富山県高岡市に本社を置くフジタは、金属加工・金型製造などを手掛け、アルミなどの金属切削加工の高い技術を持つ。1994年7月、3次元CAD/CAMシステムを導入して以来、積極的にIT導入を進めてきた。その過程で得た教訓は、「それを使う社員の教育が重要」だ。職人が主体だった同社のIT導入の軌跡を探った。
社員教育に力を入れて〝待ち工場〟をカイゼン
2008年に起こったリーマンショックが引き金となって世界同時不況が起こり、日本の中小企業も製造業を中心に大打撃を受けた。フジタ社長の梶川貴子さんは当時、創業者である亡き父の後を継いで社長となった母の下で、一社員として働いていた。世界不況の影響で売上高は7割減となり会社は大赤字に転落したが、「母はわずかですが、ボーナスを支給しました。すると当時の社員から不満の声が上がったのです。家と会社を往復するだけの社員の意識が世間とずれていることにショックを受けて、社員教育の大切さに気付かされました」
1975年の創業からずっとメーカーの下請け仕事をしていたので、下請け体質が身に付いた“待ち工場”になっていたことも気になった。
「〝待ち工場〟は営業をしなくても仕事がもらえるので、製品をつくる職人が最も偉かった」。そのため現場は放任状態となり、作業効率の改善や安全性の確保にはほど遠い状況だった。
2010年に社長に就任した梶川さんは、QCサークル(小集団改善活動)を導入し、現場のカイゼンに手を付けた。当初は「整理整頓」と言うと、「整理って何ですか」と聞き返されるレベルだったが、コンサルタントの協力を得てカイゼンを進めた結果、無駄が減り、売上高がリーマンショック前の8割程度にしか戻らない状態でも利益が出る体質に変わった。
次に手を付けたのが、〝待ち工場〟からの脱却だ。1社からの受注が売り上げの6割を占める完全な1社依存型経営だったので、新規顧客の開拓に乗り出したのだが、社員の反応はいまひとつ。「そこでデジタル化を進めるという名目で社内改革に手を付けました」
当時、IT化が遅れていたのは事務部門だった。紙の書類とそろばんが幅を利かせていた。12年、文書管理・図面管理システム「デジタルドルフィンズ」を導入した。枚岡合金工具という町工場が開発した中小企業向けのシステムだ。最初は訳が分からなくてもいいから、とにかくバラバラに存在していたデータを集約する。新たなデータは、全て「デジタルドルフィンズ」に入力する。すると必要なデータがいつでも簡単に取り出せるようになり、事務部門の社員はデジタルの便利さを体感し、少しずつ新しい世界に目を向けるようになった。
翌13年、よしだまこと事務所のITコーディネータ・吉田誠さんの協力を得て目標管理制度を構築し、「目標進捗報告会」と呼ぶ社員教育の場をつくった。
「報告会では、まず私が次年度の売上高などの目標を発表して、それを部に落とし込んで、さらに各自に落とし込む作業をしました。最初はバラバラの状態でしたが、続けていくうちに自発的に各自でアクションプランをつくり、進捗を管理するようになりました」
工業団地の中にミュージアムをつくる
社員の意識が変わったという手応えを感じた梶川さんは16年、社員を驚かせるプロジェクトを発表した。同じ工業団地内の利用していなかった第二工場に「メタルアート作品が並ぶミュージアムをつくりたい」と宣言したのだ。クラウドファンディングで資金の一部を調達し、17年に「FACTORY ART MUSEUM TOYAMA」をグランドオープンした。
しかし、交通の不便な工業団地内にあるミュージアムに人は来ない。では、どうすれば来てもらえるのかを考えようと社員たちに訴えた。
「その頃には、イベントを考えてほしいと言えば、それだけで何をどうすればいいのかが分かる社員が増えていました。社員が家と会社の往復ではなく外に目を向けるようになったのです」
並行してデジタルドルフィンズのシステムエンジニアに自社の仕様に合った「受発注システム」をオーダーし、16年から稼働させた。社員の手間を軽減し、本来の仕事に集中してもらうためだ。
21年2月、「IT導入補助金2020」を活用して、ネクストサイエンスの製造業向け販売・生産管理システム「Polaris(ポラリス)」を導入した。ポラリスは、ほぼ1年が経過したが完全には稼働していないという。
「だからといって、使えません、やめますと何百万円も投資したシステムを捨てるわけにはいきません。試行錯誤して学び考えて自分たちのものにしていくことが大事。社員たちはシステムを使いこなす努力をしています」
振り返ると、梶川さんは社員教育とIT導入を上手にバランスを取りながら、自分の頭で考えて行動する「多脳工」(フジタは多能工をこう表現する)を育ててきた。IT化とは、ITシステムや機器を導入することだけではなく、人間がツールをトライ&エラーしながら使い方を考えることが大切なのだ。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・社員の意識が世間とずれていた
・下請け体質の“待ち工場”では、現場の効率化や安全確保が無視されていた
・社員の考える力、自立する意欲が弱かった
導入したITシステム
・文書管理・図面管理システム「デジタルドルフィンズ」
・文書管理・図面管理システム「デジタルドルフィンズ」のSEにオーダーした「受発注システム」
・ネクストサイエンスの製造業向け販売・生産管理システム「Polaris(ポラリス)」
IT化後の状況
・社員が新しい世界に目を向けるようになった
・自分の頭で考えて行動する「多脳工」が生まれた
会社データ
社名:株式会社フジタ
所在地:富山県高岡市福岡町荒屋敷522
電話:0766-64-3710
HP:https://www.fujita-k.co.jp/
代表者:梶川貴子 代表取締役
従業員:15人
【高岡商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!