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テーマ別企業事例 東日本大震災復興特集 被災地商工会議所会頭が描く 10年後の‶東北ビジョン〟

事例3 福島イノベーション・コースト構想で復興速度を上げていく

原町商工会議所(福島県南相馬市)

海沿いの北泉海浜総合公園は津波により大きな被害を受けたが、現在はすでに再整備されている

福島県沿岸部(通称・浜通り)の南相馬市にある原町商工会議所の管内では、ほとんどの会員事業所が原発から20~30㎞の圏内にあり、震災後も原発問題の先行き不透明な状況により、多くの困難に見舞われた。それから10年、同市ではロボットの研究開発拠点が開所し、交通インフラの整備も進展している。そんな南相馬市の今と未来について、原町商工会議所会頭の高橋隆助さんに話を伺った。

ロボット研究開発拠点が開所 地域創生に向けて動き出す

―震災時の貴所管内の被害状況はどのようなものでしたか。

高橋隆助会頭(以下、高橋) 当所管内の南相馬市原町区は、地震、津波、原発事故の被害を受けました。沿岸部は津波により甚大な被害を受け、海岸から3㎞以上離れている中心市街地とその周辺地域は、地震被害と原発事故により屋内退避地域に指定され、市民の市外避難誘導が開始されました。初期において、約7万人だった人口の約85%が避難したことになります。その状況下において、事業を継続している事業所はほとんど見受けられず、地域経済は壊滅的でした。

―現在も原発事故非難指示区域を抱える浜通り地域の復興状況はどのようなものでしょうか。

高橋 福島県の原発事故被災地区12市町村には、国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」が進展しています。この構想に基づき、ロボットの一大研究開発拠点として整備をしてきた「福島ロボットテストフィールド」が、昨年、全面開所しました。またJR常磐線の全線が再開され、常磐自動車道の4車線化も急ピッチで進められており、南相馬市は新しい地域創生に向けて動き出しています。そして本年は、南相馬市で「ワールドロボットサミット福島大会」が開催されます。このビッグイベントによる効果を波及させたいと思っています。

―その一方で、現在も抱える問題点はどのようなものですか。

高橋 多核種除去設備等処理水の取り扱い、汚染土壌の中間貯蔵施設搬入と処分、長期間かかる廃炉作業など、原発事故に起因する課題が存在しており、その影響は管内事業所に根深く残っています。また、人口減少や高齢化などを背景に廃業する商工業者が増加しているなど、立場の弱い中小企業・小規模事業者の経営課題も早くから顕在化してきています。また、東京電力の営業損害賠償金支払い問題も一向に解決されないままです。

周辺地域と連携を取り直接的な経済効果を図る

―今後10年のビジョンに関する取り組みをお聞かせください。

高橋 県内10商工会議所と連携して福島イノベーション・コースト構想を活用することにより、地域経済活性化を図っていくことを目指しています。

一つ目は、企業誘致・工場誘致により地域外の企業に南相馬市内に投資をしてもらうことです。これにより定住・交流人口が増加し、住民にも就労機会の確保が図られます。そして既存の地元事業所にとっては、新規取引が図れることが重要となります。二つ目は、地域ブランディングにより地域のイメージとブランド化を結び付け、好循環を生み出して地域外の資金・人材を呼び込んで持続的な地域経済の活性化を図ることです。

―そのためには周辺地域との連携が重要になってきますね。

高橋 はい。これまで福島イノベーション・コースト構想により多くの拠点が整備されましたが、私たちはその各拠点を利活用し、被災12市町村をはじめ南北約100㎞の範囲にある浜通りに直接的な経済効果を図り、ひいては福島県内全域、東北地方、そして日本全体に波及させることを図っていくべきだと思います。

そのためには、鉄道、道路、空港の交通インフラの活用と、「福島イノベーション・コースト構想」と「国際リニアコライダー(ILC)」の実現などによる、先端産業の一大拠点化などを実現させるため、福島県商工会議所連合会、東北六県商工会議所連合会、日本商工会議所との連携は大変重要になります。

目標とする復興の姿を県、市、民間で共有する

―復興速度をさらに上げるために、今後取り組むべきことについてお聞かせください。

高橋 震災で被害を受けたのは地域住民全体であり、復興すべきは生活、医療、学業、就労、文化、コミュニティなどあらゆる分野に及びます。そこには官も民も関係なく、地域住民全体の将来像が必要です。そのためには、震災前の状況と震災後10年を迎えた現在の状況、向かうべき復興の姿を当初の計画と比較検討して、修正すべきは修正し、推進すべきところは推進をしていくことが必要です。

その上で復興速度を上げるには、目標とする復興の姿を県、市および民間が共有し、ベクトルを合わせなければなりません。それには国、県、市、福島相双復興推進機構、福島イノベーション・コースト構想推進機構、地域商工団体、地域医療関係、教育関係などで協議をする場が必要になると思います。

―最後に、被災地では今後、どのような支援が必要とされるとお考えですか。

高橋 10年が経過した区切りにおける検証が必要です。それを踏まえて、地域将来像の実現に向けて事項計画を検討し直すことが必要になります。その中から、全国に向けてお願いをすべき支援内容が明確化してくると思います。

全国の商工会議所の皆さまには、福島ロボットテストフィールドをはじめ福島イノベーション・コースト構想の各施設のご視察をいただければ幸いです。

会社データ

原町商工会議所

所在地:福島県南相馬市原町区橋本町1-35

電話:0244-22-1141

HP:http://www.haracci.com/

※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。

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