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テーマ別企業事例 東日本大震災復興特集 被災地商工会議所会頭が描く 10年後の‶東北ビジョン〟

事例2 地域資源の活用で交流人口の拡大を目指す

塩釜商工会議所(宮城県塩竈市)

毎年10月、1カ月間にわたり開催される「みなと塩竃・ゆめ博」。「海」「歴史」「食」の三つをテーマにした約50のイベントを博覧会のパビリオンに見立てて実施し、まちの魅力と生活利便性を発信。当所が保存活動に参画した歴史的建造物(右)もにぎわいの核になり、人力車(左)は門前町の魅力を引き立てている

日本有数のマグロの水揚げと魚肉練り製品の生産を誇る水産業のまち、宮城県塩竈市。津波で甚大な被害を受けた同地の塩釜商工会議所は、これまで被災企業に対して販路回復支援を中心に尽力してきた。さらに、今後の地域活性化を目指して、今まで見過ごされていた地域資源を発掘し、交流人口の拡大にも乗り出している。

ハード面の整備はほぼ完了、ソフト面の再生は道半ば

―あらためて東日本大震災当時の状況をお聞かせください。

桑原茂会頭(以下、桑原) 本市は内海である塩釜港に面しています。このため当地の津波は、海水面が急激に上昇し、防潮堤を超え、まち中に流れ込んでくる形となりました。止めどもなくあふれ出た黒い津波は、中心部の6割が埋め立て地といわれるまち中で、低地を求めるようにうねり狂い、車や人を巻き込み、基幹産業の水産加工業にも甚大な被害を与えました。

―塩竈といえばマグロやかまぼこが有名ですが……。

桑原 日本有数の生鮮マグロの基地です。そして魚肉練り製品などの水産加工業も盛んです。しかし、津波被害で水揚げや生産がストップしている間に、関東圏や関西圏のスーパーで展開していた売り場を失ってしまいました。生産体制が復活しても、以前のように取引をしてもらえないケースが多くありました。また、この辺りでは「アマモ」と呼ばれる海草が広く生息していて、ハゼなど多様な魚の生息場所になっていました。しかし、津波で海草が流されてしまったために、稚魚が育つ環境もいまだ回復せず、浅海漁業も厳しい状況となっています。

―震災から10年がたちましたが、産業全体の復興状況はいかがですか。

桑原 水揚げや水産加工業は震災前の状況まで回復していないため、関連する鉄工所や造船業、修理工場なども元気を取り戻せていません。まちのシンボルである魚市場、そして災害公営住宅、防潮堤など、ハード面の整備はほぼ完了しましたが、中心市街地のまちづくりや商業・観光の再生など、ソフト面の充実が課題になってきました。

販路回復と地域活性化に向けシティーセールス事業を推進

―被災企業に対して、特に力を注いできたことは何でしょうか。

桑原 震災直後から3~4年は資金繰りや雇用関係の相談が多く、補助金や各種助成金の申請支援などがメインでした。そしてその後の重点課題は、販路の回復・拡大支援へと変わってきました。その対応策として、水産品を中心とした「塩釜フード見本市」などを開催し、新たな販路獲得に向けた商談機会を提供しています。地域の高校生や当所女性会とコラボした企画ブースの設置、出品食材を使った独自メニューの提案など、工夫を重ね、毎年1000人を超えるバイヤーが来場しています。

―他の商工会議所と連携した事業はありますか。

桑原 まず遊休機械無償マッチングやPC無料配布支援など、日本商工会議所はじめ、多くの商工会議所の皆さまに大変なご支援を賜りました。その太い絆に、この場をお借りし、心からお礼申し上げます。また当県では仙台商工会議所に事務局があります宮城県商工会議所連合会を核として連携を深めています。特に商談会は、連合会が百貨店や商社のバイヤー経験者をコーディネーターとして採用し、多方面にわたるサポートを行っていただいています。成約率も格段にアップしました。被災企業の経営改善につながる指導もあり、これからの商工会議所活動のヒントになるとも捉えています。

―地域独自の取り組みなどはありますか。

桑原 震災後から会員アンケート調査を行っています。会員事業所が当所に対して求める声で最も多かったのは地域活性化です。塩竈は「社(やしろ)と海のまち」として、奥州一宮の塩竈神社や江戸時代から残る歴史的建造物、造り酒屋など、多くの地域資源があります。それらの隠れていた魅力を市民と共有するために、2013年から毎年「地域資源勉強会」を開催しています。

―地域資源は見過ごされているケースが意外にあるものです。

桑原 まさにその通りです。会員事業所にとっても、市全体としても、東日本大震災による疲弊を乗り越えるためには、そうした地域資源を活用して交流人口を増やしていくことが重要です。その具体策として、15年から「みなと塩竈・ゆめ博」を開催しています。1カ月にわたる大規模なイベントで、仙台圏を念頭に置いた、まち全体を売り出すシティーセールス事業です。

次なる展開は地域資源のブランド化

―これからの10年を見据えて、描いているビジョンはどういったものですか。

桑原 地域資源勉強会で地域の魅力を再確認し、「ゆめ博」を通じて広く発信していくという流れができており、今後も続けてまいります。そしてこのイベントによって、当地の知名度が格段に高まってきています。次の段階としては、地域資源のブランド化に力を入れたいと考えています。

例えば、宮城海上保安部の巡視船の料理長直伝レシピを基につくった「みなと塩竈海保カレー」を、市内八つの飲食店で提供しています。海上自衛隊とコラボしたカレーは全国各地にありますが、「海保カレー」はここにしかありません。昨年4月にはレトルトカレーも発売されましたし、現在大手パンメーカーからカレーパンの商品化の依頼も来ており、今後が楽しみです。

―最後に、全国に向けて今後必要な支援などメッセージをお願いします。

桑原 当地では人口減少や高齢化が進む中、まさに「真の地方創生」が求められています。地域資源勉強会で見いだした素材を磨き上げ、小規模であっても「塩竈」として語られるオンリーワンのまちづくりを行ってまいります。コロナ終息後にはぜひ塩竈に足を運んでいただき、新たな塩竈の魅力をお楽しみいただきたいと思います。

会社データ

塩釜商工会議所

所在地:宮城県塩竈市港町1-6-20

電話:022-367-5111

HP:http://www.shiogamacci.jp/

※月刊石垣2021年3月号に掲載された記事です。

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