事例4 母から娘へ―受け継がれる強さ
小松ばね工業 会長 小松 節子さん 代表取締役社長 小松 万希子さん(東京都大田区)
昭和16年に小松謙一氏が創業。「モノづくりのまち」として栄える大田区・大森に本社を構え、70年以上にわたり着実に発展を遂げてきた小松ばね工業。その発展の陰には、二代目女性社長・小松節子さんの手腕があった。そして今、その手腕は娘で三代目社長の万希子さんへ、脈々と受け継がれている。
会社勤務経験ゼロ 専業主婦から社長に転身
正確な製品づくりと、徹底した品質管理で信頼を集める小松ばね工業。高いクオリティーで、創業以来5万種類以上のばねを製造してきた。もともと、線径1㎜程度のワイヤーを加工したばねづくりを主軸としてきたが、時代の流れとともにばねが小型化。現在は線径がミクロン単位である〝超精密〟ばねの製作で、世界有数のメーカーとしての地位を確立している。平成18年には中小企業庁が選定する「第一回元気なモノ作り中小企業300社」に入選した。
そんな歴史と実績のある老舗ばね会社。同社が存続を懸けた最大のピンチを乗り越えたのは、二代目の節子さんが社長のときだった。現在は会長を務める節子さんが社長に就任したのは昭和59年。創業者である父の謙一氏が他界し、事業承継した。当時、節子さんは43歳の専業主婦だった。
「事業承継に関する知識は何もなく、そもそも社長どころか会社で働いた経験もありませんでした。これまでを振り返ると、当時の混乱が一番辛かったですね」
当然、いきなり業務をこなすことはできず、経営に関しては役員に任せきり。そうこうするうちに、就任2年目で赤字決算。このままでは会社がつぶれてしまう。そのときに、節子さんは決意した。
「結局、社長が責任を取るしかないんだと気が付きました。どうせつぶれるなら、自分でやれることを精いっぱいやろう。それでもダメなら仕方がないと、ある意味、吹っ切れました」
とにかく営業に回りコミュニケーションをとる
「バランスシートが何かすら分からないレベルでした」と話す節子さんは、新米社長として勉強会やセミナーに通い、猛勉強。士気の下がっていた社内の改革にも乗り出した。お客さま第一主義を基本とし、社員には「お給料は社長が払っているのではなく、提供した対価としてお客さまからいただいているんだ」という意識の浸透を徹底した。
「私自身は、とにかく営業に回りました。お客さまとたくさんコミュニケーションを取りましたね。当時、製造業で女性の社長は少なかったこともあり、よく顔を覚えていただけました。悪く言われることはありませんでしたよ。逆に『熱心にメモを取る姿に感心した』とおっしゃっていただけることもありました。なにも男っぽく振る舞う必要はないんです。女性らしく振る舞いながら、目立ったり出過ぎたりしないよう心掛けました。ただ最終的に負けちゃいけないのは、経営の数字です。本当にそれだけです」
仕事の依頼は可能な限り引き受け、ときには製造の難しいモノもあり社員に無理を言うこともあったと振り返る節子さん。だからこそ応え続けてきてくれた社員には感謝の気持ちしかないという。
「営業先でも社内でも、『お願いします』ばかり言っていた気がしますね(笑)」
舞台は海外へと広がる
節子さんは、社長就任3年目以降、平成20年のリーマンショックまで売上の右肩上がりをキープした。そんな節子さんの後を引き継いだのが、娘の万希子さんだ。万希子さんは大学卒業後、一般企業に勤めていたが、今から10年ほど前に同社の取締役となった。日々現場で学びながら、平成23年に取締役社長となり、26年7月、代表取締役社長に就任した。
「祖父や母が積み上げてきたものがあっての小松ばねであって、自分が今まで苦労して努力して、つくってきたものではありません。ここからまた会社を伸ばしていかないといけないというプレッシャーは感じています」と話す万希子さん。現在、同社は東京の他に宮城、秋田にも工場を持つ。また、海外にも進出しており、平成9年にはインドネシアにも子会社を設立した。社員は52人、国内のパートタイマーを合わせれば80人近い従業員を抱えるまでになっている。
万希子さんは今、製造業全体が〝変化のとき〟にあると感じているという。
「弊社のように部品をつくる会社は、取引先の工場が海外進出することに対応しなければなりません。近年は、仮に品質が良く、価格が妥当だったとしても、海外の工場で使用する部品を日本から仕入れるという選択肢自体をなくしている企業も多い。そんな中で、今後どう展開していくかが課題ですね」
営業の舞台を日本から世界へと広げる。大きな課題ではあるが、「とにかく明るくやっていきたいですね」と笑顔を見せる万希子さん。母が見せてきた女性社長としてのしなやかさと粘り強さは、しっかりと娘にも受け継がれている。
会社データ
社名:小松ばね工業株式会社
住所:東京都大田区大森南5丁目3番18号
電話:03-3743-0231
代表者:小松万希子 代表取締役社長
従業員:80人
※月刊石垣2015年1月号に掲載された記事です。
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