英国のブランド・ファイナンス社が発表する国家の「ソフトパワー・ランキング2022年版」が発表された。これは国力を経済規模や軍事力ではなく、「親しみやすさ」「名声」「影響力」と、ビジネス、ガバナンス、文化、教育など「七つの柱」、さらに今回は「コロナ感染対応」を含めた五分野の指標で順位付けするものだ。ロシアのウクライナ侵攻で、軍事力など「ハードパワー」に再び世界の耳目が集まる中で、アジアのソフトパワーについて考えてみたい。
22年版では米国がトップに返り咲き、2位が英国、3位がドイツとなった。大きな変化は中国が4位となり、5位の日本、12位の韓国を抜いて初めてアジアのトップに立ったことだ。コロナ対策が指標に組み込まれたことで、習近平政権の「ゼロコロナ政策」の評価が高まったが、中国は文化発信力、外交的な影響力の面でも力を増しているのも事実だ。外交面では「一帯一路」政策の拡大がある。
東南アジア諸国連合(ASEAN)で目立つのはシンガポール、タイ、マレーシアという経済発展で先行し、成熟段階に入った3カ国が横ばいだった一方、インドネシア、ベトナム、フィリピンの成長国がそろって順位を落とした。特に高成長路線を疾走しているベトナムが12位ダウンの59位に転落したのは、コロナ感染による経済活動の一時的低下はあるにせよ意外な結果だった。インドもコロナの打撃を受けながらもソフトパワーの地位は維持している。
重要なのは、経済成長一辺倒からソフトパワーの強化にも目を向けなければならない国がアジアでも確実に増えていることだ。外資の工場進出と輸出拡大から外交、教育、文化など独自の競争力を内発的に高め、新たな成長の力としなければ「中進国の罠(わな)」は突破できない。ソフトパワーの指標には「デジタル化」やその国の料理や芸術が世界に広がっているかなども含まれている点は示唆的だ。
日本では日本酒、食品、工芸品、コンテンツなどの輸出で、活性化している中小企業も増えているが、そうした「モノ」の中に文化や歴史などのソフトパワーを付加価値として盛り込めるかが利益を生むカギとなる。それは取って付けたような浅いストーリーではなく、守り続けている商品の原料、製法や根幹にある風土、習慣などを意味している。
ウクライナ危機は、プーチン大統領による強引なソフトパワーの否定だが、ウクライナの人々はそれにソフトパワーで対抗しているようにも見える。
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