雨の火曜日、閑古鳥が鳴く飲食店に訪れたお客さまを、店主が精いっぱいもてなしたとします。それ自体は素晴らしい行動です。しかし、そのお客さまが「いい店を見つけた」と大切な人を誘って、混雑する土曜日に再訪した際、料理の提供が遅く、気遣いもなく、店主と親しく話すこともできなかったとしたらどうでしょう。お客さまは次回の来店をちゅうちょするに違いありません。
人は消費行動を起こすとき、常識的なレベルの「事前期待」を抱いています。期待を大きく下回れば腹が立ちますし、逆にレベルが高すぎても居心地の悪さを感じるものです。
私自身、サービスにおける事前期待の重みを実感した経験が2度あります。
一つは、妻と20年来通っていた銀座のしゃぶしゃぶ屋での出来事です。ある日、年配の仲居さんたちが、若いスタッフへ一新されていました。慣れた手つきの鍋の準備を見つつ、仲居さんとの世間話を楽しむひとときはなくなってしまいました。
店の方針であれば仕方ないと、多くは期待しませんでしたが、決定打はもみじおろしでした。いつもは小鉢に先がとんがるほど美しく成型されているのに、その日はグチャグチャで、まるで誰かの使い残しのようでした。もちろん交換してもらいましたが、長年培われた事前期待を裏切られたショックから、以来足を向ける気持ちはなくなりました。
