外交的ボイコットに始まり、行き過ぎたコロナ感染対策や競技場へのアクセスの不便さ、競技を巡っては疑惑の判定や失格騒動などさまざまな問題も起きたが、北京冬季オリンピックが無事終わった。競技の結果は置くとして、今回、強く感じたのは「人のボーダーレス化」の一段の進展である。
男子フィギュアスケートで、銀の鍵山優真、銅の宇野昌磨を抑えて、金メダルに輝いた米国のネイサン・チェン。米国生まれの米国籍だが、両親は米留学した中国人。米国で生まれていなければ、中国の金メダルがもう一つ増えていたはずだった。
フリースタイルスキー女子ビッグエアで金メダルを獲得した中国の谷愛凌。父親は米国人、母親は米国に留学した中国人で生まれも育ちもカリフォルニア州の米国人だったが、15歳で中国籍となり、中国代表選手として母親の祖国に金メダルをもたらした。対照的にフィギュアスケート団体に女子シングルで出場した中国の朱易。ジャンプでの転倒などミスが目立ち、中国は団体戦決勝で最下位に終わったことで中国のネットで批判を浴びることになった。朱選手は両親とも中国人だが、生まれも育ちも米カリフォルニア。米国籍だったものの、五輪直前に中国籍を取得、中国代表に選出された。
フランスの男子フィギュアの代表、アダム・シャオ・イム・ファ。両親はアフリカ東岸沖のインド洋に浮かぶモーリシャス国籍の華僑。祖父の時代に中国からモーリシャスに移住した。日本でもフィギュア団体のアイスダンス代表の小松原美里&ティム・コレトペアのコレト選手はカナダ出身で日本国籍を取得している。
出身地や両親の国籍に関係なく、選手自身が国籍を選び、五輪でさまざまな国旗を背負った。メダル獲得のための国家戦略や競争の少ない国に移って五輪出場を果たそうとする個人の打算もあるかもしれないが、まさに五つの大陸が結ばれた五輪精神にふさわしい「21世紀的現実」といえる。
興味を引かれたのは、フィギュアのネイサン・チェン選手の「グリーンデスティニー」など米欧の選手がアジア的な曲を選び、中国の金博洋選手の「ボレロ」などアジアの選手が米欧の曲を選ぶ傾向だ。国籍含め、人の移動はボーダーレス化する一方、文化的な憧憬、好みはまた異なるベクトルを持つ。
ビジネスも国境とは関係なくユニバーサル化するが、商品のテイスト、デザインなどでは違う力学が働く。そのベクトルの方向を見逃さないことも重要だ。
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