女子プロテニス、大坂なおみ選手のプレーをはじめて生で見たのは、2016年の全豪オープン(メルボルン)だった。
身長180㎝。女子の選手としては申し分のないフィジカルを誇る彼女だが、そのテニスはまだまだ粗削りだった。持ち味は、豪快なサービスとパワフルなフォアハンドで、これが決まった時には相手は何もできない。ところがゲームの中で好不調の波が大きく、自分のショットが思うように決まらないと苛立ちを見せ、どんどん失点が続いてしまう。揚げ句、大きな声を出して溜まったフラストレーションを爆発させるのだが、自分からミスを連発して自滅するような試合内容が多かった。この時も3回戦まで進んだが、持てる力を発揮しきれずに大会から姿を消した。
あれから2年。女王セリーナ・ウィリアムズとの決勝を制し、全米オープン・チャンピオンに輝いた大坂なおみ選手は、それまでの弱点を克服し、見違えるような選手に成長していた。豪快さとパワーで押し切るのではなく、状況を把握しながら有利なポイントで的確なプレーを繰り出していく。その冷静さと我慢強さが、相手をじわじわと苦しめていく。メンタルのマネジメントがゲームマネジメントにつながり、ミスの少ない(負けない)選手へと見事な変貌を遂げた。
変身の理由は、新しいコーチとの出会いだった。去年12月から指導を受けているドイツ人コーチのサーシャ・バイン氏とアメリカ人トレーニングコーチのアブドゥル・シラー氏のアドバイスが彼女を変えた。
バイン氏は大坂選手に「思い切り打とうとしなくていい」と言い続けた。フルパワーで打たなくてもコースさえよければ十分にエースが取れる。彼女にそのことを教えたかったのだ。シラー氏とのトレーニングでは、体重を7㎏減量した。それはそのままロングラリーに強いスタミナを生んだ。大坂選手は試合の中での我慢を覚え、ここぞという勝機を逃さない冷静さを身に付けたのだ。
我慢とはただただ劣勢を耐え忍ぶことではない。心を冷静に保ち、置かれている状況を的確に把握することだ。これは私たちの日常にも通じることだろう。
彼女にはまだまだ伸びしろがある(バイン氏)。飾らない自然な会話(コメント)も大人気だ。日本のテニス界に素晴らしい才能が現れた。
写真提供:USA TODAY・ロイター=共同
最新号を紙面で読める!