を申し上げた。その中で、周辺沿岸地域への配慮や事前措置などを盛り込むよう追加要望したい。観光面では明るい材料があることはいいことだ」と話した。
宮古商工会議所(岩手県)
日商の杤原克彦理事・事務局長らは12月14日、岩手県宮古市を訪問視察し、宮古商工会議所の花坂康太郎会頭らと懇談した。
同所の櫻野甚一専務理事と宮本淳一郎事務局長から「水揚量が減少し、水産加工業者は苦しい状況にある。『東北復興水産加工品展示商談会』や『伊達な商談会 in MIYAKO』への出展支援により、事業者の販路回復・開拓を後押ししている。また、コロナ禍の事業者アンケートに基づき、宮古市長に対して感染症ガイドラインに沿った店舗などのリフォーム補助などを要望した」と説明があった。
続いて花坂会頭は「2019年に国土交通省の『道・絆プロジェクト事業』を活用して、インバウンド向けの観光マップなどを作成し、経済再興の一助にと取り組んできた。そんな中、台風号やコロナ禍により、借入金が重なる大変な事業者もいる。水産加工業は、震災後の支援が手厚く廃業などは少なかったが、不漁やグループ補助金の返済などにより厳しくなると思われる」と話した。
これを受けて杤原局長は「10年でインフラは整ったが、にぎわいや物の動きは少なく新しい問題が出ている。不漁に関しては、原材料を確保できるよう仕入れ先の開拓支援策を考える必要がある。三村会頭が推進する大企業と中小企業の『パートナーシップ構築宣言』に基づき、例えば大手水産会社に養殖や仕入れの支援をしてもらうなども考えられる」と一案を示した。
原町商工会議所(福島県)
日商の久貝卓常務理事らは11月13日、福島県南相馬市を訪問視察し、原町商工会議所の齋藤健一副会頭らと懇談した。
齋藤副会頭は「震災時の原発事故直後、各省庁に出向き、営業損害賠償スキームの検討に参画した。当初のスキームから中身が変遷しており、特にスキームの変更ごとに対象者がふるいにかけられていると感じる。原発事故の損害賠償制度の申請においては、損害賠償の因果関係基準が判然としない。地方の人口減少問題や経済的な疲弊が理由として認識されないことなどにより、賠償交渉が停滞している事業者も少なくない」と制度活用の難しさを話した。
これを受けて久貝常務理事は「原発事故に関する賠償は順調ではないと認識している。スキームの変遷を経て、事業者自身が相当因果関係を立証する方式でよいのか検討する必要がある。処理水の処分問題については、事前にいただいた現場の声を政府に対して申し伝えてきた。風評への補償についても、国が前面に立って取り組んでほしいと伝えている。産業復興面では、福島ロボットテストフィールドは政府による施策推進もあり、十分な施設が整備されている。一層の利用率向上に向けた取り組みのほか、ドローン技術を活用したインフラの自動点検の実用化など新たなテクノロジーの具体化による産業の集積、人材育成、交流人口拡大などをさまざまな主体を巻き込み実現してほしい」と話した。
石巻商工会議所(宮城県)
日商の杤原克彦理事・事務局長は12月8日、宮城県石巻市を訪問視察し、石巻商工会議所の青木八州会頭らと懇談した。
青木会頭から現在の状況について「震災から10年で一つの区切りとなるが、実態は震災の後遺症が残っており、企業財務はいまだダメージがある。そこに新型コロナウイルス感染症の流行、漁獲量の激減、水産加工物の出荷量減少など、問題が積み重なっている。他にも毎年1%の人口減少など、われわれだけでは解決できない問題が山積しており、日商の力と知恵を借りて対策を取っていきたい。また、被災地には財務的に立ち直っていない会社が多くあるが、財務事情は外に発表しづらいため、商工会議所の支援業務が必要である」と話した。
これを受けて杤原局長は「震災から10年経過したが、課題は次々に出てくる。新型コロナウイルスによる需要の蒸発に対して政府が対策をしているが、震災による債務がまだ残っている事業所は、風水害・コロナ・漁獲量の激減など、他重苦を抱えているため、金融対策を取られても返済できず、廃業となってしまう場合もある。販路開拓は全国的な問題で、好事例を寄せて各地に横展開していきたい。風評被害については、回復途上であり、声を出し続けなければいけない。東日本大震災の皆さんの痛みなどが見えなくならないよう、目配りをして風化させないことを肝に銘じている」と力強く話した。
釜石商工会議所(岩手県)
日商の石田徹専務理事らは12月9日、釜石商工会議所の菊地次雄会頭らからオンラインで話を聞いた。
冒頭、菊地会頭と石田専務理事からのあいさつの後、小澤伸之助副会頭より「基幹産業である水産業における不漁対策支援は不可欠。新型コロナウイルスの影響により、飲食業や観光業の売り上げが落ち込んでいる。タクシー業界も大きな影響を受けているが、道路運送法の特例措置を活用して、タクシーによる弁当配達を行っており、飲食店からは好評を得ている。また、地域内のキャッシュフロー支援を目的とした商品券は、非常に好調である。震災後の復旧状況は、ハード面はおおむね完了しているので、ソフト面での支援を引き続きお願いしたい」と現状の説明があった。
