3月11日で東日本大震災が発生してから3年を迎える。福島県では原発事故の影響でいまだに先の見えない状況にあるが、岩手、宮城の沿岸被災地では、がれきの処理にめどが付き、ようやく復興の入り口に立ったところだ。ここでは、被災地の現状と抱える課題、商工会議所が取り組む対応策を紹介する。
住民が戻らず不足する人材
求人倍率2倍超や時給1400円も
沿岸の被災地では、震災後、被災して元の居住地域から避難をした人や職を求めて引っ越した人などが多く、どこも人口減に苦慮している。人口減は、そのまま商圏の縮小や労働力の減少につながる。特に復興に向けて建設需要が本格化する今、労働力不足は、復興の足かせになっている。
原町商工会議所のある福島県南相馬市では、7万1500いた人口が5万1000に減少。商圏の縮小や働き手が不足した影響で、ロードサイドの大型店は震災直後から閉店したままだ。店を開いたスーパーマーケットやコンビニエンスストアなども人手が確保できず「時短営業」を余儀なくされている。原町商工会議所の高橋隆助会頭は、「コンビニのアルバイトも時給1400円で募集しているところもあります」と話す。
昨年8月に有効求人倍率が2・02倍を記録した岩手県の大船渡公共職業安定所管内(大船渡など3市町)では、同12月には1・64倍と少し落ち着いたものの、建築・土木・測量の専門技術職が11・13倍、建設・採掘が4・00倍、誘導員などの保安職が7・80倍と依然として人手不足は続いている。その一方で、事務職は0・36倍。建設業に人が集まらず、事務職に応募が集中する現状が見られる。
高騰する資材が復興の足かせに
グループ補助金に値上り分の追加を
復興の現場では、資材も足りていない。沿岸被災地では復興需要の増加に伴い、生コンクリートの供給がひっ迫している。釜石商工会議所(岩手県)の山崎長也会頭は「砂利などの骨材が釜石には少なく、北海道から運んでいる。原価1リューベ当り3500円の砂利に4000円強の運賃がかかる。これを使いコンクリートにすると1万9700円になる。例えば、栃木県では同じ品質のものが8500円ほどだと聞く。2倍以上の価格の非常に高いコンクリートを使わざるを得ない」と訴える。資材の高騰は、復興住宅の価格に跳ね返る。30坪で1000万円の住宅が資材高騰と消費税引き上げもあり1360万円へと3割ほど上昇する。「価格はまだ上がる気配を見せている」と山崎会頭は警戒する。
技術者・技能者・専門職人の不足と資材高騰の影響で、鉄筋コンクリート造りで計画されていた復興公営住宅が、鉄骨造りに変更されるケースも出てきた。山崎会頭は「これから仮設住宅にいる人が戸建て住宅を建てて本格的に復興する時期なのに、建てられない」と懸念する。
また、資材高騰の影響で、グループ補助金の事業者負担額も交付決定時に比べ約3割増加。山崎会頭は、「まちづくり計画が決定せず、どこに建てられるかも決まらない中で、着工がずれ込むと資材が高くなる。その分の追加補助がないと復興できない事業者も出てくる」と危惧している。
定期的な商談会で販路を拡大
バイヤーから実用的なアドバイス
仙台商工会議所(宮城県)は、百貨店でバイヤー経験のある武藤成昭さんなど3人のコーディネーターを所内に常駐させ、販路拡大を希望する企業の相談体制を強化している。また、昨年4月から地元百貨店や通販、専門店などのバイヤーを呼んで「伊達な商談会」を定期的に開催。仙台では今年2月までに延べ24社56人のバイヤーと361件の商談を行った。このほかに昨年5月には気仙沼、同11月には石巻、今年2月には亘理・山元で全国の百貨店などのバイヤーを招いて復興状況の視察を兼ねた商談会を実施している。
仙台商工会議所中小企業支援部で復興支援を担当する佐藤充昭部長は、「被災地では、生産を再開しても震災前に比べて売り上げが6~7割のところがほとんどです。この商談会では、新たな販路を開拓するために首都圏や県内の流通バイヤーとの接点をつくっています」と話す。震災前から、沿岸部の中小企業がつくった水産加工品は主に地元で消費される地産地消のものも多い。ところが、人口の流出により地元では売れなくなった。
大手チェーンは取り扱いのロットも大きく、生産側が対応できない場合がある。商談会は継続的に小ロットでも買い付けしてくれる百貨店や道の駅、仙台空港、駅などをターゲットにしている。
商談の場では、取引の話だけではなく商品開発についてのアドバイスもバイヤーから受ける。「取り引きが成立しなくても、その理由をバイヤーから聞き出します」(佐藤部長)。
