今号は、新たな食材の開発をきっかけに地元の有志が立ち上がり、地域活性化を図ろうとしている事例をご紹介します。
海産物に続く名物誕生
北海道小樽市は、道内有数の海産物がおいしい港町です。年間700万人の観光客が同市を訪れますが、その約7割が道内からで、海産物目当ての短時間型の観光が中心、というジレンマがありました。
そんな中、市内で建設業を営む松下敏彦さんは趣味のレース鳩の飼育にヒントを得て、「おいしい地鶏を育て、小樽の新たな名物にできないか」と、ブランド地鶏の開発を発案。比内地鶏など認定在来種3種を掛け合わせ、7年を掛けて「小樽地鶏」を誕生させました。
松下さんと同じく、「海産物以外の新名物で地域を元気に」という思いを抱いていた市民有志が出資に応じ、平成25年8月に「株式会社小樽地鶏本舗」を設立。松下さんが社長に就任しました。昨年1月からは、木造2階建ての鶏舎で地鶏の飼育を開始しています。
さらに、松下さんは鶏の交配から孵化、加工、販売まで一貫して手掛けたいと、昨年4月には食肉処理場を建設。病気への感染リスクが低減し、より安心・安全で新鮮な鶏肉の安定供給が可能となりました。道内初のこの取り組みは、現在も大きな注目を集めています。
「小樽限定の味」目指し各店が創意工夫
松下さんが次に注力したのが、小樽地鶏に合った料理法やメニューの開発でした。この地鶏の魅力は、何といっても肉と卵のどちらも味が良いことです。肉にはコクと歯ごたえが、卵は黄身が大きく弾力があるのが特徴です。
そこで、事業立ち上げ時の有志が中心となり、メニュー開発や試食会に手弁当で参加。焼き物や揚げ物など、さまざまな料理を試した結果、鍋料理が最も合うことが分かったのです。これをきっかけに、現在では地方発送用の鍋商品の開発を進めています。
小樽地鶏は同社直営店のほか、市内の居酒屋、中華料理店など5店で味わうことができます。各店とも努力を重ね、「鍋焼きおじやうどん」「炊き餃子」「コラーゲン白湯鍋」など、この食材の特性を生かしたオリジナルメニューを開発。客の評判も上々で、売上は少しずつ伸びています。松下さんも、今後はさらに肉質の向上を図り、関係者と協力して生産量を上げていく方針です。
同社は現在、評判を聞いた他地域からの仕入の注文は、「小樽限定」という趣旨から断っているとのこと。まさに小樽でしか食べられない〝新名物〟としての第一歩を踏み出しています。
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