事例3 ニーズに応える手づくり惣菜で急成長
クック・チャム 代表取締役 藤田 敏子さん(愛媛県新居浜市)
「おかずや日本のお母さん」をキャッチフレーズに、惣菜専門店をチェーン展開し、事業を拡大してきたクック・チャム。その原動力は、「忙しい女性を応援したい」という強い思いだった。平成4年に起業し、「第1回女性起業家大賞」の最優秀賞(14年)に輝いた社長・藤田敏子さんに話を聞いた。
試しに売り込んだ焼き鳥が大ヒット
瀬戸内有数の工業都市である愛媛県新居浜市は、住友の企業城下町としても有名だ。市民の多くがそのグループ企業に勤め、古くから共働き世帯も多い。クック・チャム社長の藤田敏子さんも、そんな家庭の中で育った一人だ。忙しい母親のために、小学生のころから夕飯の準備を手伝い、だんだん料理に関心を持つようになるとともに、働く女性は「大変」という思いが刻まれていった。そんな藤田さんは、のちに小売りと卸を扱うまちの精肉店に嫁ぎ、商売の道に飛び込むこととなる。
「当時、お肉はあまり売れていなくて、経営も年々苦しくなっていきました。ただ、義母がつくるコロッケやメンチカツはよく売れていたのです。それなら焼き鳥もやってみたらどうかと思い付き、スーパーなどに売り込みをかけたんです。売れ残りは引き取るという条件で交渉するうち、扱ってくれるところが増えていきました」と振り返る。
当時、スーパーの惣菜コーナーに焼き鳥が並ぶのは珍しかったため、飛ぶように売れたそうだ。出来合いの惣菜を買うのは悪いことのような固定観念のあった時代ながら、そのニーズは高いことを確信した藤田さんは、もっと惣菜をつくって売ろうと考えた。卸の仕事が終わった後、スーパーに行って食材を調達し、それで惣菜をこしらえて夕方には店頭に並べた。
「少しでも店の経営が持ち直せばと始めたお惣菜でしたが、お客さんがわんさかやって来て、あっという間に売り切れ。『もっと種類を増やしてよ』『こんなおかずも欲しい』などと言われるものの、私一人ではそんなにつくれない。きちんと知識を身に付けようと料理学校に通いました。それに加えて、近所の主婦の方にも手伝ってもらいながら、種類を増やしていきました」
予想以上の反響を受け、昭和54年には肉と惣菜を扱う店を出店する。惣菜の売れ行きが伸びるにつれて従来の肉の卸は徐々に縮小。そして平成4年、藤田さんは〝肉屋から独立〟して惣菜専門店「クック・チャム」を立ち上げた。
アナログとデジタルを融合 多種類のおかずを提供
同社の特徴は、「家庭的だけど、ちょっとレベルの高い惣菜」を種類豊富に取り揃えていることだ。毎日利用してもメニューが重ならず、手抜き感もないよう配慮し、毎日約80種の惣菜を店舗に並べている。その3割は定番品だが、季節の旬の食材や少々高級な食材を使った日替わり品を7割ほど加えて変化をつけている。
「一番売れるのは、から揚げやポテトサラダなどの定番メニューです。でも、そればかりではお客さんは来てくれません。常に目新しい惣菜があるからこそ、足を運んでくれるのです。しかも、1週間ごとに新メニューが2品入れ替わるので、『今週は何があるかしら?』というワクワク感が味わえるのも売りの一つです」と藤田さんは胸を張る。
こうして同社が提供する惣菜は、実に年間約600種類にも上るという。それを実現するために藤田さんが構築した仕組みは、惣菜キットの一括製造&配送だ。各惣菜の材料一式をそれぞれ使う大きさにカットし、必要に応じて下茹でして、金属製の調理用バットにひとまとめ(キット)にする。この状態までを工場で製造し、各店舗に配送。店舗では届いたキットの材料を決められたレシピ通りに調理して、店に並べるという流れだ。料理で手間なのは下ごしらえなので、その部分を工場で行うことで作業を効率化し、多種類の惣菜の提供を可能にしたのだ。
「おかずづくりは人の手で行いますが、工程管理はほぼ自動化できています。本社と各店舗のシステムは連携していますし、工場のシステムともつながっていますので。アナログとハイテクを組み合わせてやるのが当社の特徴です」
〝すき間〟がよく見えるのが女性の強み
女性だからこそ分かる毎日の「食」へのニーズを的確に捉え、提供したことで消費者の舌と心をつかんだ同社は、新居浜市を拠点に、四国、九州、関西圏へと急速に店舗数を増やしていく。そんな同社を支えているのは、全体の約95%を占める女性社員だ。中でも藤田さんが「パートナー社員」と呼んでいる、約800人のパートの女性が重要な戦力となっている。
「当社ではパートナーさんが店舗を切り盛りし、売れ行きも彼女たち次第。そんな一人ひとりの能力を引き出し、公平に評価するために『きらりカレッジ』という勉強の場を設けて、基準をクリアしたら昇級し、やがて店長へ、さらにマネジャーへとポストアップできるようになっています。こういう仕組みがあると張り合いが出るし、『あの人より私の方が頑張っているのに給料が少ない』と不満を言う人も減るのでいいですよ」
藤田さんが今、力を注いでいるのが社内独立だという。同社で培った経験やノウハウを生かし、自らの力で店舗運営や新規事業を任せる、いわゆる暖簾(のれん)分けだ。実際、同社の九州事業部を分社化した「クックチャムプラスシー」や、障がい者を積極雇用して惣菜用食材の加工を行う「クックチャムマイシャンス」、四国事業部を分社化した「クックチャム四国」などが近年続々と設立されている。
また、昨年5月には外食事業にも乗り出し、新居浜市内に昼の時間帯のみ営業する「ばぁばのお昼ごはん」をオープン。現在は本社社員が持ち回りで店舗運営をしているが、ゆくゆくは分社化して社員の誰かに経営を任せたいと考えているという。
「会社を立ち上げたころは私自身が素人で、経営のことも、惣菜のつくり方も分かりませんでした。いろいろな人に助けてもらい、試行錯誤しながら仕組みをつくって、現在のような組織になりました。社員にはほぼ満足していますが、もっともっとハングリーになってほしい」と期待を寄せる藤田さん。「女性は大きな仕事を任せようとすると『私にはできません』と引いちゃう人が多いのです。でも、やらせればちゃんとできます。ただ前に出たがらないだけなのです。それはもったいないと思う。女性は生活に密着しているから、『これが不便』『もっとこうだったらいいのに』という〝すき間〟がよく見えるのが強みです。それをビジネスにして起業する女性が増えれば、日本はもっとバリエーション豊かで活力ある社会になるのではないでしょうか」
そう笑顔で語る〝日本のお母さん〟は、毎日の「食」で多くの人の健康と元気をサポートしながら、女性たちにエールを送っている。
会社データ
社名:株式会社クック・チャム
住所:愛媛県新居浜市新須賀町2-6-16
電話:0897-33-2115
代表者:藤田敏子 代表取締役社長
従業員:1000人(グループ従業員数)
※月刊石垣2015年1月号に掲載された記事です。
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