約70年間営んできた漁船漁業から水産加工へと事業を転換し、以降40年にわたって、イカを中心とした加工品の製造販売を行ってきたのが新潟市のヤマキ食品だ。同社が10年以上前に売り始めた「いかのふっくら焼」は口コミで広がり、テレビの全国放送で人気に火が付く。その後もたびたびメディアに取り上げられ、ロングランヒットを続けている。
漁師の目利きを生かしてイカの加工品開発に着手
魚介類消費大国として知られる日本。中でも常に消費量上位にあるのがイカだ。どう調理してもおいしいが、しょうゆと砂糖で焼いたイカの匂いにそそられない人は少ないだろう。そんなイカ焼きを、子どもやお年寄りでもかみ切れるくらい軟らかく、プリッとした食感に仕上げたのがヤマキ食品の「いかのふっくら焼」だ。イカは火を通し過ぎると硬くなる性質があるが、同商品は1匹380gを超える大きくて肉厚な素材を使い、丁寧に筋繊維を切る加工を施すことで克服。ふっくらとした焼き上がりを実現し、10年以上も愛され続けている。
「この商品は、水揚げ直後に下処理をし、船上で急速冷凍されたイカを使用しています。これは高級マグロと同じ手法で、刺し身でも食べられるほど鮮度が高いので、本当においしいんです」と同社代表の黒崎一雄さんは味の秘密を説明する。
同社のある新潟は、かつて「北前船」の寄港地として大いに栄え、北洋漁業の重要な拠点だった。もともと同社は黒崎さんの祖父の代から漁業を営み、サケ・マス漁やイカ釣り漁で事業を拡大した。黒崎さんも漁師を継ぐつもりで漁船に乗っていたが、国連海洋法条約により遠洋での操業が禁止されたことを機に、約70年の歴史に幕を下す。黒崎さんは漁師の目利きを生かして、イカを中心とした水産加工品の開発・販売に舵を切った。
「イカを選んだのは、手に入りやすく比較的安価なこと、冷凍品を使えば加工がしやすくて、寄生虫のアニサキスの心配もないことなど。でも、一番の理由は、日本人はイカが大好きだということです」
テレビ番組の企画に応募し売れ行きの起爆剤に
最初に商品化したのはイカの塩辛だ。さまざまな製法がある中、同社は胴体部分だけを使い、主に中元や歳暮などのギフト用として卸売り販売していた。ただ、残った耳と足がもったいないので、甘じょっぱく味付けしてギフトのおまけに付けていた。
2000年ごろ、家業に戻ってきた息子の識正さんが、時代を見据えてネット販売にも乗り出そうと提案する。自身でHPを立ち上げ、創業者の黒崎荘三郎氏から名前をとって、オンラインショップ「イカ屋 荘三郎」を開設した。味付けイカは長らくおまけの扱いだったが、「おいしい」と評判だったため、09年ごろより新商品として売り始める。
「オンラインショップのユーザーレビューに、『日本海のイカは耳と足だけで泳いでいるの?』という書き込みがありまして。おまけのうちはいいけれど、商品化するなら胴体も入れて、きちんとつくることにしました」
黒崎さんには「うちは後発メーカー」という思いがあり、他社との差別化を意識したという。例えば、漁獲量の増減で価格が変動しても、原料は国産にこだわった。また、他社が味付けを濃くする傾向にある中、同社はそうせず、耳、胴体、足を別々に調味料に漬けたり、季節によっても時間を調整したりするなど手間を掛けた。
味には自信があったが、当初の売れ行きは低調だった。その打開策として、識正さんが思いもよらぬ提案をする。
「日本テレビのバラエティー番組で、全国からおいしいものを集めて、スタジオのゲストが味をジャッジするという企画があり、そこに応募しようと言うんです。そんなの無理だろうと言ったんですが、最終選考に残って番組出演が決まりまして。ゲストの方々から上々の評価をいただきました」
その直後から問い合わせが殺到する。1時間に1312件の注文が入り、対応しきれずに1カ月ぐらいは電話線を抜くほどだった。その後も情報番組やニュース番組など多くのメディアに取り上げられ、百貨店の催事にも出店を果たして商品の知名度が上昇。ロングランヒット商品に成長していった。
オンラインショップやHPでの継続する情報発信が奏功
同商品の快進撃は、メディアに取り上げられたことが人気に火を付けたことは間違いないが、早い段階からオンラインショップを開設したことが奏功した。人気は一過性で終わることも少なくないが、同社の場合、HPで自社のヒストリーや、製造現場の動画、イカのお役立ち情報を紹介するなど、随所に工夫が施されている。SNSも活用して、ユーザーへ発信し続けていることも購買につながってきた。そうした地道な努力のかいもあり、コロナ禍では巣ごもり需要で注文が急増し、20年には過去最高益を達成した。
イカを中心に商品展開をしてきた同社が、今新たに力を入れているのは「漁師茶漬け」シリーズだという。生の素材からつくる料亭のような味わいをコンセプトにしたお茶漬けで、生のタイ、アジ、アワビ、エビ、ウニなどを使った本格派だ。親子三代にわたって営んできた元漁師のプライドを感じる一品である。
「おかげさまでオンラインショップの反響も良く、口コミやレビューも高評価をいただいています。今後はギフト需要にも対応できるようにして、幅広いお客さまに食べてもらいたいですね」と語る黒崎さんの笑顔が印象的だった。
会社データ
社名 : ヤマキ食品
所在地 : 新潟県新潟市中央区稲荷町3615
電話 : 025-229-9262
代表者 : 黒崎一雄 代表
設立 : 1979年
従業員 : 8人
【新潟商工会議所】
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
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