長引くコロナ禍により多くの食品製造・加工業者が業績の低下に悩んでいるが、一方で地域の特色を出したり、消費行動に対応したさまざまなアイデアや販売方法を駆使したりして業績を上げている食品製造業もある。そこで、コロナ禍という逆風に負けず、自社の味にこだわり奮闘している各地の“食のものづくり会社”の取り組みを追った。
お客さまと社員の“笑顔づくり”を胸においしさを全国に届ける菓子メーカー
愛媛県八幡浜市に拠点を置く和洋菓子メーカーのあわしま堂は、スーパーやコンビニを中心に全国トップクラスの量販店販売を展開している。コロナ禍でも売り上げは右肩上がりだが、巣ごもり需要による「棚ぼた」ではない。商品開発、人材育成ともに地道な努力を続け、〝おいしい〟と〝笑顔〟を日々つくり続けている。
「日持ち」より「品質」重視の物流構築と商品開発
甘酒まんじゅう店からスタートしたあわしま堂は、今年で創業95年を数える。製造小売りから製造卸へシフトしたのは高度経済成長のころで、交通網の改善・拡張に比例して少しずつ販路が広がっていったという。つくれば売れるバブル時代でも、譲らなかったのは〝品質〟だ。愛媛県で製造した商品を翌朝店頭に並べるべく、中国、四国、九州地方にエリアをとどめた。
「100日近く日持ちする商品をつくることは可能です。実際、東北でつくって九州で販売している菓子メーカーはありますが、日持ち重視では品質に妥協が生じます。あわしま堂はあくまでも品質重視のビジネスモデルです」
そう語るのは今年7月より会長職を務める木綱德勝さんだ。あわしま堂は、1999年に京都伏見工場を構え、近畿、北陸、東海地方に販路を広げ、2015年には栃木佐野工場を新たに開設。東日本エリアにも製造拠点を設けて、「つくった翌朝店頭に並ぶ」を全国規模で実現させた。
追求したのは鮮度だけではない。餡(あん)が命の和菓子を例に挙げると、原材料の小豆の選別から餡づくりまで自社で行っている。全国規模のメーカーではかなり珍しいケースだ。
「以前は弊社も選別済みの豆を購入していました。しかし、年何回かは石などの異物混入の豆が届き、それが一向に改善されないため、自社で選別したところ異物混入が一切なくなったのです。自家製餡ならもち類、どら焼き、焼き菓子など生地ごとに餡をつくり分けられ、さらに細分化した微調整も可能。他のメーカーにはまねできない強みになりました」
老舗菓子店のような職人気質のものづくりが同社の真骨頂だ。
地域の食文化をベースにヒット商品の打率を上げる
そんな同社は、コロナ禍でも売り上げは好調だ。
「1回目の緊急事態宣言下でもスーパーは営業していましたので、その後も巣ごもり需要のおかげといえるかもしれません。しかし、ここ4年間の平均売り上げの伸び率は104%で、22年3月末決算で106%の伸び。急激な増減はなく順調に推移している状況です」と木綱さん。
奇策があったわけではない。コロナ禍前からフレックスタイムやテレワーク制度を導入しており、テレビ会議も15年前から取り入れていた。ワクチン接種希望者には特別有給休暇を与えるなどして、〝通常業務〟を維持し続けた。
また、全国展開だからこそ目を配ったのが各地の食文化だ。
「ある時、佐野工場からあんず大福という新商品の提案がありました。本社工場をはじめ当時社長だった私も難色を示しましたが、いざ発売してみると、年間売り上げトップ賞に輝いたんです。これには自分の舌を疑いましたね」と木綱さんは笑う。各地で慣れ親しまれた味や食材の違いを細かく分析し、ボトムアップのものづくりを促進。エリア別に新商品が年間約200点も生み出され、ヒット商品の打率が上がったという。
日々のたゆまぬ努力で商品も人材も丁寧に育む
「美味しさつくり、笑顔つくり」を企業理念にしているが、笑顔にするのはお客さまばかりではない。社員も含まれ、仕事に対して「やらされ感」がないように、役員は経営方針や目標を伝えるものの、細かいことには口を出さない企業文化を育んだ。「お金をかけずにできることから」と育休の義務化や男性の育児参加促進、新人向けメンター制度や女性のキャリアアップ支援など従業員の笑顔づくりにもまい進。「イクメン企業アワード」や「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」など数々の賞に輝き、今年3月には「健康経営優良法人2022」に認定されるなど、ホワイト企業としても注目株だ。
「専門職の育成や5S活動に注力していますが、新入社員研修後も年1回ペースで同期が集まるフォロー研修を行っています。研修という名の同窓会みたいなもので、互いに近況を報告し合って交流を深めることで社内が明るくなり、スキルアップ、モチベーションアップにもつながって、離職率が下がる効果があります」
交流の輪は社内だけに限らず、インスタグラムやツイッターなどのSNSを活用した対お客さまやお客さま間にまで広がっている。
「フォロワーからの提案で、カップに細かくカットしたカステラを入れ、その上にソフトクリームをかけるという直販店限定商品が生まれたこともあります。ネット販売やSNSは売り上げ向上よりも、企画やマーケティングを目的に活用する意味合いが大きいです」
企業理念のとおり「人」「モノ」「コト」にきめ細かく心を配り、改善し、また心を配る。日々の積み重ねが、奇策も秘策も必要としない総合力の高いものづくりを生み出しているようだ。
会社データ
社名:株式会社あわしま堂
所在地:愛媛県八幡浜市保内町川之石1-237-53
電話:0894-36-2177
HP:https://www.awashimado.co.jp/index.php
代表者:傳長 秀文 代表取締役社長
従業員:985人
【八幡浜商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。