政府はこのほど、「平成26年度エネルギー白書」を閣議決定した。白書では、東京電力福島第一原子力発電所事故への対応に加えて、エネルギーコスト問題、エネルギー安全保障問題などを分析。震災後の電気料金が産業用で約40%も上昇している点などを指摘している。白書の概要は以下の通り。
第1部第1章 「シェール革命」と世界のエネルギー事情の変化
米国の「シェール革命」による変化
○米国において、従来は経済的に掘削が困難と考えられていた地下2000メートルより深いところにあるシェール層からのガス(シェールガス)が2006年以降、本格的に生産されるようになった。
シェールガスの開発は、世界のエネルギー事情や政治状況にまで大きなインパクトを及ぼしており、この変革は「シェール革命」と呼ばれている。
○シェール革命は、①技術革新、②天然ガス価格の上昇、③米国政府による支援などによって可能となった。
○米国は2009年以降、世界最大の天然ガス産出国となっており、2020年までに天然ガスの純輸出国になると予想されている。また、原油についても、生産の拡大を進めており、2013年10月には、1993年以降で初めて米国の原油生産量が原油の輸入量を上回った。
○米国におけるエネルギー需給構造の変化は、天然ガスにとどまらない。
○シェールオイルの開発・増産は米国の原油輸入量を減少させている。シェールオイルは軽・中質であることから、特に大きな影響を受けているのは、米国への軽質油の供給国であったナイジェリア、アンゴラ、アルジェリア。
○また、安価な天然ガスの増産が進んだことで、発電において天然ガスへの依存が増大し、石炭の需給構造が大きく変化。消費量・生産量が大きく減少し、輸出が中心となってきている。
○こうした米国のエネルギー需給構造の変化が、世界のエネルギー需給構造にも大きな変化を及ぼすことになる。
「シェール革命」時代の国際的なエネルギー動向の変化
○米国の「シェール革命」と時期を同じくして、シェール以外の非在来型の原油・ガスの開発・生産が、各国で進められている。
○カナダの2013年の原油生産量の約半分がオイルサンドからの生産であり、数十年間にわたり安定的に生産量が見込めることから、国内外から資本が集まっている。
○ベネズエラの超重質油は、2010年ごろから確認埋蔵量に加算されることとなり、サウジアラビアに代わって、世界最大の原油埋蔵国となった。
○米国の「シェール革命」によって、世界のエネルギー需給構造が大きく変化している。
○米国への輸出拡大を見込んでLNGの生産能力の拡張を進めていたカタールは、「シェール革命」によって米国へのLNGの輸出機会を失うこととなり、欧州やアジア市場の開拓に動いた。
その結果、ロシア依存からの脱却を目指していた欧州はカタールからのLNG輸入を増やした。また、日本は東日本大震災後の火力発電需要の大幅増に直面した際にカタールからのLNG輸入を拡大して対応することができた。
○カタールからのLNGや米国からの石炭により、欧州のエネルギー事情が変化する中、ロシアはアジア市場の開拓に乗り出している。
主要国および日本の「エネルギー安全保障」の変化
○「シェール革命」を経て、米国を含めた主要国のエネルギー事情がどのように変化したかを確認するために、「エネルギー白書2010」で使用した「エネルギー安全保障の定量評価指標」を用いて、直近と2000年代(「エネルギー白書2010」における)数値との比較を行うことで、「シェール革命」の時代に入って各国のエネルギー安全保障がどのように変化しているかを7つの評価項目ごとに主要国と日本について分析する。
○東日本大震災およびその後の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、直近の一次エネルギー自給率、エネルギー源多様化の点数および評価指数が2000年代に比べ悪化。
○エネルギー輸入多様化を除く項目全てで評価を下げ、今回の分析対象国中、点数は最低となっている。
○米国からのLNGについては、日本企業は、日本のLNG輸入量の2割に相当するLNGについての引き取りの契約を締結済み。2016年以降、順次、日本への供給が開始される予定。今後、北米からの天然ガスの輸入が増えれば、供給源の多角化を通じてエネルギー安全保障が強化されることになる。
第1部第2章 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故への対応
