ゴムひものような伸縮性が足とシューズのフィット感を生み、コブ状のふくらみが締め具合を自在に調整してくれる、「結ばない靴ひも」キャタピラン。多くのランニング愛好家に注目され、発売を開始して1年足らずながら約50万本を売り上げ、プロのランナーにも愛用されている。靴ひもなのに結ばないという今までの常識を覆すような商品は、どんなきっかけから生まれたのだろうか。
ひもを結ばなくても脱ぎ履きが可能
創業以来、家電製品、キッチン用品、生活雑貨を製造・販売してきたツインズ。同社が開発した「キャタピラン」は、ゴムひものような伸縮性があり、コブ状のふくらみが等間隔に付いている。靴を履くたびにひもを緩めたり結んだりする必要がないので、簡単に脱ぎ履きができる。
「6本のゴムと12本のナイロンがらせん状に絡み合っていて、伸ばすとコブがなくなり、放すとブロックする仕組みです」と紹介するのは、代表取締役の梶原隆司さん。
「ランニングシューズには素材、軽さ、弾力性など、さまざまな性能がありますが、それを生かすには靴ひもが大事です。これまで靴ひもは、きつく結ぶか緩く結ぶ、どちらかしかできませんでしたが、キャタピランは部位によってきつくも緩くもできます」
指の付け根の足幅が最も広くなっている部分はきつく、甲のある部分はひもを緩めに通し、足首の周りは再びしっかり固定することで、シューズの中でかかとが浮く「スリッパ現象」を抑えることができるという。
どんなシューズにも対応するよう試行錯誤
「開発のきっかけは、当時、小学生の息子に新品のシューズを買っても2~3週間すればかかとがつぶれているのを見たことでした」と梶原さん。ひもを結んだりほどいたりするのが面倒で、かかとを踏んで履いていたのだ。
何とかしたいと思っていたある日、スポーツクラブに行くとキャタピランの原型になったフランス製の靴ひもを目にする。
「こんな靴ひもがあったら面白いと思いました。ただ、改善が必要な点もあり、それなら自分たちで開発しようと決めました」
梶原さんは、アパレル工場を経営している日本人の友人に協力をしてもらい、工場に行くたびに打ち合わせを重ねた。ところが、思いもよらなかったことが判明する。
「ひもを通す穴の大きさがメーカーによってマチマチで、同じメーカーでもシューズのモデルで違いがあることが分かりました。メーカーによって使えないのでは汎用性がありません。市販されているほとんどのシューズに適応するように、コブの直径や硬さ、材質、コブとコブの距離など、試作を繰り返しました」
プロのランナーが機能を絶賛
当初、梶原さんは子ども向けのシューズやスニーカー用の靴ひもをつくろうと考えていた。そんなとき、知人に紹介されたのがプロランナーの岩本能史さんだった。この出会いが新たなきっかけを生む。
200㎞以上の距離を走るウルトラマラソンで数々の大会に入賞するなど、その世界ではカリスマ的存在として知られている岩本さん。そんな岩本さんがサンプル版を着用して走った後、「これは絶対ランニングにいい」と言ってくれたのだ。
梶原さんは、ランニング用の靴ひもとして販売することを決意。試作品が完成するとランニングシューズに着けて走り比べてみた。購入したシューズの数は50足を超えたという。
「開発には2年以上かかりましたが、完成後は多くの問い合わせをいただきました」と梶原さん。昨年3月にスポーツ用品量販店などで販売を開始すると、新聞や雑誌、テレビ番組など、さまざまな媒体でキャタピランが取り上げられた。
中でも、昨年7月にテレビ番組「ぶらり途中下車の旅」で紹介された直後は反響がすごかったそうだ。
「番組内で(大相撲の元小結)舞の海さんが紹介してくれたのですが、ホームページのアクセス数が普段は1日600件ほどなのが、放送後は2万5000件に激増しました。2日間は問い合わせの電話が鳴りっぱなしで、取引先から『今日は休みなの?』と携帯電話に連絡があったほどです(笑)」
昨年の10月下旬には、ABCマートが全国の約600店舗で販売を始めた。同社が新商品を最初から全国規模で扱うのは珍しいそうだが、「販売を始める前から興味を持ってもらっていたようです」(梶原さん)という。
こうして販路を拡大し、今年1月までの1年足らずの間に約50万本を売り上げた。生産が追い付かず、欠品になったこともあったそうだ。
不便な所を解消し、価値を加えるのが開発のコンセプト
「キャタピランをお使いになった方からは『シューズが足にフィットして軽く感じられます』『マメができなくなって、走ることがこんなに楽しくなるとは思いませんでした』といった感想が寄せられています」と梶原さん。今後は、ランニング以外にも使える新商品の開発に取り組んでいくという。
「3月にはゴルフ用の靴ひも『キャタピーゴルフ』を発売します。ゴルフシューズはひも穴が5個のものが多いので、長さは60㎝とキャタピランより短めにし、撥水加工を施しています」
さらに、ひも穴の大きいブーツ用や、内装職人、運送業者など靴を頻繁に脱ぎ履きする機会が多い人、医師や看護士に使ってもらえるものもつくりたいという。
「以前、看護士の方とお話しする機会があったのですが、『長時間労働で足がむくむ』と聞き、病院で履く靴に使えるものも開発したいと考えたのです」
梶原さんは「どんな製品でも、不便な所を解消し、そこに価値を加えてお客さんに納得してもらうことが、当社の商品開発のコンセプトです」と話す。「家電製品なども大手販売店で扱ってもらっていますが、『良いものをつくれば必ず売れる』という信念があります」。
こうした姿勢で開発に取り組んだからこそ、多くの人に愛用される全く新しい商品が生まれたのだろう。
会社データ
社名:株式会社ツインズ
住所:千葉県船橋市金杉7-1-9 ツインヒルズ西館3F
代表者:梶原隆司 代表取締役
設立:平成11年
資本金:1000万円
従業員:20人
※月刊石垣2014年2月号に掲載された記事です。
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