テーマ別企業事例 業績を上げる女性経営者の視点

事例4 母親の視点から生まれた新商品

ビッグバイオ(熊本県宇城市)

熊本県宇城市にあるビッグバイオは、微生物を利用した生活関連商品の研究、開発と製造をしている。同社の代表取締役である阪本惠子さんがこの事業を始めたのは、子どもを外で安心して遊ばせることができる自然環境を取り戻したいという思いからだった。

ビッグバイオの阪本惠子さん。「本社を熊本市内に置いたらどうかとよく言われるのですが、地方にいても起業できるのだということを若い人にも知ってもらいたくて、この場所に留まっています」

偶然知った微生物の力

ビッグバイオという社名は、小さなバイオが大きな力を持つという意味から付けられた。同社は微生物の力で水質の悪化や悪臭などを除去する製品を製造している。

「私は最初から会社を立ち上げようと思っていたわけではありません。個人で物をつくって販売することを始め、目の前にあった問題や課題を乗り越えていくうちに、ここまで来たというだけです」と阪本さんは言う。また、個人で物をつくって販売するようになったのも偶然だった。

「私は熊本市で専業主婦をしていたのですが、離婚して子ども2人との生活になりました。生計をたてるためクリーニングの取次店を始めた。あるとき、友人に誘われてセミナーに行ったのです。その際、偶然、微生物の力を知りました」

それは今から20年ほど前。阪本さんが参加した、小さな環境セミナーでのことだという。

「例えば石油タンカーが座礁して油が大量に漏れると、海が元に戻るまでに100年掛かるといいます。でも、実際は数年できれいになる。それは微生物の力によるものなのだと。それで化学薬品ではなく微生物の力で身の回りの自然を蘇生していけば、子どもたちのアトピーやアレルギーもなくなり、精神的な成長にも役立つのではないか、そう思いました」

阪本さんがそう思ったのは、子どもたちの日頃の様子から、あることに気付いたからだった。

「雨の日に家でTVゲームをずっとしていると、夜には兄弟ゲンカを始める。ところが、天気のいい日に外で遊んで帰ってくると、ケンカもせずに仲良くご飯を食べてお風呂に入るとすぐに寝てしまうんです。子どもがいら立って騒ぐときは、土遊びをさせろとよくいいます。セミナーを受けてから、微生物の力で子どもたちが安心して土遊びができる環境をつくりたいと思いました」

これこそまさに母親の視点といえるだろう。そしてそこから、阪本さんの挑戦が始まった。

店頭で実験を繰り返す

水が変われば土が変わる。阪本さんが最初に始めたのは、排水をきれいにするための研究だった。

「クリーニングは薬品を使うので排水が強アルカリ性になってしまう。山の土壌には水を浄化する働きを持つ微生物がいると聞き、山から土壌を取ってきました。そしてセミナーの先生から聞いた方法で微生物と培養土を緒にティーバッグに入れて、水が浄化されるか実験を繰り返しました」

すると1週間もたたないうちにBOD(水質指標の一つで、値が低いほど水質がいい)の数値が目に見えて落ちてきた。これで強アルカリの中でも微生物が働くことを確信。それをセメントペーストに混ぜたブロックをつくることにした。これがのちにビッグバイオの主力製品となる水質浄化用ブロック「エコバイオリング」へとつながる。こういった実験は、クリーニング店での仕事の合間に行っていたという。「もう一つ、匂いを分解する微生物も実験していたのですが、お正月に、店頭に置いた鏡餅にカビが生えないことに気づきました。この微生物にはカビを抑える力もあるのではないかと、食パンとチーズを使って実験したら、効果があったのです」

そしてできたのが「カビとれ〜る」という製品。効果を実証するためにクリーニング店の客に無料で配布して試してもらったところ好評で、商品として近所のコンビニに置いてもらうことになった。

「すると、この商品をもっと広めたいという気持ちが出てきて。いろいろ掛けあって生協に入れてもらうことができたのですが、あるとき、バイヤーさんから『法人にしないとこれ以上販路は広げられないよ』と言われ、平成12年に有限会社を立ち上げることにしました」

お母さんが働ける職場へ

こうして協力者や社員を募ることもなく、阪本さんはたった一人でビッグバイオを設立した。クリーニング店との二足のわらじを履く忙しい日々だったが、それでも子どもの世話だけは疎かにしなかったという。「私は子どもとの生活があるから仕事をしているのであって、その仕事のために子どもを蔑ろにしては本末転倒ですから」

それからは地元の中小企業向け制度融資や熊本県起業化支援センターの投資などが受けられるよう奔走。その必要に応じて会社を株式会社にしていった。

「カビとれ〜るは袋入りだったのですが、詰め替えみたいなものでは売れませんよと言われ、投資を受けてから容器入りにしました。そうしたら2年後には全国の生協で年間60万個くらい売れたのです」

さらに、平成18年にはテレビ番組にエコバイオリングが取り上げられる。すると注文が殺到。業績は順調に伸びていった。「ところが20年に公正取引委員会から、カビとれ〜るの『カビとれ〜る』と『置くだけ』の言葉が消費者に誤解を与えると、文字の排除命令を受けてしまって。商品をリニューアルしたものの、売り上げは以前の3分の1になってしまいました」

このまま廃業することも頭をかすめていた22年、阪本さんは全国商工会議所女性会連合会の第9回「女性起業家大賞」最優秀賞を受賞。これでまた一から出直そうと奮起する。今年3月には経済産業省の「がんばる中小・小規模企業300社」にも選定された。

「女性は先を見通すのは苦手ですが、目の前のことにはよく気が付く。うちの製造部門は全体を見る工場長は男性ですが、あとは女性。みんな家のこともあるので、勤務時間は融通がきくようにしています。地方には子どもが学校に行っている間だけ近所で働きたいという人も多い。そういうお母さん方の雇用促進にも貢献できればと思っています」

阪本さんから感じるのは、「女性だから」「経営者だから」といった気負いがなく、あくまでも自然体であること。それはやはり、自然環境を取り戻したいという起業当初の思いを忘れていないからだろう。

会社データ

社名:株式会社ビッグバイオ

所在地:熊本県宇城市小川町西海東2100

電話:0964-47-5810

代表者:阪本惠子 代表取締役

従業員:28人

※月刊石垣2015年12月号に掲載された記事です。

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