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テーマ別企業事例 TPPは大きなチャンス 付加価値高め世界へ攻め込め!

事例3 TPPは間違いなく追い風になる 工場増設や増員で生産力をアップ

丸久(まるひさ)(徳島県鳴門市)

アパレルメーカーの丸久は、主に子供服・婦人服の企画から製造までを手掛けている。昭和34年に創業し、平成2年にはタイのバンコクで外注生産を始めた。その後も中国、バングラデシュと次々に進出し、生産を拡大させている。そんな丸久のTPPへの備えとはどのようなものだろうか。

丸久のバングラデシュ工場。写真左手に工場が新たに増設される

生産体制の変換を迫られバングラデシュへ

徳島県鳴門市に拠点を置く丸久は、四国内の外注工場に委託して衣料品を生産していた。しかし、昭和60年のプラザ合意により円高が急激に進むと、海外から安い衣料品が大量に流入してきた。それにより大きな転換を迫られた。

「当時、四国内の外注工場はどこも縮小化が進み、生産拡大は見込めませんでした。コスト面でも輸入品にかないません。そこで62年からタイの工場に発注するようになりました。アパレル業界は規制がなく、これまでずっと海外からの低価格製品の圧力に押されてきました。最近になってようやく規制緩和やTPPで危機感が出てきた業界がうらやましいなと感じるほどです」と、丸久社長の平石雅浩さんは苦笑する。

その後、平成5年にタイで自社工場での生産を開始し、7年には中国の山東省でも生産を始めた。ところが17年ごろから中国で人件費や原材料費が高騰、労働者不足にも悩まされるようになる。中国に進出した日系企業は「チャイナ・プラス・ワン」として東南アジアの進出先を探し始めたが、丸久はバングラデシュに目を付けた。

「欧米での市場調査で製品の産地に目を向けていくと、良くて安い商品のほとんどがバングラデシュ製でした。そこで、現地で調査を始めたのです」(平石さん)

バングラデシュの主な産業の一つが縫製業である。縫製業で働く人の数は500万人と、東南アジア諸国に比べて10倍以上多い。賃金は安く技術力が高いため、すでに欧米の大手ファストファッションブランドが生産を行っていた。しかもバングラデシュは日本の特恵関税国で、日本への輸出に関税がかからない。加えて現地での優遇措置などもあって丸久は進出を決め、数年の準備期間を経て、22年にバングラデシュ自社工場での生産を始めた。現在は約2千500人の従業員が1カ月80万枚を生産している(中国は26年に撤退)。

他国のTPP参加により価格競争の面で有利に

このようなコスト削減の努力を続けてきても、今の日本の衣料品業界は厳しい状況にあると平石さんは言う。

「一時の行き過ぎた円高によってデフレが起こり、衣料品は単価が大幅にダウンしました。それが円安になっても値段はそのまま。天候不順や消費税増税などがあり、衣料品が売れなくなっているのです。衣料品業界はかなりの薄利になっていて、一昔前なら特価のトレーナーでも1000円以上しましたが、今は500円です」

そんな日本の衣料品業界には、TPPによって大きなチャンスが訪れることが予想されているが、丸久ではTPPをどのようにとらえているのだろうか。

「バングラデシュから日本への輸出はすでに関税がゼロなので、実は弊社にとってTPPによる直接的な影響はありません。衣料品業界全体でも、すでに中国からASEANへの製造拠点のシフトが進んでいるので、大きな変化はないと思います。ただ、TPP参加国のベトナムは紡績や縫製のインフラがすでに整っており、人件費も中国より低いため、多くの会社がベトナムにシフトしています」

ベトナムはTPPの恩恵を受けて、アメリカへの衣料品の輸出が増えていくことが確実視されている。だが、同じように他の産業もアメリカ向け輸出量が増えていく。そのため製造業は人手不足になり、労働者を確保するために人件費が上がり、製造コストが上昇していくことになる。

「そうなればバングラデシュで生産している弊社はチャンスです。人口は1億5000万人で労働力はまだ十分にあり、衣料品製造が主な産業なので人材も豊富です。現状の生活に満足している人の割合が高いため、給料の上昇率も低いのですが、それが価格競争の面でも有利になります」

これが自社にとってのTPPのメリットだと平石さんは言う。

〝メイド・バイ・ジャパニーズテクノロジー〟を世界に

丸久は最近、首都ダッカに販売事務所を設立し、さらに工場の増設工事が終了間近で、増産体制への準備を進めているという。

「有名ファストファッションブランドのオフィスがダッカにあり、弊社も販売事務所を設立して営業をかけていきます。また、大手ブランドと取引するには2500人規模の工場では小さすぎる。弊社の月間生産数は80万枚ですが、向こうの要求はTシャツの一つの型だけで100万枚です。そのためには5000人、1万人規模の工場が必要です。それに向けた工場増設です」

そして、そういった工場増設や増員による生産力アップは、TPPへの対応策にもつながっていると平石さんは言う。

「TPPは弊社にとって追い風であることは間違いありません。ライバル国のコストアップなどにより、弊社工場へのオーダーは増えると思っています」

さらに、丸久は、日本のものづくりに対するこだわりも強く意識しているという。

「生産拠点は日本ではなくバングラデシュやタイですが、その技術は日本のものです。そこで私どもの製品は〝メイド・バイ・ジャパニーズテクノロジー〟だと考えています。弊社の工場は他の会社ができないものをつくっています。生地でいえば風合い、そして完成した商品の雰囲気。数字では表せない日本製ならではの特殊性を強く意識しています。それを欧米のメーカーに売り込んでいくことが現在の弊社の目標です」

これまでに数多くの低価格競争の荒波を乗り越えてきた丸久は、TPPの時代を迎えても、それに臆することなく新たな道を切り開き、前に進んでいく。

会社データ

社名:丸久株式会社

住所:徳島県鳴門市撫養町斎田字浜端北72

電話:088-685-0151

代表者:平石雅浩 代表取締役社長

従業員:163人

※月刊石垣2016年5月号に掲載された記事です。

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