6月末、中国国家統計局が発表した購買担当者景況感指数(PMI)によると、製造業の指数は49・0、3カ月連続で50を下回った。PMIは50を境に景気の拡大と減速を示すといわれており、中国経済は低迷から抜け出せていないようだ。
過去に中国政府は、景気先行き不透明感の高まりに対応して、積極的な経済対策を実行してきた。これまで、中国では地方政府が不動産デベロッパーなどに土地を売却し、その資金を固定資産投資などの景気対策に再配分して高い成長を実現してきた。マンション建設の増加は、企業の設備投資や生産、雇用も押し上げた。リーマンショック後、不動産価格が上昇し、2011年から20年頃までに、新築住宅販売価格はほぼ倍になった。政府は不動産の建設(投資)を増やした。リーマンショック後の世界的な超低金利環境もあり、“住宅価格は上昇し続ける”という、一種の神話とでもいうべき強い成長期待が醸成された。
投機熱の高まりを背景に、地方政府の土地使用権譲渡収入は増えた。それを元手に、インフラ投資や産業補助金政策を強化した結果、コロナショックまで、中国経済は6%台を上回る高い成長を実現した。政府は、主に住宅購入者向けの規制などを強化し、バブルの膨張、景気の過熱をコントロールして高成長を続けようとした。しかし、コロナショックや20年8月の不動産融資規制の実施により、市況は急激に冷え込んだ。23年1月にゼロコロナ政策が終了した後、住宅価格が下げ止まるかに見える場面もあったが、価格上昇の勢いは弱い。年初来、不動産投資は減少基調だ。
土地の使用権譲渡収入は地方政府の歳入の3割程度を占める。不動産市況悪化による歳入減少やゼロコロナのための検査費用負担などもあり、地方財政は悪化。地方政府傘下の金融会社、“融資平台(LGFV)”の債務問題に対する懸念も高まっている。インフラ投資などの対策を打とうにも、財源不足から思い切った対策は打ち出しづらい。最近になって、ようやく景気下支えのため金融緩和を強化し、銀行に融資を増やすよう要請を強めたが、融資は伸びていない。中小企業を中心に資金繰りの逼迫度は高まり、裏返しとして若年層を中心に、失業率は過去最高に上昇した。この状況の根本的な改善のためには、不動産関連の不良債権処理を本格的に進める必要がある。それは一時的に失業者や倒産企業を増やすことにはなるが、中・長期的な経済成長と社会の安定には避けて通れないバランスシート調整だ。それはバブル崩壊後のわが国経済からの教訓でもある。
こうした中国政府の動きを反映して、中国経済を見限る投資家は増えているようだ。外国為替市場では、米ドルに対する人民元の下落が鮮明化した。中国人民銀行はオフショア市場で人民元買い・米ドル売りの介入を実施したもようだ。株式市場に目を向けると、多少の価格上下はあるものの、22年以降、上海、深圳ともに本土の株価は弱含み傾向だ。香港株式市場も同様だ。対照的に、5月以降、わが国をはじめ主要先進国の株価は勢いよく上昇した。人工知能関連企業の成長期待の高まり、依然として緩和的な金融環境などの影響は大きい。
現在、中国の不動産市況の低迷は大方の予想を上回っている。共産党政権は、民間企業の成長促進よりも、思想教育などをより重視しているようにも見える。台湾問題などの地政学リスクや生産年齢人口の減少は、多国籍企業が生産拠点の海外シフトを急ぐ要因になった。いずれも、持続的な景気の回復を阻害することも懸念される。
今後、米国の金融政策も中国経済を下押ししそうだ。米国の物価は目標値である2%を上回る状況が続いている。FRBの金融引き締めは長引くだろう。米中の金利差は拡大し、中国からの資金流出の勢いは強まる可能性が高い。いずれ米株が下落し、中国株に売り圧力が波及する恐れもある。当面、チャイナリスクの削減に動く主要投資家が増え、わが国の経済にも少なくない影響がありそうだ。
(7月12日執筆)
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