北陸の旅の楽しみの一つが、「へしこ」を食べること。へしこは若狭の郷土料理で、魚のぬか漬けのことだ。主にサバが使われるが、イワシやフグ、イカなども、へしこになる。
生で食べてもうまいが、私の好みは断然〝焼きへしこ〟。周りのぬかをさっと払い、火で炙(あぶ)ると香ばしい匂いが漂ってくる。我慢できずにクイッとおちょこを傾ける。匂いだけで一杯飲めるなんて、落語のようだが毎度のこと。やがてチリチリとぬかの焦げる音がしてきたら食べごろだ。確かにぬかは塩辛いが、甘みや酸味がサバの身からじわりとにじみ出てくる。発酵の力が成すうま味だ。生で食べるときは、軽く水洗いして薄めにスライスし、酢じょうゆやレモンで食べる。こちらもサバの脂と塩味とが混じりあって、実にうまい。
へしこのつくり方は、まずサバを2~3週間塩漬けにする。そして一度取り出し、ぬかや唐辛子、秘伝の調味料などを合わせて、桶(おけ)に圧(へ)し込み、上に重石を乗せて半年間じっと寝かせる。「へしこ」の語源は、この圧し込む作業から来ているという。
若狭小浜は京へと続く鯖(さば)街道の起点のまち。都人(みやこびと)たちも、へしこを食べて若狭の海に思いを馳(は)せたに違いない。
Data
社名:株式会社田村長
住所:福井県小浜市小浜広峰14
電話:0770-52-0310
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