2023年10月の訪日外客数が251万6500人に達し、コロナ禍前の19年の同月との比較で初めてプラスとなった。韓国、米国などからの月間訪日客数は過去最高となる一方、中国は19年同月比65%減とインバウンド需要の回復には大きな偏りがある。その中で注目されるのは、日本での消費傾向の変化だ。
ニッセイ基礎研究所が観光庁の統計を基に分析したデータでは、訪日外国人の消費を19年と23年4︱6月期で比較すると、土産物などに使った「モノ消費」は8・4ポイント減となった。宿泊、飲食、サービスなど「コト消費」は8・5ポイント増と、「モノ」から「コト」へのシフトが見える。宿泊費、飲食費の高騰という要因はあるにせよ、かつては宿泊費を倹約し、買い物中心だった中国人が日本での支出全体で宿泊費の比率を7ポイントも伸ばし、買い物支出を7・7ポイント減らしたのが目を引く。
外国人観光客が急増した京都のまち中で目立つのは、スマホを運転手に示しながらタクシーに乗り込む姿。その多くが「かなり通な飲食店へ向かう」という。その飲食店で、あの旅館で、という〝名指し〟のコト消費の増加は歴然としている。
またメディアの話題にもなっているが、忍者や山伏の体験、アニメのコスプレから陶器づくり、和食教室、お遍路さんまで、外国人向け体験型消費の需要は着実に拡大している。そうした「楽しみ」、英語でいえば「ファン(Fun)」の消費は世界的に伸びており、料金高騰が目立つことから「ファンフレーション(Funflation)」という用語も生まれている。
モノ消費でも「菓子」「化粧品」「薬品」がトップ3だったが、変化が見える。伸びているのは「家庭・厨房用品」「家電」「文具」「アウトドア用品」「日本酒・ウイスキー」で、とりわけ日本での買い物が数十万円といった上顧客層にその傾向が強い。そうした新しい日本の人気土産物は品質が高いだけでなく、長い伝統と文化、洗練された個性的デザインなどの特長がある。
かつて日本の製造業は「品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)」のQCDを目標に発展してきた。だが、そのQCDでは中国や東南アジア製品との差別化は困難になっている。今、目指すべきは「品質」に「文化(Culture)」と「デザイン(Design)」を加えた、「新QCD」だろう。
「ファンフレーション」と「新QCD」に突破口を開く鍵がある。
最新号を紙面で読める!