自動車のレーシングカーを中心とするカーシートの専門メーカー、ブリッド。体を固定するホールド性や、ドライバーの疲労を軽減する快適な座り心地を追求してきた同社が、自社製品に足回りパーツを取り付けたチェアを開発。長時間着座するeスポーツやゲームの愛好者、デスクワーカーなどに絶大な支持を受け、売れ行きを伸ばしている。
交換用カーシートを扱う唯一の国産メーカー
長時間いすに座る生活を送っていると、さまざまな健康被害があることが明らかになっている。そうした観点から体に優しいいすが数多く登場しているが、中でもひときわ意外性に富み、注目を集めているのが、ブリッドの開発した「シートチェア」だ。レーシングスポーツ用カーシートに、足回りパーツを取り付けて屋内ユースに変身させたものである。
長距離・長時間運転を前提につくられるカーシートには、体を適度に固定するホールド性や、ドライバーの疲労を軽減する快適性が備わっている。そんな機能から、座っていることを忘れるような心地良さを体感できるところが、同製品最大の特徴であり強みだ。
「今や仕事やライフスタイルに合わせて、いすを選ぶ時代になりました。長時間のパソコン作業で腰痛に悩み、いろいろ試した末に、当社のシートチェアに行き着いたという人も多いですね」と同社社長の高瀬嶺生さんは分析する。
同社は1981年の創業以来、カーシートを専門につくり続けてきた。カーシートを付け替えるというニーズが生まれたのは、今から50年ほど前だそうだ。標準装備された純正シートが体に合わないとか、高いデザイン性を求めて、特注のスペシャルシートに交換して走ることが一部で流行したという。ニッチな市場だけに同社は唯一の国産メーカーで、レース用では約8割の国内シェアを占める。
「乗る人によって、求められるカーシートも変わってきます。そこで常にユーザーの声を聞きながら、多彩なデザインのシートを世に出してきました」
eスポーツ熱の高まりとともに注目度が一気に上昇
そんな同社が、カーシート専用の足回りパーツ「マルチキャスター」を独自に開発したのは2003年のことだ。
「車の買い替えなどでカーシートがいらなくなったというユーザーから相談を受けましてね。シートは1脚10万円以上しますし、体にもなじんでいるので、何か別の用途に使えないかと発案したんです」
しかし、同製品を取り付けたシートチェアは自動車用品ではないため販路の開拓が難しく、当初は知る人ぞ知るものだった。そこに追い風が吹き始めたのは10年ほど前のこと。電子機器を通してゲームを行う「eスポーツ」熱が高まりを見せるにつれ、ゲーミングチェアとしてにわかに注目を集めるようになったのだ。
「ゲーマーの人たちは、何時間もいすに座った状態でゲームに集中するでしょう。そのため知らず知らずのうちに、体に大きな負担が掛かっています。当社のシートチェアなら長時間座っても疲れにくいという口コミが広がって、徐々に売れ行きが伸びていきました」
こうして年々ニーズが高まってきたことを受け、同社は20年にマルチキャスターの各パーツをさらに進化させた「マルチキャスターPRO」を開発する。構成はほぼ同じだが、フローリングの部屋で使用しても床を傷つけず音も静かなウレタンキャスターや、座る人の体形に合わせて上下・左右・前後に位置を調整できるアームレストを採用するなど機能性を高めた。
同年10月、同製品が全国ネットの情報番組に取り上げられると、一気に人気に火が付く。ゲーマーはもちろん、コロナ禍でテレワークをするようになったビジネスパーソンから注文や問い合わせが舞い込むようになった。
「あまりの反響に驚きました。自動車用も含みますが、改良から1年で1万脚くらい売れたんじゃないでしょうか。ただ、当社製品は受注生産で、しかもすべて手づくりなので簡単には増産できません。生産体制を強化して、現在では年間1万3000脚程度つくれるようになりましたが、まだ注文に追い付いていない状況が続いています」
コロナ禍で自分専用のいすの需要増へ
高瀬さんが交換用カーシートというニッチな商材を扱ってきた中で、一貫してこだわってきたのが〝疲れないこと〟だという。それをかなえるためには、使う人それぞれの体形、使用目的、使用頻度に合った自分専用でなければならないと言い切る。
「新型コロナウイルス感染症が登場して、当社の売り上げは前年対比で2割ほど上がりました。ゲームやテレワークによる需要増もそうですが、おうち時間が増えて、趣味や好きなことにお金を使うようになったと感じます。こうした消費動向はコロナ禍が終息しても変わらないでしょう。いすは、新しいニーズに対応できる商材だったといえるのかもしれません」
この先、電気自動車が普及し、自動運転が当たり前の世の中になったら、カーシートは形を変え、需要は減っていくかもしれない。一方、屋内で好きなことをしながら快適に過ごすためのニーズは増えていく。そこに同社の長年の技術が強く必要とされると高瀬さんは予想する。
「ネックを挙げるなら、当社製品を展示している実店舗が自動車用品中心のため、実際に座り心地を試してから買うのが難しい。今後はもっと能動的に家具やeスポーツと連動させて、多くの人の目に触れ、実際に座れる機会を創出して、さらに認知度を上げていきたい」と高瀬さんは展望を語った。
会社データ
社名:ブリッド株式会社
所在地:愛知県東海市東海町1-11-1
電話:052-689-2611
代表者:高瀬嶺生 代表取締役社長
創業:1981年
従業員:15人
【東海商工会議所】
※月刊石垣2022年5月号に掲載された記事です。
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