フィリピンが昨年の成長率でASEANトップに躍り出た。フィリピン統計庁によると、2023年の成長率は5・6%と政府目標の6・0~7・0%には届かなかったが、カンボジアの5・3%、ベトナム、インドネシアの5・1%を上回った。経済好調の要因は、22年6月に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領のインフラ開発政策「ビルド・ベター・モア」による景気浮揚効果が大きいが、中国からの工場移転による雇用と輸出の増加、コロナ禍で一時落ち込んだ海外で働くフィリピン人からの本国送金の増加も貢献している。
フィリピンは日本の特殊詐欺グループが拠点を置くなど、相変わらず治安の悪い印象が強いが、殺人事件発生率(人口10万人)は19年で年間4・32件と10年前の半分以下に急減した。もちろん日本の0・23件、シンガポールの0・1件とは比べようもないが、ドゥテルテ前政権以来の改善は目覚ましい。 今、注目すべきは日本を含む外資メーカーによる、中国からの工場移転の波。マニラ中心部から車で1時間ほどのリマ工業団地を3月初旬に訪問した。丸紅が1995年に開発を始め、現在は地場資本のアボイティス・グループが主体となり、拡張を続けている。800haの広大な敷地に145社が進出、うち日本企業は約50社。エプソン、古河電工などが大規模な工場を稼働させている。同じ規模の工業団地は中国、タイ、ベトナム、インドネシアなどにも多くあるが、リマ工業団地は6万5000人に上るワーカーの出退勤の団地内移動を50台の電動バスで行うなど、環境対応が一歩進んでいる。
工場群の隣にはH&Mやアディダス、スターバックスなどが入居する大型アウトレットモールが立地し、コンタクトセンターやバックオフィス業務、ソフト開発などを請け負うIT-BPM企業向けの大型ビルが7棟建設される予定。住宅も含め高水準のオールインワン型開発コンセプトは斬新だった。 フィリピンの人口は1億 1556万人(22年)で、数年後には日本を抜く。合計特殊出生率は2・75(21年)とASEANトップ。若年労働力供給の潜在力はインドネシアと並ぶだろう。中国からの工場移転ではベトナムとフィリピンが最も追い風を受けており、しばらく両国の快走は続くだろうが、国民の平均年齢はベトナム32・4歳に対し、フィリピンは24・7歳。長期的にはフィリピンに分がある。問題は電力などエネルギー不足。原子力や大規模なLNG火力の発電所建設が、マルコス大統領の次のミッションとなるだろう。
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