東日本大震災からの復興の担い手となる東北各地の若手経営者の取り組みと思い描く10年後のビジョンを紹介する
東日本大震災で被災した地域にとって、いわゆる「復興特需」が終わる今後は、さまざまな課題を自力で解決しなければならない。中でも、人口減少は多くの地域の共通した課題である。宮城県気仙沼市で建設業を営む菅原工業代表の菅原渉さんは、外国人の活用や若者とのつながりを「仕組み」にして人材を確保している。地域の課題解決に取り組む同社の思いを聞いた。
「世界72億人を相手に」経営塾の学び生かし海外進出
「震災を経験して、地域の建設業が『地域の当たり前の日常』をつくっていると強く実感しました。それなのに人手不足で工事ができなければ、まち自体が終わってしまう。建設業界は人手不足になってはダメなんだと思いました」
菅原工業は道路舗装や水道施設工事などを行う建設会社である。同社代表で三代目の菅原渉さんは東日本大震災で被災した宮城県、岩手県、福島県などの工事を行うほか、「このまちをつくる」をスローガンに、さまざまな仕組みをつくって気仙沼の活性化に取り組んでいる。
その一つがインドネシアの事業で、現地に法人を設立してリサイクルアスファルトのプラントを運営している。人手不足を補おうと外国人技能実習生を雇ったところ「帰国後も日系企業で働きたい」という要望を聞いて7年前に計画した。彼らが気仙沼で3年間、道路工事の技術を習得して帰国し、インドネシアの菅原工業で働けば、彼らの活躍の場が生まれる。一方で会社は将来、復興事業が終わっても、インドネシアから外貨を獲得できるという「人と産業が循環する仕組み」である。
菅原さんが現地法人を立ち上げたのは2017年で、売り上げを伸ばしつつあったが、21年は新型コロナウイルスの影響で約400万円の売り上げがゼロになった。しかし、2基目のプラントが稼働する22年から本格的に軌道に乗せる予定である。
菅原さんがこの計画を立てたのには「人生の転機になった」きっかけがある。それは気仙沼市と気仙沼商工会議所が主催し、13年に始まった「経営未来塾」で、ある講師から「世界の72億人を相手にすればいい」と言われた。また、誰かにとっての課題は見方によってはビジネスチャンスで、課題と課題を組み合わせれば仕組みができることを学んだ。菅原さんはこの塾で「新しい日本のビジネスモデルをつくる」と宣言した。
社屋が全壊でも復興に尽力地域の課題解決へ
菅原工業は水道施設工事の会社として、先々代である祖父が1965年に創業した。菅原さんは家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後、大手建設グループ道路部門の会社へ就職して北海道で過ごした。しかし2003年に帰郷し、家業へ入社した。当時、会社の経営は厳しい状態で、菅原さんは作業の効率化や事業の拡大を図るなど改革に乗り出したが、社内からは反対の声も大きかった。
そんなとき、東日本大震災が起きた。気仙沼では地震と津波だけではなく大火災も発生し、社屋は全壊した。菅原さんたちは近隣の建物の屋上に避難して一晩を過ごした。幸いにも従業員は無事だったが、会社に残ったのはトラック1台だけだった。北海道や近隣の知り合いが「支払いはいつでもいいから」と重機を貸してくれて、菅原さんたちはがれき処理や道路整備など、復興に尽力した。
「震災前は自社のことしか考えられなかった。でも、震災後は地域のことを考えるようになりました。地域の課題は何なのか、自社の課題は何なのか。突き詰めた結果、今の当社があります」
中学生の職場体験や若者のUターンを推進
現在、気仙沼の大きな課題は人口減少で、中でも若者の流出が大きい。市内の高校生の9割は卒業後、仙台市など市外へ出る。菅原さんは仙台市内で学生を集めて〝気仙沼コミュニティ〟をつくり、学生と関係性をつくることで、人材を確保する仕組みをつくった。いわば若者が地元へUターンする仕組みで、これを「気仙沼人事部」と称し、今後は気仙沼市や宮城県とも協力していく予定だという。
また地元の中学校では、気仙沼商工会議所青年部(YEG)の仲間と一緒に出前授業を行った。YEGという団体だからこそ、学校との連携がとりやすい上、さまざまな業種が集まっている。地元企業と生徒、先生とのつながりができ、職場体験を受け入れる体制もできた。5年前に自社で職場体験した生徒が、後に入社した事例もある。
「私は従業員に支えられていて、従業員には家族がいます。彼らのためにも、気仙沼の活性化が最優先課題なんです」
気仙沼に若者を受け入れる新たな産業を生み出す仕組みや多文化共生社会構築のため、数年前、飲食店などをグループ化した。菅原さんはハードとソフトの両方で気仙沼の未来をつくっている。
会社データ
社名:株式会社菅原工業
所在地:宮城県気仙沼市赤岩迎前田132
電話:0226-23-9661
HP:http://sugawarakogyo.co.jp/
代表者:菅原渉 代表取締役
従業員:42人
【気仙沼商工会議所】
※月刊石垣2022年1月号に掲載された記事です。
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