東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置などに向けた取り組みなど
○廃炉については、4号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しを2014年12月に完了。
○汚染水対策については、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」の3つの基本方針の下、重層的な対策を実施。このうち、凍土方式の陸側遮水壁は14年6月より本格施工に着手し、15年4月30日に試験凍結を開始。
○K排水路から比較的低濃度の放射性物質を含む水が外洋に流出していたことを受けて、15年2月末より、流出を抑制するための追加対策(浄化材の設置など)を実施。また、国も主体的に関与しながら、敷地境界外に影響を与えるリスクの総点検を実施し、15年4月28日に点検結果を公表。
○廃炉・汚染水対策について、着実に取り組みを進めるべく、「リスク低減の重視」や「徹底した情報公開を通じた地元との信頼関係の強化」などをポイントとして15年6月に改訂を行った「中長期ロードマップ」に沿って対応。
原子力損害賠償
○今回の事故により生じる原子力損害に関しては、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針により、東京電力より財物賠償、精神的損害賠償などを実施。約4兆9499億円を支払い済み(2015年5月22日現在)。○13年12月にまとめられた中間指針の第四次追補を元に、一括慰謝料の賠償(14年4月)、生活の再建を図るための住居確保にかかる賠償(同年7月)を開始。
原子力被災者支援
○福島県の復興の指針である「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂(2015年6月閣議決定)し、早期帰還支援と新生活支援の両面の対策を深化させるとともに、事業・生業や生活の再建・自立に向けた取り組みを拡充し、自立支援策を実施する官民の合同チームを創設。
○田村市(14年4月)、川内村の一部(同年10月)の避難指示を解除、南相馬市の特定避難勧奨地点の解除(同年12月)を実施。避難指示区域などからの避難者数は約7万9000人(15年3月31日現在)。
○福島浜通り地域の新たな産業基盤の構築を目指すイノベーション・コースト構想の具体化に向けた取り組みを実施。
第1部第3章 エネルギーコストへの対応
エネルギーコストの状況
○日本は、東日本大震災以降、原子力発電所が停止し、海外からの化石燃料への依存が増大したことから、国際的な燃料価格の動向に大きな影響を受けやすい構造となっている。
○旺盛な世界需要や国際情勢の変化を背景に、2014年夏にかけて化石燃料価格が高騰。
○化石燃料の輸入増加による国富の流出や国内のエネルギーコスト高などの課題に直面。
○火力発電所の稼働率上昇に伴う火力燃料費の増大などにより、大震災以降、家庭用の電気料金は約25%、産業用の電気料金は約40%上昇。
○エネルギー関連の消費者物価指数は、大震災以降、大きく上昇。
エネルギーコストの影響
○エネルギー関連の消費者物価指数の上昇により、電気代などへの家計における支出額が大きく増加し、教養娯楽への支出が減少するなど、家計の支出パターンにも影響。
○電気代の負担は、年間収入が低いほど、世帯主の年齢が高いほど負担が大きいことも家計の支出状況から明らかになっている。
○エネルギーコストの上昇に対し、家庭でも節電に努めるなどの取り組みが行われている。ただし、例えば、電力については上昇幅の方が大きいため、節電を行っても電気代支出額の増加が止まらない状況であり、エネルギーコストは家計にも大きな負担となってきている。
○産業界においても、ある調査では、更なる電気料金の上昇は1円/kWh未満が限界という意見が約6割を占める状況に至っている。
エネルギーコスト対策
○2014年度補正予算において、省エネルギー対策の強化、燃料対策、地産地消型など再生可能エネルギーの推進など、エネルギーコスト高対策を中心に、エネルギー対策として3601億円を計上。
第2部 エネルギー動向(データ集) 略
第3部 2014年度においてエネルギーの需給に関して講じた施策の概況 略
第2部、第3部の詳細はこちら
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