事例3 チャレンジ精神が生んだ災害対応型トイレ
ダイドウ(高知県高知市)
昭和46年に高知県高知市で創業したダイドウ(当時は宮尻工業所)。主力事業は管工、水道施設、土木、熱絶縁工事だ。そんなダイドウが東日本大震災を機に循環式水洗トイレ「リサイくるん」を開発、製品化に成功した。建設現場という男の世界で評価を高めた女性経営者ならではの経営の心得とトイレを第二の事業とした理由を聞いた。
化粧では決して「やる気」はつくれない
ダイドウ社長の宮尻千恵子さんが高知市を第二の創業の地と決めたのは、周囲の人との縁によるものだ。「当社は以前大阪にありました。高知に移るきっかけはまだ会社が大阪にあった時代、高知市内にある四国銀行本店の事務センターの工事を請け負ったことです。仕事を紹介してくださった大阪断熱の社長さんの勧めもあって高知への移転を考えはじめました」
海のない長野県生まれの宮尻さんにとって高知は魅力的に映った。「人々のおおらかな気質はもちろん冬でも温暖で、すぐ近くに海もある。住んでみたいと思いました。ただ住んでみると土佐弁はけんか言葉のようでしたね(笑)」
宮尻さんはすぐに土佐弁を操るようになり、建設業という男の世界で頭角を現す。しかし、不渡りをつかんで辛酸をなめた時期もあったという。「天が修業のチャンスを与えてくれた、ありがたいと前向きに考えるようにしました。それに私は負けず嫌い。他人に借りをつくったまま逃げるのはいやだった。どんなに苦しくてもお金はきちんと返していった。それが信用を築くことにつながりました」と振り返る。融資を渋る金融機関相手に「目先の数字ではなく、私の目を見てやる気、体力を評価してください」と交渉したことすらあったそうだ。
「やる気という気は化粧ではつくれません。スーツで着飾ることもせず、作業服を着たありのままの自分を見てもらった。ただ経営内容については即座に正確に答えられるような準備をしておきました」
香美市の奥物部(おくものべ)湖では毎年8月、花火大会が開催される。ダイドウはここの配管の工事を担当していた。「ダム湖なので湖畔を渡る配管があるのですが、それが花火の光で浮き出てしまう。せっかくの雰囲気が台無しです。そこでそれが目立たないよう仕上げに若草色のシートで巻いてカムフラージュする作業を追加しました」
こうした心配りや高所作業の危険を抑える工夫など丁寧できめ細かな仕事が評判となり、事業は徐々に拡大。女性経営者の「やる気」が業務に結実していった。
「うちでやるしかない」と決意
平成7年、阪神淡路大震災が起こる。被災地ではトイレの不足が問題になっていた。「特に女性は難儀しているだろう、なんとかならないか」と思い、日々の仕事をしながら、トイレの汚物処理に関する知識を蓄えていった。宮尻さんの「やる気」にスイッチが入った。
そして、東日本大震災が発生する。宮尻さんは水道関連事業者のグループで宮城県の被災地を視察。その際、ライフラインが止まって水洗トイレの水が出ないため、汚物があふれているという避難所の厳しい状況を聞いたのだ。
決断は早かった。「高知県では南海トラフ地震の脅威が迫っている。企業規模の大小も男も女も関係ない。もううちでやるしかない」と覚悟を決めた。持ち前のチャレンジ精神に火が付いた。幸い息子で専務の宮尻徳輝(のりてる)さんが学生時代、微生物などを使って汚物を浄化する水循環式トイレの構造を学んでいた。こうしてダイドウは災害時に使えるトイレの開発に本格的に取り組み始めた。しかし、それは決して楽なものではなかった。
「小さな会社なので従来と同じ量の仕事をこなしながら開発を進めることは難しい。そこで大きな仕事を受注した時は信頼できる会社に協力してもらいました。このころは売上高は増えても利益は全く得られなかった。支援はいろいろありましたが、開発費が足りなかったので私の年金までつぎ込みました」(宮尻さん)
23年11月に高知農業高校に実証実験用のトイレを設置。汚物処理層の容量や紙詰まりを起こさない構造、微生物の種類や量などの「最適解」を模索した。そして25年2月、ついに循環式水洗トイレ「リサイくるん」の発売にこぎ着ける。「リサイくるん」は「埋設型」と「コンパクト型」の2種類。埋設型「リサイくるん」は公園などの公衆トイレの浄化システムとして使える。コンパクト型「リサイくるん」はイベント会場や工事現場などに置く仮設の個室型トイレに組み込みが可能だ。これらは各方面から高い評価を獲得。この結果、ダイドウは、「2014四国産業技術大賞革新技術賞優秀賞」「2015がんばる中小企業・小規模事業者300社」にも選ばれている。現在は年間5台規模で埋設型を主に生産しているが、今後はコンパクト型に力を入れて年間10〜20台規模まで高める計画だという。
多忙を極める宮尻さんだが、坂本龍馬財団評議員、龍馬研究会理事といった坂本龍馬関連の活動にも力を入れている。
「これは高知に根を下ろした自分と龍馬さんの誕生日が同じという縁によるもの。彼の生き方から勇気を与えられました。また活動を通じて素晴らしい人たちと知り合うこともできた。仕事の人脈、仕事外の人脈、そのどちらも私の大切な財産なのです」
仕事に向き合う姿勢、細部まで行き届いた心配り、そして新分野への進出と宮尻さんの挑戦は続く。高知という地に根を張り、人脈を広げることで、さらなる成功の機会をつかもうとしている。
会社データ
社名:株式会社ダイドウ
所在地:高知県高知市加賀野井2-21-7
電話:088-872-8924
代表者:宮尻 千恵子 代表取締役社長
従業員:8人
※月刊石垣2015年12月号に掲載された記事です。
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