コロナ感染による荷役業務の停滞、コンテナ不足などで起きた世界の海上物流の混乱は予想を上回り、長期化している。中国、東南アジアの港湾周辺にはコンテナが積み上がり、沖待ちの滞船が目立つ一方、各地の工場からの製品出荷、原材料の入荷も遅れている。この中でいくつか見えてきたことがある。
「今、米国の最大の輸出品は空気である」。米国の港湾管理機関の幹部が語った言葉だ。米国西海岸からアジアに向かうコンテナの多くが空のコンテナだからだ。中国や東南アジアからエレクトロニクス製品や衣料品、工業部品などを詰めて米国の港に到着したコンテナは、トレーラーや貨車に積み替えられ全米各地に向かう。その流れに変わりはないが、米国からアジア、特に中国に向かうコンテナに積む貨物量が落ち込み、アジアにコンテナを急ぎ戻すためには、荷物を待たず空のまま太平洋を西に向かわざるを得ないのだ。
米中間の海上物流を量的にバランスさせていた米国から中国向けの大豆とトウモロコシなど農産物の輸出は米中対立の中で落ち込んだ。今年前半は米国と競合する大豆産地のブラジル、トウモロコシ産地のウクライナが天候不順で輸出が落ち込んだため、一時的に米国の対中輸出が回復したが、今は再び落ち込んでいる。
米中冷戦の中で中国に代わってパソコンなどエレクトロニクス製品や日用雑貨、自動車部品などの対米輸出を増やしていたベトナム、タイ、フィリピンなど東南アジア各国はコロナ感染による都市封鎖、移動制限などで工場の稼働が落ち込み、それを補うように中国からの輸出が急回復するという皮肉な事態も発生している。その結果、物流業者は中国に空コンテナを集中させ、東南アジアからの輸出はコンテナ不足でますます停滞する。要は米中間に生じたボトルネックが世界に波紋を広げ、混乱を増幅させているわけだ。
サプライチェーン見直しがグローバルに本格化しているものの、物流の物理的基盤は「脱中国」に対応し切れていないということだ。逆に言えば、物流基盤が東南アジアへの生産シフトに対応できるようになれば海上物流の混乱は終息し、中国の輸出は減少に転じるだろう。8月の中国の輸出は前年同月比25・6%増という好調ぶりだったが、これが今後も続くと見るのは間違いだろう。中国の8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50・1と前月比0・3ポイント低下、既に中国経済にも陰りが見えている。
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