Q このたびネットショップを開設し、インターネット販売も始めてみると、商品には問題ないが「ネットのイメージと実物が違う」「クーリング・オフができるはず」という理由で返品を希望されます。ウェブサイトには「返品は受け付けない」と書いていますが、これに応じる必要はあるのでしょうか。
A ネット通販一般には、強行規定であるクーリング・オフの適用はありません。他方で、別制度として申込みの撤回・契約解除の権利が法律で定められており、一定の場合に買主は返品ができます。返品の可否は、返品を不可とする特約を広告に表示した上で、最終申込みの確認画面で特約の表示をしていたかどうかで決まりますので、ウェブサイトの設計をしっかり行いましょう。
ネットショップは「通信販売」
「通信販売」は特定商取引法(以下「法」という。)に列挙される「特定商取引」の一つですが(法1条)、ネットショップによる販売も「通信販売」の一種です。
広告規制と返品権
通信販売の広告には、一定の事項の表示を義務付ける積極的広告規制(法11条)と、誇大広告等を禁止する消極的広告規制(法12条)があります。前者の中に「売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項」があるところがポイントです(法11条4号)。
通信販売における返品の可否について、購入者は、商品の引渡しを受けた日から起算して8日を経過するまでの間は、売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除を行うことができると定められています(法15条の3)。いわゆる「返品」は「売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除」を行うものといえますから、設問のネットショップにおいても返品を受け付けなければならないように思われます。
しかし、法15条の3第1項のただし書きとして「ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(中略)には、この限りでない。」と例外が定められています。これは、法11条4号に対応し、何の表示もなければ返品を受け付けなければならないが(法定返品権)、返品は受け付けないという特約を広告に表示していた場合は、返品の要求に応じなくてもよいということです。
電子商取引法による必要な表示
しかし、広告において特約の表示をしていれば足りるわけではありません。ネットショップにおける消費者への販売は、電子消費者契約法における電子消費者契約(同法2条1項)に該当し、「当該広告に表示」のほかに「広告に表示する方法以外の方法であつて主務省令で定める方法により表示していた場合」でないと、特約が有効とはいえず、いわゆる最終申込画面で、特約を見やすい箇所に明瞭に判読できるように表示するなどの措置が必要なのです。
以上をまとめると、ネットショップの運営会社がサイト上で何の表示もなければ返品を受け付ける義務があるというのが原則で、これを回避するために、返品は受け付けないという特約を広告に表示し、かつ、いわゆる最終申込画面において特約を見やすい箇所に明瞭に判読できるように表示するなどの措置が必要なのです。
クーリング・オフと返品権の違い
では、この法定返品権とクーリング・オフの違いは何でしょう。クーリング・オフは法9条などに見られますが、片面的強行法規(同条8項)と理解されています。一方、返品権を定めた法15条の3第1項には、ただし書きで、特約を表示することによって例外となることを規定されており、強行規定とはいえません。ほかにも違いがありますが、何といっても強行規定であるか否かが大きな違いです。したがって、ネットショップを含む通信販売については、クーリング・オフはなく、返品権という別の制度があると理解すべきなのです。 (弁護士・軽部 龍太郎)
お問い合わせ
会社:Supported by 第一法規株式会社
住所:東京都港区南青山2-11-17
電話:03-3796-5421
最新号を紙面で読める!