事例5 日々の積み重ねが信頼になる
有限会社e-ルームズ 代表取締役 竹名 裕子さん(東京都八王子市)
JR西八王子駅から徒歩10分。甲州街道沿いにある不動産会社、e-ルームズ。社名の「e」は、エンジョイの頭文字だ。「お客さまにはワクワク楽しみながら部屋探しをしてほしい」という願いから名付けた。代表取締役の竹名裕子さんは平成15年7月に代表取締役を引き継ぎ、お客からも貸主からも信頼を得ている。3年前からは八王子商工会議所の「女性経営者の会」シルクレイズに加わり、地域おこしにも積極的に取り組んでいる。
取得した資格がきっかけで不動産業に飛び込む
e-ルームズでは八王子市を中心に、東京西部に広がる賃貸物件の仲介を主に行っている。
「部屋を探すお客さまに希望に合った物件をご紹介し、入居者が見付からず空室に悩む大家さんには対策をアドバイスさせてもらったりと、業務そのものは他の不動産会社と変わりません」とにこやかに語る代表取締役の竹名さんは、以前は専業主婦だったという。子育てが一段落したのを機に、仕事を探し始めたのが今から約25年前。竹名さんが30代後半のときだ。
「近所で一般事務のパートでも、と安易に考えていたら、パソコンを使えない、資格を持っていない、ということがネックになり、仕事が見付かりませんでした。これはまずいと思い、パソコンを近くの教室で習い、通信教育を活用して宅地建物取引主任者(通称、宅建)の資格を取得したのです」
宅建を選んだのは不動産に興味があったからではなく、受験資格に年齢制限のない国家資格だったからだという。それでもせっかく取得したなら役立てたいと、竹名さんは宅建の資格を生かし、地元の不動産会社へパートとして再就職を果たした。業務内容は、賃貸・売買物件の仲介営業だった。「やる気次第でどんどん仕事を任せてくれる会社でした。法律に関わることも接客も楽しく、成績も徐々に伸びていき、1年弱で正社員となりました」。
偶然舞い込んだチャンスにチャレンジすると決意
自分に向いていると分かり、パートの期間と正社員の期間を合わせ、計9年勤めた。そんな中、一つ気になっていたことがあるという。
「何となく〝怖い〟というイメージがあるのでしょうか、女性客が店内に入りづらそうにしているのがいつも気になっていました。それで、女性でも安心して相談に入れる不動産会社がやれたらいいな、と漠然と思い始めたのです」
そんな矢先、思いがけずチャンスが訪れた。知人を介して、ある不動産会社が後継者を探しているという話が舞い込んだのだ。
「やってみたいとは誰にも相談していなかっただけに驚きましたが、これも縁だと捉え、その会社を引き継ぎたいと、思い切って挑戦することにしました」
竹名さんは「女性に優しい不動産屋さん」を目指し、明るい店づくりを心掛け、自社のウェブサイトを立ち上げ、インターネットからの集客を狙った。しかし、集客には波があり、お客がまったく訪れない日もしばしば。周囲が見かねて「もう辞めた方がいい」と言うほど、業績は上がらなかった。
「最初の2年は年末年始以外一日も休まず働きました。それでも6カ月は自分の給与を確保できなかった。このままやっていけるのかと毎日、緊張と不安だらけでした」
金銭面に加え、不動産業務にはトラブルやクレームもつきものだ。
「入居者への対応の甘さから貸主さまに迷惑を掛けることや、家賃の滞納や夜逃げなど、胃の痛くなることばかり続くこともありました。それでも不思議に辞めたいとは思わなかったですね。やはりこの仕事が好きだからなんだと思います」
同じ条件で住まいを探す人は一人としていない。中には、切実な事情を抱えている人もいる。だからこそ、話をじっくり聞き、あまたある物件から徹底的に「これだ」と思う部屋を探し出す。
「気に入った住まいが見付かったときの、お客さまのうれしそうな笑顔が私の原動力であり、どんなに手間がかかってもその苦労を忘れてしまいます。この仕事には、そんなふうに人の役に立っているんだと思える瞬間があるんです。だから辞められないですね」
将来を見据えて自分にできることをやる
部屋を案内した際、子連れであれば、内見中は抱っこして面倒を見てあげる。部屋の汚れに気付けば、その場でササッと拭いたり、ごみを拾ったり。そうしたきめ細かな対応がお客や貸主に喜ばれることも多いそうだ。「小さなこともおろそかにせず、丁寧に仕事をすることを心掛けています。この仕事は、そうした日々の積み重ねがすべて信頼にはね返りますから」
最近、力を入れているのが高齢者の自立支援を行う介護関連会社との連携だ。高齢者のグループホームにできそうな物件を探し、オーナーに交渉する。
「承諾を得られたら、バリアフリーへのリフォームをお願いしています。今後は、ますます社会の高齢化が進み、普通のご家族だけでなく、高齢者のための部屋探しや部屋づくりも大切になってきます。そうすると、不動産会社の役割もまた変わってくるでしょう。少しだけ先を見据えて、臨機応変に自分にできることをやっていきたいです」
周りからは楽天家といわれるという竹名さん。実際、何があっても、へこたれる前にどうすればいいかを考える。それが竹名さんの強みなのだ。
会社データ
社名:有限会社e-ルームズ
住所:東京都八王子市追分町17-3 長田ビル1F
電話:042-626-9507
代表者:竹名裕子 代表取締役
従業員:2人
※月刊石垣2015年1月号に掲載された記事です。
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