これを受けて石田専務理事は「コロナ禍による危機的な経営環境は全国共通の課題。岩手県は比較的感染者が少ないが、住民の外出自粛に伴い、飲食店・サービス関連業は客入りが減少傾向にあると思う。政府の経済対策の大半はウィズコロナを見越して雇用維持に重点を置いているようだ。経営者自身がビジネスモデルの再構築を考えなければならない。この動きを商工会議所が支援する必要があり、日商としても各地の意見を聞きながら政府の支援を働き掛けたい。水産業を取り巻く環境は深刻であり、不漁への対応策は、資源管理や養殖漁業の推進を求める必要がある」と話した。
相馬商工会議所(福島県)
日商の久貝卓常務理事らは12月14日、福島県相馬市を訪問視察し、相馬商工会議所の草野清貴会頭らと懇談した。
草野会頭は、現状について「震災から10年たつが風評の払拭(ふっしょく)は進んでいない。福島県沖で取れた「常磐もの」といわれる漁獲魚を豊洲市場へ卸しているものの、大した価格がつかないなど非常に苦労している。現在試験操業中だが、当市の松川浦漁港の漁獲量は震災前の20%、価格が26%であり、震災前の7割以上の漁獲量・価格は蒸発している。相馬市の経済において漁業関係者は大きな割合を占めており、漁業が衰退すると消費活動も停滞する。この状況を打開するには、民間から政府へ声を上げることが非常に重要だと感じている。風評払拭に向けたご協力をお願いしたい」と話した。
これを受けて久貝常務理事は「風評払拭については2020年9月の政府のヒアリングに先んじて、草野会頭からお話を伺った。草野会頭のご意見に基づき、地域住民の意見をしっかりと聞くこと、風評への対策や補償の必要性について述べてきた。商工会議所による風評対策活動は、被災地への訪問・会議開催のほか、物産展などの開催による購買機会の提供などを挙げた。梶山弘志経済産業大臣と日商正副会頭との懇談会においても、風評対策の必要性を説明したところ、梶山大臣から責任を持ってやるとの発言があった」と報告した。
気仙沼商工会議所(宮城県)
日商の杤原克彦理事・事務局長らは12月23日、宮城県気仙沼市を訪問視察し、気仙沼商工会議所の菅原昭彦会頭らと懇談した。
菅原会頭は現状について「震災後10年を総括すると、インフラについてはほぼ整備されてきている。政府は「創造的復興」として産業構造の転換をうたっていたもののなされなかったことが残念。水産業だけでなく、機械産業などをつくることで多様な人材を集め、地域の衰退を止めるという構想ができていない。新しいことに挑戦し構造を変えようとしても、復旧止まりで創造的とはならなかった。新型コロナウイルスに関しては、食産業が盛んなまちのため、少なからず影響を受けてしまっている。市と日頃から情報交換をし、歩調を合わせて政策への提言を計画している。震災10年という節目の年、朝ドラの舞台になり、また三陸道のほぼ全線開通で交通網がそろうこともあり、人・モノの流れが期待される明るい年になってほしい」と話した。
これを受けて杤原局長は「今後、国の施策は福島再生が中心になっていく。そのため気仙沼からも声を上げ続けてほしい。また、外国船の入港規制の問題や建設業者の需要の平準化についても、各地から話を伺っている。多重債務の問題についても、できるだけ劣後ローンなどに変えて返済猶予する方法を、金融庁や金融機関と連携してほしいと要望している」と話した。
大船渡商工会議所(岩手県)
日商の杤原克彦理事・事務局長らは12月23日、岩手県大船渡市を訪問視察し、大船渡商工会議所の米谷春夫会頭らと懇談した。
米谷会頭は「新型コロナウイルスに振り回され、計画していた事業がほとんど進まないもどかしさがある。国、県の支援策以外にも市独自の経済支援により、経営破綻は表面化していないが、ここにきてGoToトラベルの中断、宴会の予約キャンセルが続き、倒産・廃業の増加も懸念される。現在、資金面や後継者がいないことから、廃業意向を持っている方がおり、継続できる方策がないか模索している。今年度中には三陸縦貫自動車道も開通するが、観光の目玉、集客の材料がないことを課題と認識している」と話した。
これを受けて杤原局長は「新型コロナウイルスについては想定外であり、何とか乗り越えていかなければならない。インフラについては、震災後10年で道路、防潮堤、復興住宅などおおむね出来上がっている。また、事業を継続していくには、M&Aという形もある。来年の税制改正で手当てが追加されることになり、第三者承継がやりやすくなる。M&A引当金のような仕組みづくりで利益、負債があればそこに充当するようなことも考えられる。事業者が廃業を選ばない形で、雇用や残すべき技術が地域に定着するようサポートするのが、これからの商工会議所の大事な役目だ」と話した。
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