事例1 復興体験で知った若者の意欲と力 宮古を支える人財育成に取り組む
宮古商工会議所(岩手県宮古市)
浄土ヶ浜をはじめ沿岸の美しい風景で知られる岩手県宮古市。震災では多くの被害を受け、中でも基幹産業である水産加工業への打撃は大きかった。他団体やボランティアの支援を受けながら復興を進めてきたが、その中で見えてきたのが、地域の再生にかける若者の力と可能性だという。
自身も被災しながら、会員支援に奔走
―震災では花坂会頭の印刷会社も本社と工場を津波で流されたと伺っています。当時の様子について教えてください。
花坂康太郎会頭(以下、花坂) 本社と工場は閉伊(へい)川沿いにあったため、川をさかのぼって来た津波に全て流されました。私たちは内陸の工場に避難していたんですが、戻ったときは愕然(がくぜん)としましたね。
宮古市では亡くなった方は517人にのぼり、住家被害も大きかったのですが、当然、地域産業への影響も大きく、当時、当所会員は1300事業所ほどでしたが、そのうち約800事業所が被災しました。
中でも打撃が大きかったのが、宮古の基幹産業である水産加工業です。事業所はほとんど沿岸部に集中していましたからね。地元産業の復興が当所の大きな仕事になりました。
―宮古商工会議所も被災企業に対して多くの支援をしてきましたね。
花坂 当所の支援は一覧表にまとめた通りです。水産加工業者の多くは事業を再開するまでに約1年かかりましたが、再開後も苦しい時期は続きました。というのも約1年の間、産品を届けられなかったため、スーパーや飲食店では他のところの水産加工品を扱うようになっていたからです。販路をいかに開拓するかが次の大きな課題になりました。
支援で生まれた数々の連携事業
―他の商工会議所との連携事業もあったと聞きます。どのようなものでしたか。
花坂 仙台商工会議所と宮城県商工会議所連合会の主催による「伊達な商談会」が大きな助けになりました。通常、商談会は仙台で行うのですが、宮古で何度も開いていただき販路の開拓に大いに役立ちました。
また、北海道西胆振地区で、「宮蘭商談会」の開催や三陸沿岸道路を活用した「神社・仏閣マップ」を沿岸商工会議所・商工会と連携して作成しました。さらに本年3月に久慈商工会議所の主幹で「三陸グルメマンガプロジェクト」が発行されます。宮古市をはじめ三陸各都市のラーメン店をグルメマンガで紹介するガイドブックです。
―震災は宮古の観光業にも大きなダメージをもたらしたと思いますが……。
花坂 観光は宮古のもうひとつの基幹産業ですが、震災後、観光客は減りました。が、その後は復興を果たし持ち直しています。
19年2月には英国籍の大型豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」が宮古港に寄港し、宮古のまち中に外国人があふれ、経済効果はかなりのものでしたね。同じ年には「スターレジェンド」や「ぱしふぃっくびいなす」も入港しました。
話は前後しますが18年6月には宮古市と北海道室蘭市を結ぶ「宮蘭フェリー」の運航が始まりました。期待通り人の動きが活発になり、北海道から宮古へ多くの観光客が訪れたのですが、残念ながら貨物の取扱量が伸びず約2年で運航が休止されてしまいました。
宮古は大きな港があることが特徴ですから、港を活性化すれば宮古の経済振興につながるというのが私の持論です。
21年春には2本の復興道路が開通します。宮古盛岡横断道路ができれば盛岡までは1時間で行けますし、三陸沿岸道路で仙台までの時間が大幅に短縮されます。太平洋岸を走る三陸沿岸道路は雪も少ないのでトラックの走行も安全です。陸上交通の整備が進めば、フェリー復活の可能性も出てくるのではないでしょうか。
若者の力に期待、今は人財育成に注力
―宮古商工会議所、あるいは花坂会頭ご自身が考える「今後10年のビジョン」を教えてください。
花坂 震災と復興では本当に多くの経験をしましたが、中でも私が驚いたのは、若者の地域を守ろうという意欲と力でした。本当にすごい。
地元の人間とともに全国各地から来ていただいた支援者が一緒にボランティアの団体を立ち上げたり、商品開発や事業開発を行ったり、いろいろなことに取り組んでいて本当に感心しました。宮古にとって大きな財産です。
10年先に活躍している人たちは、おそらくこうした若者、今の20代、30代でしょう。ですから現在、宮古商工会議所としてもその人たちの育成に力を入れたいと考えています。そこで今取り組んでいるのが「AI・デジタル時代を生きる中核人財の育成」です。
新型コロナをはじめ社会情勢や地域状況はどんどん変わっています。それに対応していくためにもまずは人財。イノベーションを起こすにもやはり人財。そのためまずは当所職員が勉強してきちんとした指導をできるようにし、各事業所をしっかりと支援していく。それがこれからの商工会議所の在り方だと思っています。
会社データ
宮古商工会議所
所在地:岩手県宮古市保久田7-25
電話:0193-62-3233
※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。
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