昨年12月、バンコク最大の繁華街、スクンビット通り沿いのプロンポンに新しいショッピングモール「EMSPHERE(エムスフィア)」がオープンした。隣接する「エンポリウム」「エムクオーティエ」と合わせ、「エム・ディストリクト」と呼ばれる巨大商業集積となった。
バンコクでは、同じスクンビット通り沿いに「セントラルワールド」「サイアム・パラゴン」「ターミナル21」がBTS(高架鉄道)の駅と直結する形で林立。チャオプラヤー川岸のリバーサイド地区にある「アイコンサイアム」「アジアティーク」などと合わせ、巨大ショッピングモールが庶民や富裕層、観光客など外国人の買い物の舞台となっている。
日本も東京、大阪など大都市圏ではデパートや多目的なテナントビル、ターミナル駅の地下街などがショッピングの中心だが、銀座や新宿には大規模な路面店もある。日本の商業集積は清潔かつ機能的な半面、どこに行っても構造や雰囲気は似通っており、個性的といえるものは少ない。これは著名ブランドを並べ、規模や華やかさだけを競う上海、北京など中国やマレーシア、フィリピンなどの商業施設にも共通している。
逆にバンコクのショッピングモールは差別化のために、大胆に個性を打ち出すものが多く、「タイのモールはテナントを呼ぶ不動産業の枠を超えて、独自の世界観を顧客に訴え、競争している」と説明する専門家もいる。
3月に立ち寄った「エムスフィア」は、買い物客を退屈させない斬新さがあった。コンクリートの打ちっぱなしの内部、高い天井と幅広い通路が生み出す広い空間は、店が密集する日本のテナントビルとは全く違った開放感と豊かさを与えている。吹き抜け部分に渡されたブリッジは床が赤い電飾で彩られ、天井は青や赤の照明で飾られる。「エムスフィア」の主要テナントの「IKEA」も、一等地のモール内とはいえ広さを確保していたのが印象的。東京や大阪の商業集積が無個性で、退屈に見えてくる。「無印良品」「ZARA」など日本でも定番の店もバンコクの方がなぜか、購買意欲をかき立てられるから不思議だ。
日本を上回る外国人観光客数を誇り、長期滞在者も多いタイ故に外国人も含めた顧客を呼び込む努力をしているのかもしれない。日本もインバウンド観光客の消費拡大には各店舗のブランディングとともに、商業集積の差別化が必要になっている。タイから学ぶことは少なくない。
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