テーマ別企業事例 業績を上げる女性経営者の視点

事例2 原点に立ち返り赤字会社の再建に成功

タニカ電器(岐阜県多治見市)

家庭で手軽にヨーグルトがつくれるというヨーグルトメーカーを主力とする岐阜県多治見市のタニカ電器。3代目社長の谷口幸子さんは平成16年に専業主婦から社長に就任した。経営については全くの素人だったが、「主婦目線」を生かした製品を開発し大ヒット。地元の雇用にも貢献している。陶磁器の集積地である多治見において陶磁器以外の分野では珍しい「多治見ビジネス・イノベーション大賞・奨励賞」を受賞。その主婦目線の経営の真髄を探る。

社長の谷口幸子さんの宝物は国内外の製品利用者から届いたはがき。何冊ものアルバムに大切にしまわれている。そこには発酵食品が家庭でつくれることに対する感謝の言葉や改良のアイデアがいろいろと書かれている。その言葉は従業員の励みにもなっているという

会社の危機に社長就任

タニカ電器は昭和25年、現社長の谷口幸子さんの父・谷口文雄さんが技研陶器製作所として創業した。文雄さんは、創業当初は地元特産の美濃焼のポットに電気ヒーターを入れた電気ポットを考案。アメリカなど海外へ輸出していた。また、来客時に家族が酒のお燗(かん)に手間取っている姿を見て家庭用酒燗器を発明するなど大変なアイデアマンだった。

この他にも自動ゆで卵器、コンタクトレンズ消毒器などを発明。一見すると、これらは何の関連もないように見えるが、その根底には高温でも低温でもない「ある温度を一定に保つ技術」(幸子さん)がある。現在の主力商品であるヨーグルトメーカー「ヨーグルティア」は、容器をヨーグルトの発酵に必要な温度に維持する技術を使って昭和46年に開発したものだ。ところが、当時は消費者にヨーグルトを食べる習慣がなく、ほとんど売れなかったという。やがて会社は2代目社長に承継されたが、時代に合った商品開発ができず、経営状態はどん底に。会社は徐々に追い込まれていく。

幸子さんはもともと会社を継ぐつもりがなく美術大学に進学。卒業後は造形作家としても名高い伊藤隆道さんが設立したLDヤマギワ研究所に所属するなど商業デザイナーの道を歩んだ。その後、結婚して主婦となっていたが、会社の危機を目の当たりにして、「父の会社をつぶすわけにはいかない」という気持ちが強くなり平成16年、社長に就任。60人近くいた従業員は10人にまで減っていた状態での厳しいスタートだった。

「頼りになる社員が辞めてしまい、仕事も減って赤字が続いていました。私はそれまで全く会社に関わっていなかったので途方に暮れました。経営について相談できる人もなく、わずかに残っていてくれた若手社員に相談するわけにもいきませんでした」

誰からも「あなたには経営は無理だから会社を閉じなさい」と言われた。しかし、「父がつくった会社をつぶしたくない」という一念で少しずつ社長業を学んでいった。

「最初は会社の現状を知ろうと思いました。会社に毎日一番に出社して、会社前の道路の掃除、草取りから始めたのです。汚れ放題だった社内も掃除しました」。そこから始めなさいとアドバイスされたわけではない。仕事が分からず、それしかできなかったのた。

どのように仕事が流れていくのかを知るために現場に出て観察していたこともある。従業員を監視する意図はなかったが、誤解されて反発を受けたこともあった。「私も不安でいっぱいでしたが、社員たちも同じであったと思います。何も分からないまま新製品の開発もしたのですが、良い商品をつくりたいという気持ちだけではうまくいくはずがない。価格設定のような商品を販売するための基本的な知識も足りていませんでした」

「廃盤」を救った主婦目線

かつて文雄さんが開発したヨーグルトメーカーは長い間ほとんど売れず、創業者のアイデア商品だからという理由だけでかろうじて生産が続いている状態だった。しかし、幸子さんは主婦として日々の生活の中で使用し、「役立つ、良い商品だ」と感じていた。

そんな中、カスピ海ヨーグルト(長寿で知られるコーカサス地方の食品)がブームになり、自家製ヨーグルトが注目を集めはじめる。この機を逃さず、カスピ海ヨーグルトがつくれるよう改良した新製品「カスピメーカー」を発売。この商品をもとにいろいろなヨーグルトがつくれる「ヨーグルティア」を開発し売り上げを伸ばしていく。これが会社再建の第一歩となった。

「なんとか黒字にできたのは創業以来、ずっと良い商品をつくり続けるという会社の伝統があったおかげです。企画設計から製造販売まで、国内自社で一貫して行っていたからこそ、機を逃さず速やかに改良することができた。小さな会社の良さは意思決定が早いこと。小回りが利くので時代の要請を速やかに取り入れていくことができるのです」

さらに、25年には、甘酒や塩糀などの「発酵食」を家庭でつくりたいという消費者ニーズに応えた「KAMOSICO」(醸壺)を発売した。このタイミングで社内環境の改善にも着手。従業員が自分の意志で仕事を進められる環境を整えたのだ。これにより、タニカ電器社内の雰囲気は一変した。

「今では社員もパートさんも自主的に考えて働いています。社員とパートさんはそれぞれの都合で働き方が違うだけで平等です」

目標は従業員が「生きがいを持って気持ちよく安心して働ける会社」だ。女性経営者らしく休暇取得にも理解があると、大半を占める女性従業員の評価も高い。

幸子さんは、中小企業の後継者として期待されている女性たちに「男性が継ぐよりもうまくいくものですよ」とアドバイスする。

「どうしてかというと、会社を大きくしたい、他社に勝ちたい、外部に対して見えを張りたいという気持ちを女性はあまり持たないから。原点に立ち返った経営ができると思います」

危機に陥っていたタニカ電器を救い再建した女性社長の視点。原点を見つめ、自社の強みを生かした経営に成功のヒントがあった。

会社データ

社名:タニカ電器株式会社

所在地:岐阜県多治見市上野町5-5

電話:0572-22-7371

代表者:谷口 幸子 代表取締役社長

従業員:社員13人、パート20人

※月刊石垣2015年12月号に掲載された記事です。

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