Q 債権者から、計算書類・事業報告およびこれらの附属明細書について、その閲覧と謄本交付の請求を受けたのですが、事業報告や附属明細書を作成していない場合はどうすればいいですか。
A 本来は、それらを作成した上で閲覧に供し、または謄本を交付すべきですが、計算書類の附属明細書に代えて、勘定科目内訳明細書のうち固定資産、引当金に関する部分などを閲覧に供し、または謄本を交付するとよいでしょう。
閲覧の対象
計算書類の内容は会社計算規則57条~116条に、計算書類の附属明細書の内容は同規則117条に定められています。
また、事業報告の内容は会社法施行規則117条~126条に、事業報告の附属明細書の内容は同規則128条に定められています。
計算書類の附属明細書や事業報告、附属明細書を作成していない場合
中小企業の多くは、各事業年度において確定申告書およびそれに添付する決算書(計算書類)、勘定科目内訳明細書を作成しているものの、計算書類の附属明細書や事業報告およびその附属明細書を作成していないことが少なくありません。
株主・債権者から計算書類などの閲覧・謄本の請求があったときに、本来は、作成未了の書類を作成して閲覧に供し、または謄本を交付すべきでしょうが、手間と時間を惜しみ、すでに作成済みの確定申告書や勘定科目内訳明細書を安易に開示してしまう場合があります。
しかし、確定申告書や勘定科目内訳明細書などには、たとえば、取引銀行の口座情報、株主・取引先の情報など、開示すべきではない情報も含まれています。確定申告書別表二「同族会社等の判定に関する明細書」には個人株主の氏名・住所が、勘定科目内訳明細書には取引先である個人の氏名・住所が記載されている場合があるので、これらの個人情報を、法令に基づく場合でないのに、本人の同意を得ずに第三者に提供することは、個人情報保護法上、問題があるといえます。
計算書類の附属明細書には、
①有形固定資産および無形固定資産の明細
②引当金の明細
③販売費および一般管理費の明細その他、計算書類を補足する重要な事項が記載されていればよいので(会社計算規則117条)、これを作成していない場合には、これに代えて、固定資産、引当金に関する勘定科目内訳明細書などを開示すれば足りる場合が多いといえます。販売費および一般管理費の明細は、確定申告書に添付する決算書に含まれていることが多く、もし作成未了の場合には、その部分だけでも作成するのがよいでしょう。
事業報告は、会社法施行規則118条に従って、会社の状況に関する重要な事項等を簡潔に記載して作成します。事業報告の附属明細書は、公開会社でない限り、現実には作成していない実情にあるといわれています。
設問の場合
貴社は、計算書類として決算書を閲覧に供し、または謄本を交付すべきですが、計算書類の附属明細書や事業報告およびその附属明細書を作成していません。
このような場合、本来は、それらを作成した上で閲覧に供し、または謄本を交付すべきですが、計算書類の附属明細書に代えて、勘定科目内訳明細書のうち固定資産、引当金に関する部分などを閲覧に供し、または謄本を交付するとよいでしょう。
なお、確定申告書や勘定科目内訳明細書のすべてを開示する必要はありません。 (弁護士・公認会計士 片山 智裕)
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