長期にわたり減少してきた出生数に、わずかな変化が見られる。2026年1〜5月の出生数は前年同期を0.4%上回った。これだけで、若い人の結婚や子育てへの意識が前向きになったとはいえまい▼
この動きを定着させるには、若い家族が子どもを持とうと思える広さの住宅に、手頃な価格で住めるようにすることが重要だ。都市部のマンション価格は、建設費の上昇や投機目的の購入により、高騰している。他方、手頃な賃貸住宅は、持ち家と比べて見劣りする。東京都の共同住宅の場合、持ち家の広さは69平方メートルに対し、賃貸住宅は、単身向け物件が多いことも一因だが、39平方メートルにとどまる。つまり、家族のいる世帯が住み続けられる広さの賃貸住宅が選択肢になっていない▼
この状況を重く見る神戸大学の砂原庸介教授は「住まい」は人々の権利だと説く。日本の住宅政策は低所得者支援が中心だが、海外のように中間層向けの家賃補助を導入すべきだと主張する。少子化対策が、子ども誕生後の経済支援に偏る中、住宅政策は子どもを持つかどうかという意思決定に直接、働きかける可能性がある▼
住宅は人々の生活を支える社会インフラだ。日本の経済水準に見合った質の居住環境が、適正な価格で確保されるのであれば、市場への一定の公的介入も正当化されよう。投機的な動きに制限をかけ、中間層向け家賃補助や居住の質を確保する施策を実施する。「かろうじて居住できる」規模の新築供給を追求するのではなく、「安らげる空間」として居住の質を高める住宅政策へと転換すべきだ。出生数の変化を、これから家族をつくろうとする人々が安心して暮らせる住まいとは何かを考える契機としたい
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)