1915年に青果問屋として創業した本田屋本店。四代目の本田勝之助さんは、先代の知見と地域ネットワークを生かし新時代の問屋業ともいえる事業展開を始めた。地域経営という視点で地域の活性化に取り組む「地域プロデュース」の総合専門会社として、全国各地の〝未来づくり〟をサポートしている。
先人の思いを受け止めITで地域振興を目指す
会津藩の城下町として栄え、戊辰戦争の地として知られる福島県会津若松市。ここで本田屋本店は青果問屋として1915年に創業した。二代目のころにはいくつかの青果問屋と合同出資で青果市場を立ち上げ、本田屋本店の二代目、三代目が市場の社長を務めた。だが、四代目の本田勝之助さんは「継がなくていい」と言われ育ったという。本田さん自身、海外留学を夢見たが、思いは高校時代に一変した。新聞部の活動を通して、戊辰戦争に敗れて下北半島で生き延びた会津藩の人々の、過酷な人生と会津復興への強い思いを知り、衝撃が走る。
「誰かが先人の思いを受け止めないと。使命感のようなものが芽生えました」と本田さん。同時期に日本初のコンピューター専門大学として会津大学が創立され、後に学長になる人物から「IT時代が来る」と聞く。技術習得ではなくITを地域振興に活用したい。そう考え、早稲田大学で政治経済を学び、帰省時には会津大学に進学した友人らと交流を重ねた。そして2001年、友人らとITベンチャー企業を立ち上げる。「地域を一つの企業と捉える『地域経営』の視点でITを駆使し、会津という地域企業の商品力や経営力の向上、IT人材の育成を目的として設立しました。まず、ITに不慣れな会津の企業をサポートする仕事から始めました。一方で私自身は、IT業界のスピードの速さに地域や企業が追い付けず、ギャップが大きくなる状況にジレンマを感じていました。その頃、父親が体調を崩したこともあり、友人に会社を譲って休眠状態の家業を継ぐことにしました」。
会津を自慢したくなる地域ブランドを創出したい
本田さんが着目したのは約100年の歴史を持つ家業の知見とローカルネットワークだ。
「継いだのは『市場』ではなく『問屋』。大量生産、大量流通の促進ではなく、地域に根付いた在来種の農作物と食文化を後世に伝えたいと思いました。市場の代表は持ち回り制で、父が会長を退いたタイミングでほかの家が代表を務めています」
04年、四代目を継ぎ、社名を「会津食のルネッサンス」と改め、地域の農業と食のプロデュース業に本腰を入れる。初めに手掛けたのは地域に米農家が多いことから安心、安全、地域性に特化したブランド米の開発だ。
「私とスタッフ一人のスモールスタートです。米農家との関係性はありませんでしたが、父の人脈で、4農家が土づくりから協力してくれて、ピーク時には33農家と契約するまでに至りました」
有機肥料を独自に開発し、5年の歳月をかけて08年、会津産コシヒカリ「会津継承米 氏郷(うじさと)」(現・本田屋継承米)の販売にこぎ着ける。販路開拓に苦戦するものの、自ら出向いた東京の一流店で評価され、潮目が変わっていった。
あえて目標は定めず100年先を見据える
「父は長年、青果の流通に従事してきたプロフェッショナル。伝統野菜を守る会を発足したり、新しい農作物に二の足を踏む農家がいれば自ら栽培して成果を見せたり、見習う点は多々ありました」
本田さんは、米以外の農作物をはじめ、観光、伝統産業など幅広くプロデュースし、地元で通らない企画もほかの地域で〝前例〟をつくっては再提案する。先代譲りの行動力で、地域プロデューサーの先駆けとして注目される。09年には経済産業省の支援プロジェクト「平成21年度にっぽんe物産市」の地域エージェントを務め、テレビ東京の「ガイアの夜明け」でも紹介された。
だが利益追求には走らない。東日本大震災では避難指示対象となった福島県12市町村約100事業者支援の全体プロデュースを手がけ、アクセンチュア社の誘致やスマートシティ推進にも尽力する。その後も100地域以上の都市ブランド戦略を手掛け、国や自治体と連携した事業も多い。
「事業の数や規模が大きくなっても、拠点は会津です。14年には創業時の社名にして事業継承をより明確に表すようにしました。しかし、一社や一世代での成功に興味はなく、家業の売り上げを上回るプロジェクトを任されては成果を出し、またお声掛けいただく。その都度、適任の外部人材を調達して進めることも多いです。文化が高い国々は概して争いが少ないように、地域の文化と歴史を深め、高めて、地域を豊かにしたい。そのためにも教育の重要性を感じて、学校経営における教職員の満足度、経営の品質向上にも力を入れているところです。あえて目標もビジョンも掲げず、心と技を磨きつつ柔軟に対応しています」 具体的なビジョンに拘わらず、流れにあらがわずに100年先の会津を見据えるのが"本田流"のようだ。
会社データ
社名 : 本田屋本店有限会社
所在地 : 福島県会津若松市中島町2-52
電話 : 0242-25-1778
HP : http://hondaya.jp/
代表者 : 本田勝之助 代表取締役社長
従業員 : 10人
【会津若松商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
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