大きいパッケージの商品を作ってきた業者に対してのバイヤーの指摘は、「80歳のおばあさんが1回に食べる量を想定して少量小分けにしてはどうか」というものだった。また、「値段ではなく見せ方が重要だ」とのアドバイスもあった。単なるパックに入れていた水産加工品を酒樽のパッケージに替えるなど付加価値を加える提案もなされた。 商談の場には、商工会議所の職員も同席する。バイヤーと業者の橋渡しをするコーディネーター役を務めるとともに、バイヤーの言葉から商売を学び、現場が分かる経営指導ができるようになるためだ。
また、商談会への参加をきっかけに、経営指導員と話しをするようになり、資金繰りや店舗改装など、他の経営相談につながることも多いという。このため、同所では今後も商談会に力を入れていく。
新規の掘り起しが課題
遊休機械無償マッチング支援プロジェクト
全国の事業者から使わなくなった機械を提供してもらい、商工会議所のネットワークを使って東日本大震災で被災した事業者に無償で提供する「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」。これまでに全国67商工会議所の会員企業332社から提供された機械などが2326件のマッチングにより被災地10商工会議所の236社に渡されている。
現在、被災地からの4232件の要望に対して、113商工会議所から4825件の機械などの提供の申し出があるが、中には特殊なものや高度なもの、カスタマイズされたものなども含まれており、ほかの企業でも使えるマッチング可能な機械の数は少なくなっている。
被災地では、復興が進むにつれ、旋盤、ボール盤、コンプレッサ、溶接機、プレスブレーキ、業務用冷凍・冷蔵設備などの汎用的な機械を中心に根強いニーズがある。日本商工会議所は、昨年12月に改めて各地の商工会議所を通じて機械の提供を呼び掛けている。
全国からの継続的なご支援に深く感謝申しあげます
東北六県商工会議所連合会 会長 鎌田 宏
日本商工会議所はじめ全国の商工会議所会員の皆様方には、震災発生直後から義援金や救援物資の提供、経営指導員の派遣、遊休機械の無償提供など、物心両面にわたるご支援を通じて復興への大きな後押しをいただいておりますことに対し、改めて東北六県の被災地商工会議所を代表し、御礼申しあげます。
早いもので、この3月で震災から3年が経過し、被災地の復興も徐々にではありますが目に見える形で進み始めています。その一方で、地域により抱える課題は異なり、進捗状況にも格差が生まれていることも事実であります。 今もなお約14万人が故郷に帰ることができずにいる福島県では、県民が安心して生活するために最も重要な除染作業が進んでおらず、当該地域の事業者はいまだ事業再開のスタートラインにさえ立つことが出来ない現状です。
また、津波被害の大きかった宮城・岩手両県の沿岸部では、沈下した土地のかさ上げや防潮堤の建設も遅々として進んでおりません。労働力不足・資材価格高騰などの直接的要因に加え、地権者数が膨大なことや、地域によっては区画整理事業の見直しを求める声が高まるなど、時間の経過とともに課題も複雑に変化しており、迅速な対応が求められています。
このような中で、東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一達成や、2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催決定など、スポーツを通じて被災地が勇気づけられるニュースが続きました。私どもとしても、五輪誘致にあたり東京開催の意義の一つに掲げられた「震災からの復興」が加速的に進むよう、東北が一丸となって復興と福島の再生に尽力して参る所存です。
そのためには経済の復興が不可欠であります。震災で失った販路の回復や風評被害払拭・風化防止という課題の解決に向けて、商談会や交流人口拡大のための事業を実施いたします。地域と企業に活力をもたらす施策を実行し、真の復興のため一日も早く地域経済が再生できるよう、日本商工会議所ならびに全国514商工会議所の皆様のお力添えをいただきながら奔走してまいりたいと存じます。
全国の皆様におかれましては、被災地の現状へのご理解と、従前同様引き続きの温かいご支援をよろしくお願い申しあげ、感謝の言葉とさせていただきます。
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