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テーマ別企業事例 産学官で育てる! 地域主導で動き出す“人材創生”

事例2 インターンシップ体験が企業と学生を鍛える

郡山商工会議所(福島県郡山市)

福島県の郡山商工会議所が実施するインターンシップ事業を通じて、企業側は累計で1200人を超える学生を受け入れている。学生に仕事の本質を学んでもらい、地元に欠かせない人材に育てることが目的だ。インターンシップは地方の人材創生に欠かせない役割を果たしている。

広告業での実習。実習初日のオリエンテーションで社員から業務内容の説明を受ける

橋本内閣の「6つの改革」でインターンシップを推進

インターンシップ(教育の一貫として行われる学生の就業体験)を国を挙げて推進するようになったのは、平成9年に橋本内閣が最重要課題として発表した「変革と創造~6つの改革」がきっかけだ。6つの改革の一つ、経済構造改革に対応して「経済構造の変革と創造のための行動計画」が策定された。その中で新規産業の創出のため「インターンシップについての支援やベンチャービジネスを担う人材を育成するためのカリキュラムの充実などにより創造力とチャレンジ精神を持った人材を育成」とうたった。さらに「インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会報告」ではインターンシップに求められる条件として「学校と産業界などの連携・協力により行われるものであること」といった6条件が示された。

こうした政策により、企業側、学校側が留意すべき点が明らかになり、インターンシップ実施の下地が整うと、郡山商工会議所は事業実現に向けて素早く動いた。経営委員会などで「企業として人を育てる事業を率先してやっていこう」という声が上がったことを受けて、翌年の10年には会員企業5社を募り、学生9人を受け入れた。2回目の11年は学生数33人、3回目の12年は45人と順調に増えた。ここ数年は企業(事業所)の登録社数は60~80社(8割が常連、2割が新規)、学生(現在の対象は4年制大学、短期大学、専門学校、高等専門学校)の参加は、60~80人で推移している。学生に対するインターンシップ事業の案内は県内市内に限定せず、首都圏の1都3県まで広げている。

企業は社会貢献目的で学生を受け入れる

企業がインターンシップに求めるものは何か。現在、郡山市の企業は、人手不足とそれに輪をかける早期離職という二つの課題を抱えている。「震災後は復興事業によって人手不足となり、今は東京オリンピックに関連して技術者が流出している状況にある」と、中小企業相談所産業振興課課長の山田剛さんは説明する。市の有効求人倍率は1・66倍(28年12月)と、全国平均の1・43倍(同)を上回る。大卒者で就職後3年以内の離職率は31・9%(28年10月)と、全国平均同様に高い。だが企業にインターンシップ導入の動機や目的を聞くと「社会貢献」が最も多いという。

「事業を始めた当初の、学生を地域で育てて宝にするという思いが引き継がれています。次いで職場の活性化のため、企業を知ってもらうため、雇用のミスマッチを防ぐためという理由が続きます。学生を受け入れるとなると、受け入れプログラムを作成して事前準備に時間を掛けなければなりませんが、その作業が受け入れ部署を活性化させる効果をもたらすようです」と山田さんは話す。

学生にとってもインターンシップを体験することは意義がある。

「以前は就職して初めてチームの一員として働くことを学びました。新入社員の中には、こんなはずじゃなかったという思いを抱いた人もいるでしょう。インターンシップを体験すると、社内ではどういう役割分担が行われていて、自分が属するチームがどのような仕事を担っているのかが理解できるようになります」(山田さん)。ミスマッチを減らせるし、新入社員の仕事の“その先”を一足早く体験することでステップアップの道筋が見えるため、定着率の向上が期待できる。

ある企業では、企業情報や個人情報に抵触しない範囲で顧客訪問に学生を同行させている。学生は、顧客と当たり障りのない会話をして終わるというイメージを抱いていたが、実際には経営に関して踏み込んだアドバイスをしたり、新たな取引先を紹介したり、とても熱い会話になっていることもあるという。こうした体験は補助的な作業に終始するアルバイトではとうてい望めない。

しかし経営者が学生を受け入れると決めても、全ての部署が歓迎するわけではない。「でも当初はインターンシップに冷ややかだった部署が学生ならではの発想や行動に刺激を受けて、以後の受け入れに積極的になった例もあります」と産業振興課の佐々木麻里さん。

「学生の側も変わります。就職活動の延長のつもりで申し込んだのに、現場を体験すると自分が成長したり、視野が広がったという手応えを感じたという声を聞きます。また苦手な分野にあえて挑戦する学生もいます。接客が苦手だったのに、意外にうまく受け答えができて自信を付けた例もありました」(佐々木さん)

学生の声には次のようなものがある。小売業では「お客さまのことを一番に考えている工夫がフロアの各所にみられ、大きな刺激を受けました」。ホテル業では「ホテルの経営について知りたいという私の希望に沿って、経理の流れを教えていただき、非常に意義深い体験となりました」。金融機関では「地元に根付いた企業ということも分かり、地元での就職を希望する自分にとって、貴重な経験となりました」。学生がインターンシップを通じて、仕事の本質を学んでいることがうかがえる。

成功のコツは学生と企業の事前のコミュニケーション

インターンシップ事業を検討する商工会議所に対して、山田さんのアドバイスは「介入しすぎないこと」。郡山商工会議所の場合、学生のエントリーを商工会議所で受け付けて企業につなぐが、その先の研修内容や日数、日程調整などは学生と企業の間で直接やりとりしてもらい、事前にコミュニケーションをとる機会を設けるようにしている。「商工会議所で全て段取りをして、学生と企業の対面がインターンシップ初日ではうまくいきません。事前のやり取りでお互いを知り、要望をすりあわせることが大切なのです」(山田さん)

受け入れ企業に対しては「受け入れ窓口を人事部や総務部に一本化して、学生が研修を行う営業部や生産管理部などにつなぐ形がスムーズです」(佐々木さん)。「研修の日数は1日、2日では学生が物足りなく感じるので、5日は確保したいところです。学生だけでなく学校とのコミュニケーションも密にしてください。保険を掛けることも忘れずに。学生のけがに対する備えというだけでなく、お客さまの大切な商品を壊す可能性だってあるわけですから」(山田さん)

学生に対するインターンシップ事業のPRの仕方も様変わりした。「以前は大学のキャリアセンターや進路指導部などにインターンシップをPRするポスターを貼っていただいていました。でも、そもそも学生が毎日通う場所ではないので、今では学生がアクセスする大学の専用ポータルサイトにリンクを張っていただいたり、HPをリニューアルしてスマホ対応にしたり、学生の目に留まりやすく、情報を得やすい形に変えています」と佐々木さんは説明する。

一方で山田さんは、課題を抱える企業と大学の研究室が共同で課題解決に当たるような新しい形のインターンシップ事業を検討中だ。今年で20年を迎えた商工会議所のインターンシップ事業は、より優秀な人材の創出と確保に向けた新たな一歩を踏み出す。

※月刊石垣2017年11月号に掲載された記事です。

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